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海の地

「……ということでぶっ飛ばすからしっかり捕まっててね」

「本当に行くのですか?」

「……当然。馬車だと時間かかるし、フーリエだけだと万が一魔力切れでどこかに落ちかねない」

「パムレ様が魔力切れする可能性は?」



「……ゼロ。じゃ、リエン、シャルロット。後でね」



 ばああああああああああああああああああああん!



『ぎゃあああああああああああああ!』



 パムレは母さんを背負って空を飛んでいった。

 今更だけどゲイルド魔術国家からガラン王国に船で行くとき、パムレだけ飛んでいけたんだなーと思った。護衛のためについて来てくれたんだろうけどね。

「パムレちゃんがいないのは寂しいけど、海の地までの辛抱だし、我慢しましょう。あ、フブちゃんは常に姿出してて」

「儂の数少ない特徴の『存在が見えない』というのが薄れていくが良いのか?」

 何その変なこだわり。

『まあ我達もいるしのう。犬出すか?』

『『魔力お化け』いないし、ウチはおとなしくしてるー』

 そうか。時々パムレが手を握ってくれてたけど、それって魔力を分けてくれてたんだよね。海の地までとは言え気を付けないと。

 と、ガラン王国城下町を出ようとした瞬間、後ろから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

「シャル様。良かった間に合って」

「イガグリさん?」

 大きな馬車を引いてイガグリさんがやってきた。

「シャムロエ様の命令で、海の地まで送っていくようにと言われたっす。歩くと日を跨ぎますが、馬車なら夜にはつきます」

「それは助かるわね! 乗りましょう!」


 ☆


 結構立派な馬車で、中の椅子は凄くふわふわしていた。

 多分これ女王とかが使ってるやつじゃね? 一般市民の俺が座って良いのかな?

 そして目の前にはフブキを膝に乗っけてご満悦のガラン王国の姫の姿があった。

「主の命令に逆らえぬとは……いや、従順な部下という意味では……いや、儂の暗殺術はこういう状況を予想していない」

「何ゴチャゴチャ言ってるかわからないけど、せっかくののんびりした旅なんだし、外の風景を眺めながら行きましょう」

「ふむ……あ、シャルロット殿。済まぬが一分ほど自由をいただけぬか?」

「え、良いけど」

 そう言って走っている馬車の扉を開けてフブキは外に出た。



『ぬあああああ!』

『ぎゃああああ!』

『く、くるなあああ!』



「ふむ。ただいま戻った」

 絶対何か外にいたって感じの悲鳴が聞こえたよ!

『領主様、助かるっす。このまま突っ切るか悩みましたっす』

「良い。そのまま走っておれ」



 今初めて護衛らしい護衛を見た気がするんだけど! いや、正確には見えてない所で活躍してたけども!!



 パムレがいつもほわーっとしてるから全然安心できなかったけど、今すっごく安心できるぞ!

「フブちゃんって領主って呼ばれるくらいだし、実際凄く強いのよね。『私には負けたけど』」

「強調するでない。あれは卑怯な手を使ったから儂が負けたのであって、儂に太刀打ちできる者はシャムロエ殿とタプル村の村長と三大魔術師とやらしかおらぬわ」

 それもそれで凄いよね。というかティータさん本当に何者?

 もしティータさんの力が相当な人だったら、タプル村は小さな村なのに三大魔術師(母さん)とティータさんという大きな壁ができるんだけど。

「それにしたって強いわよね。剣術は誰から教えてもらったの?」

「ふむ。身内の話はあまりせぬのじゃが、まあ馬車に揺られるだけの旅も暇じゃろう。特別な事でもなく儂の剣術は父から受け継いだ」

 すでに亡くなったというフブキの父。

「父は居合の達人じゃ。目の前の人物の髪の毛を一本だけ切ることも可能なほど極めた方じゃった」

「沢山あるのにその中から一本ということ? 凄いわね」

「そして母は体術を極めた方。その二人から技術を学び、今の儂がおる」

 フブキの動きは目では追えないほどの速さ。そして素早い武器での斬攻撃。それはとてつもない脅威にもなるだろう。

「風を感じ、音を聞き、素早く相手の息の根を止める。それが儂の村の教えであり、それで生計を立てていた。手を血で汚す仕事ばかりじゃったが、儂にとってそれが幸せじゃった」

 フブキは懐から一つの小さな石を取り出した。曲がりくねった不思議な緑色の石だった。

「それは?」

「母の形見じゃよ。勾玉というもので、お守りのような物じゃ。いついかなる時も油断をしないよう、念を込められておる」

「えっと、ちなみに両親は何故亡くなったか聞いても良い?」

 ゆっくりとフブキは頷いた。暗殺集団の死というと任務に失敗して捕まってーとか、途中で刺されたとかだろうか。



「食べ物を……喉に詰まらせての。しかも二人同時にじゃよ。死と言うのは呆気ないと実感したぞ」



 ……何か怪しく無い?

 同時に詰まるってある!?



「あーえーうん。大変だったわね。そしてフブちゃんは領主になったのね」

「うむ。父が亡くなる寸前に最後の力を振り絞って『領主の座をお前に預ける』って言ってな」



 何で喉に食べ物詰まらせてるのに話せるんだよ!

 変だと思わないの!?



「流石と思ったのは死してなお遺体を残さず土に還ったという所じゃな。この勾玉だけを残して消えていたのう」



 完全にどっかに行ったやつ!



「イガグリさん」

『リエン殿、超お願いっす。絶対俺に『心情読破』を使わないでください』


 もうそれ真実言ってるようなものじゃん!


「む? リエン殿? 儂は真剣な話をしておるのじゃが」

「あ、ああ。いや、食べ物を喉に詰まらせるって本当に危険だから、しっかり噛もうね」

「子供扱いする出ない。儂領主ぞ?」


 そうなんだけど!


 ☆


 予定通り夜に海の地に到着。『もちろん』そこには母さんが待っていた。いや、この表現もいい加減慣れたいんだけど、一方で慣れちゃダメだという自分がいるんだよね。

「母さん、無事ゲイルド魔術国家には帰れた?」

「いやそれが大問題発生でしたよ」

 え、問題発生したの?

「パムレ様が調子に乗って魔力を大量に消費して飛ぶものだから、それを感知したミルダが緊急事態と勘違いして空に向って思いっきり鈴の音を鳴らしたのです」

 静寂の鈴。確か魔力を抑え込む特別な音が出る鈴だよね。

「魔力を抑え込まれたパムレ様は制御が効かなくなって、そのまま教会に落下。ギリギリでミルダがワタチ達を目視したから音を止めてパムレ様が風魔術で衝撃を和らげましたけど、教会は半壊。おかげで教会が二階建てから三階建てに作り変えることになりました」

 ミルダ様的には身の危険を感知して鈴の音を鳴らしたのは正しいけど、教会がさらに増設されるのって変じゃね? 次教会に行った時は凄い立派になってるんじゃないかな!

「パムレちゃんはいつ頃来れそうなの?」

「大分魔力を振り絞って風魔術を使ったみたいで、体内にまだ鈴の音の力が残っているので明日の早朝には飛んでくるみたいです」

 飛んでくるって発想がまずおかしいけどね!

「ということで海の地の休憩所はこちらです。観光地にもなっているので結構大きいのですよー」

「へー。店も大きいの?」

「部屋の数もガラン王国城下町店の三倍くらいですね。従業員も雇っているのです」

 そう言って母さんについていくと、大きめの建物があり、『寒がり店主の休憩所ー海の地店ー』という看板が隣にあった。

「店主殿がじきじきにお出迎えなんて、なんだか特別なお客様という感じね」

「ある種特別だよね。シャルロットに関しては姫だし。あ、そうそう、夜も遅いしイガグリさんも泊めて大丈夫?」

「はい! ここまで送ってくださったのですし、きちんと部屋も準備していますよ」

「助かるっす! 恩に着るっす!」

 そして店に入ると、内装は立派でところどころにガラス細工が飾り付けられていた。従業員二人がこっちに来て頭を下げた。

「いらっしゃいませお客様。そしてお帰りなさいませ店主様」

「紹介しますね。こちらはここの従業員の『ヒョウケツ』で、こちらの女性は『サクラ』です」

 

 ペコリと頭を下げる黒髪の男性と女性。


 そこから少しも動かなくなった。


 イガグリさんがすげー戸惑ってる。


 フブキがすげー睨んでる。



「偶然じゃな。儂の両親と同じ名前じゃのう。



 絶対両親でしょ! 従業員二人がすげー汗かいてるよ!



「お客様のご両親と同じ名前とは、いやはや偶然ですね」

「ミルダ大陸には沢山の人がいますからね。そういう縁もあるでしょう」

「ほう」

 プルプル震える二人。

 フブキは後ろにいるイガグリさんを睨んだ。



「イガグリ、何か知っているな。言え」



「ひっ!」

 すさまじい殺気。思わず一歩後ろに引いちゃった。

「い、言えないっす。旦那様達との約束があるっすから」


 ピュイッ。


 そんな変な音が聴こえた。

「ふむ。儂も父の十八番である髪の毛一本を切る技術をすでに取得しておったか。ん? イガグリ、もう一度何か言う事はあるか?」

 フブキは人差し指と親指に一本の髪の毛があった。今の話から察するにイガグリさんの髪の毛なのだろう。

「か、勘弁して欲しいっす! 領主様に言ったら旦那様に殺され、内緒にしたら領主様に殺されるんすよ? せっかく来月結婚するのにここで果てるなんてひどすぎじゃないっすか!?」



 イガグリさん結婚するの!?



「お、おおう。それは……その……なんだ。アキレメロ」

 ゴッ!

「痛! な、シャルロット殿!? 何故頭を叩く!」

「一応言っておくけどフブちゃんは私の配下だけど、ガラン王国的にはイガグリの方が序列的に上よ? 立ち位置的には第一部隊の下に属しているから、フブちゃんはイガグリの部下的な立ち位置なのよ」

「は!? き、聞いて無いぞ!」

「言う必要無かったからね。で、さすがにこの状況では部下が上司に危害を加えかねないから『姫』じきじきに手を下したの」

「じゃがそ奴は儂に隠し事を」



「『姫』じきじきに手を下したの。権力を後ろ盾にする感じになるけど、もう一度言うわね。『姫・じきじきに・手を・下した』。わかる?」



「申し訳ございません。主様……」



 抑え込んじゃったよ! 怒ったシャルロットこわ!

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[一言] フブちゃんがどんどん萌えキャラに( ˘ω˘ )
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