久々の再会
部屋の準備をするために宿の広い場所の一角を借りてお話をすることになった。と言うかなっちゃった。
「時々シャルロットって姫かどうかわからなくなるけど、改めて姫なんだね」
「普通に話してくれる方が助かるからリエンには姫扱いしないでもらった方が助かるわね」
正義の拳によりフブキは現在シャルロットの膝の上に乗っている。『とりあえず命令。膝の上』と一言言うと、フブキは何も言わずにシャルロットの膝の上に乗っかった。
「儂……死刑?」
「何もしないなら許すわよ。それよりもフブちゃんの知りたいことは私が代わりに聞いてあげるわよ」
「シャルロット殿……」
涙目のフブキ。一方。
「俺、領主様の上司だったんすね。え、じゃあ命令とかしていいんすか?」
すげーイガグリさんが目をキラキラさせてるんだけど!
「フブちゃんへの命令は許可制よ。私を通しなさい」
「マジすか!? じゃあ寮の布団の洗濯を」
「却下。今は私の護衛だから無理よ」
「がーん」
何故がっかりするの? というか寮の布団の洗濯ってそんなに大変なんだ。
「それよりも、改めまして私はシャルロットガランです。初めまして、ヒョウケツさんにサクラさん」
「ガラン王国の姫を目の前に、大変恐縮です」
「一晩とは言え、誠心誠意お世話させていただきます」
「単刀直入に聞くけど、フブちゃん……フブキの両親ですか?」
おー、シャルロットがフブキって言ったぞ!
「「はい。そうです」」
……え、あっさり言っちゃったよ。
「むぐ!? 待ってください。え、私は何故今肯定を!?」
「貴方も!? え、何故!?」
戸惑う二人。え、どういう事だろう。
『ふむ? 忘れたかリエン様よ。シャルロット殿は音の魔力を使った。それに対して相手に本当のことを言わせるという『念』でも送ったのじゃろう』
便利だな音の魔力!
「何故じゃ! 死んだはずじゃ!」
「バレてしまいましたか……いやはや、こういう形で娘と再会するとは思いませんでした」
「フブキ、大きくなったわね」
サクラさんがそう言った瞬間、フブキは目にも止まらぬ速さで武器を取り出し、ヒョウケツさんの顔の横ギリギリの所まで武器を振った。
「フブちゃん。気持ちは分かるけど、今は抑えなさい」
「くっ!」
すげー。この場で驚いてるの俺だけかよ!
「技術を教えてくれたことは感謝する。が、領主の座を投げつけ血だらけの世界に放り込んだ貴様たちの所業は許さぬ。死んでおるなら納得はできるが、ここでのうのうと生きておったとなれば話が変わる!」
「話しを聞いてくれフブキ! 二つ理由があるんだ!」
そしてヒョウケツさんは言葉を振り絞るように言い放った。
「ここの店主さんの料理が……美味かったんだ」
うそでしょ!?
「フブちゃーん。落ち着くのよー。よーしよし」
「……」
絶対シャルロットは音の魔力でフブキを抑え込んでるよね! フブキの表情が笑ったり怒ったりと普段見せない形になってるんだけど!
「それで、もう一つという理由は?」
「それはあれです」
サクラさんが指を刺した先には母さんがいた。
その後ろには小さな子供が? まさか……。
「フブキの妹。『コハル』よ」
「はーいフブちゃーん。お姉ちゃんになったんだから落ち着こうねー」
「あぐおがぎごぐぎ」
フブキが壊れかけてるよ! いや、もう壊れてるよ!
「ととさま! おきゃくさん?」
「コハルに前教えただろー? お姉さんだ」
「おねえちゃん!? わー! きれー!!」
黒髪で目がぱっちりしている小っちゃいフブキが走ってきた。
シャルロットの膝の上に乗っかるフブキの上に乗っかり、キラキラした目でコハルちゃんは話し始めた。
「こはるはね! こはる! ふぶきおねえちゃん、はじめまして!」
「うむ……良き教育を受けておるな」
「てんしゅさまがおべんきょうおしえてくれてるの!」
「今更だけど母さんはこの事知ってたの?」
母さんはこっちに近づき、その真実を言う。
「いや、知るわけ無いでしょう。秘密主義の影の者の所在なんて興味無いですし、リエンの事で手一杯なんですから」
「あの、普通の回答しないでくれる? いや正しいんだけどさ!」
いつもの流れで『実は知ってました』とか言うと思ったよ!
「ここには住み込みで働かせてもらっている。コハルが成長したら戻るつもりだったが、まさかフブキがここへ来るとは思わなかった」
「順番はどうあれ良かったじゃない。両親との再会と可愛い妹と会えたのよ?」
「ふむ……」
そこで考え込むフブキ。
「解せぬ。理由はどうあれ村から出て行ったことは目をつむる。しかし何故イガグリが何かを知っている状況に立っている?」
確かに。先ほど脅されていた時、旦那様に殺されるーって言ったという事は、少なくともつながりはあったということだろう。
「あはは。さすがは領主様っす。その、実は俺が村を追い出された理由がこれっす」
「理由?」
「旦那様の修行が嫌になって村から出ようとした時、旦那様から提案を持ちかけられたっす。『俺たちを村から出してくれ』と」
「どういうことだ」
「イガグリ。やめろ」
「海の地の宿の飯を毎日食べたい。フブキには申し訳ないが俺たちを死んだことにして村から出る手伝いをしてくれないかって言われたっす」
ダメ親じゃねえか! と言うか本当に母さんの料理に惚れたの!?
「イガグリ、とうとう言ってしまったな。どうなるかわかってるな」
「ふふふ、体が訛っているとは言え、貴方の息の根を止めることくらい簡単よ?」
おおー、ヒョウケツさんとサクラさんの目の色が一気に変わった!
「リエン、今日のご飯何が良いですか?」
「いや母さん!? この状況で良くそんなこと言えるね!」
話についていけないよ!
「他人の家庭に口を突っ込んではいけません。他所は他所ですよ」
「そうね。他所は他所ね」
シャルロット!?
「えっと、ヒョウケツさんにサクラさんはここの従業員なのですよね?」
「そうです。シャルロットガラン様」
「実はガラン王国はこの『寒がり店主の休憩所』とは後払いシステムという契約を結んでいて、言ってしまえば客なのよ」
「はあ」
「そんな寒がり店主の休憩所の従業員が客であるガラン王国の兵士に危害を加えたら、どうなると思う?」
「あ、ちょっと聞き捨てならないです。二人は即解雇します」
「「ええ!?」」
さっきまで『他所は他所』って言ってた人がさらに一転して話に加わってきたよ!
「あと、今『影の者』の集落は私の配下になっているの。畑の提供や住人達とのつながりを構築したのだけど、『影の者』の関係者にガラン王国軍の兵士が危害を加えたとなったらすぐに制裁を下すわよ」
「おい待てフブキ!『影の者』がガラン王国の配下!? 聞いて無いぞ!」
「当然じゃろうが! 貴様たちは死んだと言われていたからな! 儂の集落の決め事に他人が口を出す方が変じゃろう!」
「ぐっ!」
すげー。シャルロットが色々と正論っぽい事を言っているよ。難しくてよくわからないけど、説得力はめっちゃあるなー。
「ふむ。おおよその理由は分かった。コハル、済まぬが膝から降りてくれぬか?」
「あい!」
「かたじけない。そしてイガグリ。申し訳ない。親族が迷惑をかけた。この罪は一生を持って償おう」
「領主様!?」
驚くイガグリさん。
「いや、良いっす。過ぎたことっす。今ではリエン殿のお陰で村にも戻れるので」
「ふむ。して、そちらの親……らしき人に尋ねよう」
らしき人……。どういう意味だろう。
「儂の親なら儂に刀で勝てるはずじゃ。一本手合わせ願う」




