集う原初の魔力
「この陣を使えば孤島へ飛ぶことができます。利用してください」
ミズハさんの案内により、リュウグウジョウの広場の中心部に集まった俺たちは、孤島へ向かう準備をしていた。
と言っても転移的な奴を準備するって言われたし、特に準備する物はないんだけどね。
「ねえリエン。転移術って私初めてなんだけど、どんな術なの?」
「いや、俺もさすがに使ったこともないし、凄い高度な術って聞いたけど」
そもそも転移って原理がわからないんだよね。物質の移動というか空間すらもすり抜けていくとか、もうよくわからないことだらけなんだよね。
「それでは皆様、またお会いしましょう。クロノ様も今度はゆっくり遊びに来てください」
『無理なのです。こいつが生きている限りは自由はないのです』
シャルロットの頭の上でピョコピョコするクロノ。もうそこが定位置なのね。
『ふむ、小っちゃい先輩として我らは何か助言した方が良いかのう?』
『魔力お化け先輩ー。ウチたちはどうすれば良いー?』
「……異議あり。パムレはそこまで小っちゃくない」
相変わらず緊張感のない人?達である。
「これから転移するわけだし、ジッとしてた方が良いんじゃない?」
「……転移? この陣は転移じゃないよ。『転移的なやつ』」
「え?」
その瞬間。
すさまじい爆発が。
俺たちの足元から鳴り響き、俺たちは海を突き抜けて空に吹っ飛んだ。
「ぬおあああああああああああああああああああああ! ちょ、そら、そらあああああああ!」
「な、なるほどおおおおお、転移術ってこういうものなのねええええええええ!」
「絶対違うでしょおおおおおおお! ちょ、パムレえええええ!」
「……あ、ん? ごめ、微調整超難しいから話しかけないで。失敗すると地面にたたき落とされるから」
先に言えよ!
『リエン様よ。いざとなれば我やフェリーが何とかしよう。魔力お化けは自分で何とか出来るだろうし、シャルロット殿もクロノ様がいるから大丈夫じゃろう』
すげー頼もしい!
ん、ちょっと待って。
「フブキは?」
『い、祈るしかないかのう』
「な!?」
フブキが今の言葉を聞いて空中で気を失ったよ!
「……大丈夫、二人くらいはパムレが何とかする。あ、孤島が見えてきた」
凄まじい速さで孤島に飛んでいく俺たち。そう言えばパムレが海の地に飛んできた時とかもこんな感じだったのかな。
「……じゃあ着陸するから動かないでね」
☆
「新たな浸水! 船長、やばいです!」
「馬鹿野郎! 大声出すんじゃねえ! シャルロット様に聞こえるだろうが!」
「はっ! その、総員で何とかなる浸水です! いやー、いい感じに皆さま落ちてくれて助かりました!」
本当にごめんなさい!
でも言い訳させて! まさか落下地点にガラン王国の船があるなんて知らないよね!
あと『何とかなる浸水』って何!? 船って浸水したらもう運命決まってない!? あと同じ悲劇が以前にもあったよね!
「……いや、予想はできた。シャムロエもここに来ることになってるなら、船の一隻や二隻はここに集まってた。地面に着陸するようにちょっと軌道修正したけど……」
「けど?」
「……向き間違えた」
犯人この人です!
船に向って直撃させた人この人ですよ船員さん!
『まあ、仕方がないじゃろうて。途中で身体強化に硬化魔術を付与して落下地点が海の上では無く地上(船)だっただけマシじゃよ。それを制御した魔力化けはやはり化け物じゃよ』
「……失礼。パムレはお菓子大好きなか弱い女の子」
か弱いという部分にはいくつか疑問を覚えるが、とりあえずセシリーの言う通りではあるかな。
「到着したわね」
と、森の奥からシャムロエ様が歩いてきた。
隣にはミルダ様も立っていた。
「シャムロエ様、そしてミルダ様。お久しぶりです」
「はい。お久しぶりです。あ、あちらでフーリエさんがお茶を出しているので皆さま来てくださいとのことです」
「詳しい話しはそこで話すわ」
☆
「まずは……えっと、これが?」
シャルロットは指でツンツンとクロノを突いた。
『遊ばないで欲しいのです! お前はかなり昔に一度私を見たことあると思うのです!』
「いや、確かにそれほど話す仲では無かったけど、その時ってもう少し大人の姿だったような」
「大叔母様。これには深い事情があります」
「それは……」
「思いっきりちっちゃくなって欲しいナーって念じてしまった結果、こうなりました」
「反省部屋に原稿用紙五千枚準備しておくから覚悟しておきなさい」
シャムロエ様がお怒りだよ! というか何でそんなこと思っちゃったの!?
「待ってください大叔母様! だって、リエンが羨ましかったのです! いつもセシリーちゃんやフェリーちゃんを肩に乗っけているのですよ!」
泣きながらシャルロットはシャムロエ様に訴えた。
「リエンも原稿用紙五千枚書きなさい」
「待って。俺悪く無くね!?」
完全なとばっちりだよ!
と、そこへ母さんが登場。
「リエンを監禁するのですか? それはワタチが許しませんよ?」
あー! 完全に母さんも急に怒り出したよ! 母さんに関してはいい加減子離れしてよ! 心配してくれるのは嬉しいけど!
「フーリエを敵には回したく無いわね。くっ、仕方が無いから家で五千枚で許してあげる。さて」
「『さて』じゃないよ!」
「す、凄いわねリエン。大叔母様に鋭いツッコミはさすがの私もできないわよ」
いやいや! 絶対突っ込む流れでしょうが!
「仕方がない。原稿用紙五千枚……あ、シャルロットの分も合わせて一万枚はラルト隊長に回すとして、とりあえず明日の予定を話すわね」
つ……突っ込まないぞ! もう俺は疲れたぞ! たとえラルト隊長の目の周りが真っ黒になってても普通に接するからね!
「原初の魔力の秘宝五つの内四つは私達の手元に。そして時間に関する神様……神様? とりあえず関係者としましょう。それらをしっかりと揃えてくれて感謝するわ。リエンには感謝してもしきれないほどね」
そう言ってシャムロエ様は頭を下げた。
実際集めたのは秘宝二つと神様一体だけどね。
残りの精霊の鐘(鉱石)と静寂の鈴(音)は僕たちは何もしてないからね。
「ちょ、頭を上げてくださいシャムロエ様。さすがに恐れ多いです」
「いえ、フブキと何とか接触して情報を入手して、フーリエに無理を言ってお願いをしてリエンの剣術指南を延長させてしまったから、この頭は何度でも下げさせてもらうわ。ちなみにトスカにはすっごく怒られたからもう心は折れてるわ」
トスカさんどんだけ怒ったの!? シャムロエ様の瞳からすげー涙出てきたんだけど!
「それで大叔母様。ミルダ様も集まってガナリちゃんやクロノちゃんもいる。この場に色々と集まったわけだけど、この後はどういう予定なのでしょうか?」
シャルロットの質問にシャムロエ様が答えた。
「どうしましょう」
全員が口に含んでいたお茶を噴き出した。
「え? え? どうしましょうって、どういうことですか?」
「あ、いや、レイジがこれらを集めて何かするらしく、危険行為をする前に先手必勝で秘宝集めをしたんだけど、その後の事は考えてなかったのよね」
ちょっと待ってよ! トスカさんもう一回この人説教してくれないかな!!
と、心の中で突っ込んでいたら、何やら胸騒ぎを感じた。
「……伏せる! レイジ、来た!」
パムレが叫んだ。と、同時に大きな爆発が宿のすぐ外で発生し、机や食器が一気に吹っ飛んだ。
「リエン! ミルダを!」
母さんの声が聞こえ、俺はすぐにミルダ様の前に出る。
「これは……」
リーンと鈴の音が聴こえる。しかしミルダ様はその鈴を見ながら驚く表情をした。
「リエンさん、これは魔術的なものではありません。火薬などを使った爆発です!」
「なっ!」
ミルダ様の持つ静寂の鈴は魔力を抑え込む効果がある。つまり先ほどの爆発も魔術であれば無効化できる。しかし、爆発は未だ何度も続いて外から聞こえてくる。
「のう魔術研究所の館長とガランの先代女王。ここは協力せぬ?」
フブキが刀を取り出し、扉の前に立った。
「仕方が無いわね。フーリエ、後方頼める?」
「わかりました」
「母さん、一体何を?」
「相手はレイジです。ここは大人のワタチ達が盾となるしかありません。『マオ様』、あの本を使ってお願いをできますか?」
「……今やってる。でも保証できない」
一体何を!
その時だった。
「みーつけました。ワタクシの獲物たち。一か所に集まってて助かりました」
不気味な笑いと共に白髪の男が迫って来る。いつ見ても気味が悪いオーラを醸し出している男ではあるが、今回はより一層おぞましく思えた。
「久しぶりですねガラン王国先代女王。わざわざワタクシの欲しいものを一か所に集めてくれてありがとうございます。ついでにその『ネクロノミコン』を渡してくれても?」
「それは無理な相談ね。マオ、まだかしら?」
「……良いよ。ただし今回はマオも無理をする。もし無事に帰ってきたら、大量のパムレットをお願いするね」
「わかったわよ!」
「だから一体何を」
「リエンが帰ってくる頃にはこの場は平和な宿屋になっているでしょう。どうか絶対、ワタチのもとへ帰って来てください」
母さんの声がかすかに聞こえた。
その瞬間。
ありえないほどの光が目に突き刺さり。
そのまま俺は気を失った。




