死後の世界2
筆の先端はいつも光輝いていたはずの『蛍光の筆』だが、今はただの白い筆である。しかも折れてる。
「レイジの襲撃で咄嗟にこの『蛍光の筆』だけ手に取ったんだけど、何かの反動で折ってしまったのよ」
折ってしまった件についてはシャルロットを責めることはできない。というのも、あの状況下でレイジに秘宝を奪われないようにするのが最優先だったわけだしね。
「魔術的な何かでくっつけられないかな?」
「……ご飯粒でやったけど無理だった」
秘宝になんてことを!
「となると原初の魔力『光』を保持している人を探すしかないの?」
「……うっ」
ん?
「パムレちゃん?」
「……いや、『光』の保持者はちょっと苦手。というか強い。と言っても敵ではない」
パムレが強いって言う人物って本当に強いから嫌なんだよね。まあ、顔を知っているだけまだ良いだろう。
と、そんな話を続けてたら扉からコンコンと音がした。
「はーい、どちらさま?」
『ミリアムです。小腹が空いたでしょう。おにぎり作ったので食べてください』
「助かります!」
そう言って扉を開けた。
母さんそっくりな少女ミリアムさんがおにぎりを持ってきてくれた。
けど、その後ろに鉄の首輪をつけて同じくお盆とおにぎりを持っているすげー綺麗なお姉さんに目が行った。
「えっと、ん? どちら様でしょうか」
「あ、気にしないでください。『ただの女神』です」
ただの女神!?
金色の髪が足まで伸びていて、白い羽衣で身を包む凄い綺麗な美女が泣きながらおにぎり持ってきてるのに、気にしない方がおかしいでしょ!
「酷いですよミリアムさん! ちゃんと紹介してください!」
「はいはい。この神は『運命の神フォルトナ』です。以前言ったこの世界をうっかり作ってしまった張本人です」
やばい人じゃん! いや、神か。いや、それにしたって今神って言ったよね! 聞き逃していい言葉じゃなくね!?
頭が追いつかなくて冷静とツッコミが交差してるよ!
「初めまして! あ、おにぎり冷めないうちに食べてください!」
「これはご丁寧に」
とりあえず勧めるがままにおにぎりを一つ口に入れる。うん、普通のおにぎりだ。だけど全然味に集中できない。すごい質問したいことが頭の中に渦巻いてるよ。
と、そんなことを考えていたらフォルトナさんがニコニコとミリアムさんに話しかけた。
「ミリアムさん良かったですね! 特訓の末、ようやく『人が倒れないレベルのおにぎり』が作れましたね!」
「余計な事を言ったので『空腹の小悪魔』を枕元に忍ばせます」
「いや本当にごめんなさい。あれ結構驚くんですよ? 目を開けたら顔と同じくらいの大きさの目玉があるのですよ!」
うん、やっぱりこの人母さんの姉だ。お仕置き方法が母さんと一緒だ。
「こほん。お話は進みましたか?」
「はい。お陰様で色々と方針が決まりました。まずは『原初の魔力』の光の保持者の所へ行こうかと」
「ふむ、そうですか。『どうやって』?」
その質問に少し沈黙が続いた。
え、どうやってって……。どうやるんだろう?
ここに来るときはパムレがネクロノミコンを使って来たんだし、同じ方法を使えば良いのかな?
と、おそらくパムレは俺の心を読んでいるだろうし、良い答えを期待してパムレを見た。
「……ごめん。無くした」
「ちょっと!?」
パムレって時々ポンコツだよね! シャルロット的にはその辺も含めて可愛いとか言うのだろうけど!
「……これに関しては不可抗力。転移の際にネクロノミコンはパムレの手から離れた。正直こればかりはどうしようもできなかった」
うーん、そう言われるとパムレを責めることはできないし、とりあえずできることを考えるしかないのか。
「見たところパムレさんは相当な魔術師みたいですね。魔力量も桁違い。何とかしてあげたいところではありますが」
母さんの姉にして魔術研究所の二代目館長。一代目は数か月で全ての魔術を理解し、二代目は悪魔術を覚えた天才。三代目が母さんと言うのがちょっと笑えてしまうけど、とりあえずその二代目館長ならば何か思いつくだろうか。
「二つほど方法はあります」
「二つも!?」
シャルロットが立ち上がりミリアムさんの肩を掴んだ。
「教えて頂戴! そのためなら手伝いとかいっぱいするから!」
「その元気の良さ。『シャルドネさん』にそっくりですね」
苦笑しつつも聞き覚えのある名前が聞こえた。確かシャムロエ様の娘さんだっけ?
「一つはこの子……フォルトナの『運命の神』としての力を使います」
運命の神。そもそも『運命』という魔力を俺は知らない。いや、母さんがそれに関する何かを言ってたとは思うけど、思い出せない。
そんな事を考えていたらミリアムさんが人差し指をフォルトナさんに指して言った。
「フォルトナをポンすることで、皆さんをポンさせて、地球へポンできます」
「それで行きましょう」
「良く無いですよ! 何ですか『ポン』って!」
真顔で言うのやめてくれません?
しかも顔つきが母さんそっくりだから余計に笑えないんだけど!
「冗談です。もし『ポン』作戦がお手軽で何度も使えるなら『ポン』して私はフーリエに会いに行きます。あ、補足ですが『ポン』して移動は本当にできますよ? ですが『ポン』の後処理を考えると最終手段として残しておきたいのでやってないだけです」
「だからその『ポン』をやめましょう! シャルロットも手をわしゃわしゃしてフォルトナさんに近寄らないの!」
何で俺が止めに入らないといけないの!? フォルトナさんがすごく怯えてるよ!
「もう一つはここから少し離れた場所に一人の科学者が住んでいます。実は私も魔力不足でこの世界から出れなかったのですが、そちらのパムレさんがいるならもしかしたら転移術の術式を導き出せるかと」
「なるほど。じゃあ無理だったら『ポン作戦』ね」
「そろそろ泣いていいですね! もう大泣きしますからね!」
よほど気に行ったんだねその単語! ポン言うとき凄く勢いを感じられるよ。
「……『ポン』は現実的では無いけど、科学者というのが興味がある。名前は?」
珍しくパムレが他のゴタゴタを遮ってミリアムさんに質問をし始めた。
「『クアン』という方です。元々地球の人で、あらゆる仕組みを一目で見抜く天才ですね」
「……そ」
ん? 最初は興味津々だったパムレが一気に興味を無くした気がした。
「クアンは今日は森に出ているので、会うのは明日が良いかと。朝は絶対に居るので、その時ご案内しますよ」
「ありがとうございます」
と、お礼を言った瞬間、ミリアムさんはすさまじい速さで俺の目の前に近づいた。
「さて、取引成立です。お手伝いをお願いしますね」
へ?
☆
「違います。ここのちょうど穴の開いた部分をザクっと入れて」
「こ、こうですか?」
「そしてスーッと行けば。ほら、身と骨が分かれるでしょう」
「本当です! では裏返してこうすれば……おお! これが三枚!」
俺は今、ミリアムさんに料理を指南していた。
正直なところ、母さんにそっくりだからすげー複雑なんだけど!
声も似てるし顔も似てるし身長も同じだし、ナニコレ。
そして何よりすげー温かい目でシャルロットが俺とミリアムさんの料理風景を見ているのがもうモヤモヤするんだけど!
「なんかこう……家族って感じね」
「ざっくりとした関係を言ってしまえばミリアムさんは俺の『伯母さん』だからね!」
「おば!?」
何故かショックを受けるミリアムさん。
と、そこへフォルトナさんが隣にやってきて声をかけてきた。
「すみませんね。私のご主人は料理が破壊的に下手で」
「仕方が無いでしょう! フーリエが家事全般やってくれたのでやる暇が無かったんです! 魔術研究所の館長って鬼辛いんですよ!」
ぷんすかと怒りながらも魚の骨を一本ずつ取っていく。
と、そこへミルダ様が俺の所へ来た。
「お米の準備ができました!」
「ありがとうございますミルダ様」
「……パムレも手伝った」
「偉い偉い」
なんか皆で料理と言うのも悪くはないな。
「ふふふ。シャルロットさんは私と一緒でぐーたら組ですね。食べる専門同士仲良くしましょうー」
「何言ってるの? 私は仕事を終えたからここでゆったりしてるのよ?」
「へ?」
うん。
すでにシャルロットには野菜の千切りをお願いしてたんだけど、切ることに関しては俺よりも優れているせいか、一瞬で終わったんだよね。
「あ、フォルトナ。働かざる者食うべからずなのでフォルトナのご飯は無しです」
「待ってください! 今運命的に仕事を増やしますのでそれだけは!」
運命的に仕事を増やすって何?




