ガラン王国で特訓2
ラルト副長が事務処理を少し行うとのことで、一時間ほど自主練習となった。
シャムロエ様のご厚意で、この数日間ラルト副長の仕事は俺に付きっ切りの剣の修行にしてくれたらしい。
イガグリさんに副長が数日間俺に付きっ切りで良いのか聞いたところ『あの人、全然休まないっすから、こうでもしないとダメなんす』だとか。なんやかんやでガラン王国軍は固いイメージがあったけれど、良い職場みたい。
まあ、簡単に変な罪状を押し付ける国でもあるけどね。
で、一時間ほど自主練習と言われてもどうしようかーなんて思っていたら、イガグリさんから
『あっちの広間に今すぐ行ってみるっす』
と言われた。
ガラン王国軍の訓練所は二か所あり、一つは大きい広間。もう一つはちょっと狭い『何かあった時用』という感じで申し訳程度の広さの場所だ。
そこでは……。
「はあ!」
「あと少しですぞ! シャルロット姫!」
「魔力をもっとこう……中心に!」
「せえい!」
「ああ、惜しい!」
「ちょっとばらけました」
「ぬあ!」
「あー、ギリギリです」
「何やってるの?」
中心にはシャルロット。その隣にはローブ姿の二人の男性が立っていた。魔術師だろうか?
「見ての通り魔術の特訓よ?」
「そうですぞ。あと少しです!」
「惜しいのですが」
おしい……え……。
「全然魔力が見えないけど……」
「なっ!」
空気が凍ったのがなんとなくわかった。あ、これは言ってはいけないやつだったらしい。
「ち、違いますぞシャルロット姫! 私には見えました!」
「そうです! こう……火の粉のような、わずかにも美しい」
「うるさい! というかリエン! この杖壊れてるんじゃないの?」
そう言ってシャルロットは俺に杖を渡してきた。
「杖が壊れている……と言われても。杖の状態は正直関係ないよ? ほい、『火球』」
ぼっ!
小さい火の球を出した。
「わ!」
「おお、さすがシャルロット姫の選んだお方」
「見事な魔力の形でしたな」
まあ、これくらいは初歩だからね。そう思いつつシャルロットに杖を返す。
「そんな……杖は壊れてない……」
「杖を意識しすぎだと思うよ? 例えばこの短剣に魔力を込めれば……はっ!」
短剣の先端に魔力が流れるように念じると、短剣の先端に火が付いた。
「え! 何で!」
「きっと想像の仕方の違い。魔力は自分が出す。杖はその魔力を増幅させる道具なんだ。この短剣の場合は増幅させる効果が無いから、俺の魔力がそのまま流れただけだしね」
「魔力は自分が……」
そう言ってシャルロットは杖をじっと見つめた。
その間ローブを着た二人はうんうんと頷いて俺を褒めていた。
「流石シャルロット様に選ばれた方。教え方が『魔術研究所の館長様』とそっくりですな」
「魔術研究所の館長?」
「我々はゲイルド魔術国家から派遣された魔術師なのです。新人の頃は館長様に色々と魔術について教えてもらいました」
ゲイルド魔術国家の魔術研究所の館長……確か母さんと同じ名前なんだよね。ちょっとどういう人か気になるな。
「どんな感じの人なの?」
「『館長様』は実のところ我々は見たことがないのですぞ。国の上層部やそれに等しい地位の方……ミルダ様やシャムロエ様などしかその顔を見たことが無いとか」
「え……ちなみに実在するんだよね?」
「はい。館長室で仕事をされています。中から声も聞こえますし、話す時は大体廊下で扉越しの会話となります」
一体何者なんだ……母さんと同じ名前の凄い人。
そんなことを思った瞬間。
「『火球』!」
シャルロットの声が響いた。
これは……。
「はあ、結構頑張って想像したけどやっぱり無理よー」
「いや、今のはちょっと惜しかった。魔力の流れはあったから、あとは『火』の想像をしっかり持てば出せるよ!」
実際シャルロットは盗賊に対して火を出している。コツさえつかめば絶対に出せるはず!
「ほら、盗賊に向かって放ったように想像すれば!」
「え……」
ちょっとした沈黙。
「盗賊? 何のこと?」
「え、タプル村の盗賊に向けて放ったじゃん。そして少しだけど服を燃やしたじゃん……」
「全然覚えてないんだけど! え、私魔術使ってたの!?」
自覚無かったの!?
「しゃ、シャルロット様! 希望はありますぞ! 今の『火球』は火こそでなかったものの、魔力はありました! 『今までと違って』!」
「そうですぞ! 『お世辞で言ってましたが今のは本当に魔力がありましたぞ!』!」
「貴方達は後で近接部隊の訓練を受けさせるわ」
「「えええ!」」
まあ、そうなるよね……。
「リエン、ありがとう」
「え」
「自覚は無かったけど魔術を使っていた。これは私にとってすごい自信になるわ。なんというか、今までの努力が報われたような気がするの。その……すごくうれしい!」
目に涙を浮かべながら微笑むシャルロット。こういう時なんて言えばよいのかわからないけど。
「その……おめで「リエン殿、お待たせしました。さあ訓練を始めましょう」」
……。
こうなったらヤケだ!
午後もしっかり頑張って、強くなってやる!




