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貴族や王族の使命

 ガイスとその両親は肩をがくっと落として謁見の間から出た。

『ついてきて』

 シャルロットがフェリーとセシリーを通じて話しかけてきて、今度は俺とシャルロットが真ん中に立った。そしてシャルロットは話し始めた。

「大分大掛かりな『茶番』でしたね。ゲイルド王」

「茶番?」

 シャルロットの発言に思わず声が出ちゃった。

「半分。とだけ我々の口から言わせていただきたい。近年ガラン王国とゲイルド魔術国家の貿易により甘い蜜を吸っていた貴族がさらに大きな顔をするようになったことは事実。彼らはゲイルド国家の一番近くにいる存在で市民からも認知されている。故にあの騒ぎは単純ではありません」

「ミルダ様まで呼んじゃって、大丈夫なの?」

「あ、いや、それに関しては当初考えていた『予定』と異なっており、三大魔術師マオ様を呼んだのですが」

 そう言うとミルダ様がテクテクと歩いて来た。


「さっきも言いましたがマオさんは寝不足……いえ、諸事情で今日は来れません。外に出る口実を探していたら偶然面白いお話が舞い込んできたので、乗っかっただけです」



 実はミルダ様ってノリ良いの?



「ともあれ彼らには大きな過ちを犯したということで、反省および貴族としての権限をはく奪。リエン殿に免じてそれ以上の事は致しません」

「ありがとうございます」

「うむ? お礼を言われることでは無いのだが」

 あ、もしかして間違えた?

『罪人を見逃すことに対してのお礼はちょっと変ね』

『やっぱり貴族や王族って面倒だな!』

 とりあえず何とかごまかしてみよう。



「俺の発言が無意味だった場合、仮にも彼らが死罪となってこの世から抹消されたら俺は気を病み寝込むでしょう。するとそれを見た母……『魔術研究所の館長』がどのような行動を取るかと思うと気が気ではないと思いまして。もう一度言います。『アリガトウゴザイマス』」



「そそそそうか。う、うむ。では我は執務があるので」



 ぴゅーっとゲイルド王は去っていった。

「いやリエン、ごまかし方としては満点だけど、あの人(店主殿)ならやりかねないから冗談に聞こえないわ」

「ふふ。そうですね」

「とりあえず客室へどうぞ。お疲れになったでしょう。温かいお茶を準備しますね」


 ☆


 ガラン王国の姫にゲイルド魔術国家の姫と王子に静寂の鈴の巫女ミルダ様。なかなかの面々の中に俺もいて、正直辛いなー。いやもう慣れちゃったけど慣れちゃいけないと言い聞かせてるんだよね。

 すっごい今更だけどイガグリさんくらいのもう少し軽い感じの存在が欲しいなーとも思ったよ。

「というかポーラはミルダ様を見ても平気そうだけどカッシュは大丈夫なの?」

 ひょんな質問にカッシュが真顔で答えた。



「大丈夫なわけないでしょリエン兄さん。ずっと『心情偽装』で心を無にしないと正気を保てないのに、なんで皆平気そうなの?」

「やっぱりそうなんだね! ごめんね普通にヤバイ質問しちゃって」



 話しかけたからか、足が震え始めたぞ。

「ふふ。カッシュ王子、どうか緊張しないでください。今日は館長さんの代理の代理。つまりリエンさんの母代理という立ち位置で来たので、気軽に話しかけてください」

「じゃあこの席だけでも『ミルダ母さん』と呼びますね」

 まあ冗談だけど。


「がふっ!」


 え?

「なるほど。フーリエさんがリエンさんを可愛がる理由が何となくわかりました。ふふ、では『母さん』として色々お話しないとですね」

 ニコッと笑うミルダ様。見た目年齢は母さんと変わらないし、同い年くらいなのかな。



「凄い度胸ね。やってることは死罪に問われた彼らよりも上の事をやってるわよ?」

「さすがと言いますか。まあ精霊二体と契約していたら度胸も付きますか」

「リエン兄さんはやっぱり僕の目標だなー」



 うん。完全に失礼な事をしたってのが伝わったよ!

「それにしても貴族社会って結構厳しいんだね。一般人の俺からだと見えない部分が多すぎて、楽しそうな部分しか想像できなかったよ」

「そうですね。貴族や王族は失敗が許されません。それは今回の集まりで分かったと思います。一回の失敗も許されない代わりに得られる報酬は大きい。そう思っていただければ」

 つまりあの家族が貴族として戻ることは本当に無いんだろうな。うーん、それはそれで複雑。

「といっても私がさっき言ったけど、大半は『茶番』よ。おそらくあの貴族はすでに見切りをつけていたのでしょう?」

「さすがはシャルロット。ワタシの好敵手でもありますわね」

 まああの態度はあまりよく無いよね。商店街の人たちも少しがっかりしていたし。

「それにあの場ではリエンの行動が試されていた感じでもあるわね。あの場であの家族をどうするか。そして立ち振る舞い。ふふ、途中までリエンはゲイルド王に目をつけられていたんじゃないかしら?」

「そうなの?」

「そもそも魔術研究所の館長様はゲイルド魔術国家にあるので、ゲイルド魔術国家としてもリエンと仲良くなることは良い事しかないのですわ。カッシュとも仲良くなって、もしもこのままいけば……なんて父上は考えていたのかもしれません……が」

「が?」


「リエンの最後の『アリガトウゴザイマス』で完全に怖気づいてしまったので、しばらくは父上もリエンに手を出さないでしょう」


 いや、あれは思い付きでやったことなんだけど。

「ミルダ……というよりリエンのお母さんが呼ばれた理由もおそらくその辺の話を円滑に進めるためでしょう。リエンさんとゲイルド魔術国家に今までよりも深いつながりや関係を築くための公式の場。そして一歩先を読んで姿を現せない事まで考えて同行者はマオさんだと思ったけれど、実際はミルダが登場。ふふふ、ゲイルド魔術国家の行く末がますます気になりますね」

「あう……その、ミルダ様。お手柔らかに……」

 ニコニコ笑顔が怖いミルダ様。



「あまりいじめちゃだめですよ。『ミルダ母さん』」



「は……はいぃ」



 すげー顔真っ赤にして下向かないでくれる!?

 いや、本人の許可の下でそう呼んでるんだからね!

「そうそう、リエン兄さんはこの後どうするの?」

「うーん、今日一日はパムレが寝ちゃっているし、明日ガラン王国に帰るから、それまではのんびりかな」

「あ、だったらリエン兄さん、ちょっと付き合ってよ!」

「へ?」


 ☆


 魔術学校の正門を通り、校庭に到着。

「急に校庭の使用許可申請とか勘弁してもらいますかねー。あの一件があったから多少おとなしくなったかなーと思ってたのに、すーぐ遠慮なしに俺を頼ってきて校庭使用許可と立ち合い申請出してきて、俺の貴重な休日はそうそう安くないんですよー」

 すこぶる不機嫌なシグレット先生。

 校庭を使うには教師の許可と教師の立会いが必要になったらしい。そして今日は学校が休み。つまりシグレット先生は休日出勤という事になった。

「後で『母さん』から労いの言葉をかけていただくよう俺からもお願いしますから」

「はああああああああ(大きなため息)。まあ直属の上司ですしー。休日手当をもらえるならいいが、労いの言葉程度で喜ぶほど俺はできた大人じゃ無いもんなー!」



「あ、紹介が遅れました。今日限定母さんのミルダ母さんです」



「今日限定リエンさんの母のミルダです。こんにちは」



「あははふざけんなよこんにゃろー。ミルダ様のお願いであればたとえ涙が赤く染まろうとも身を削って頑張りますよ。というか母親に一日限定とかあるのかよもう意味わからねえよちくしょー」



 やはりミルダ様の存在って大きいんだな。

「さて、リエン兄さん。以前姉上からちょっとした提案をされたので、ぜひ『ゲイルド魔術国家剣術』でリエン兄さんと手合わせしたいと思います」

「うーん。それは良いんだけど」



「マケタラユルサナイワヨ(シャルロット)」

「マケタラユルサナイワヨ(ポーラ)」



「後ろのお姫様二名がすっごく怖いんだけど」

「まあ、あれは気にせずに正々堂々とやりましょう」

「あ、でしたらミルダが少し場を整えましょう」

 そう言ってミルダ様は杖を少し強めに地面に突き刺した。同時に鈴の音が鳴り響いた。

「これでここ周辺は『心情読破』や魔術が使えません。正真正銘の剣術の勝負ですね」

 おー。なかなか贅沢な場になってしまった。

「じゃあ行くよカッシュ!」

「うん!」


 ☆


 数分後。

 お互い一歩も引かない剣のぶつかり合いが続いていた。

「というかリエン兄さん防御固くない!? 何で不意打ちも全部受け止められるの!?」

「受けることだけはなぜか上手く行くんだよね。ってい!」

「ぐう!」

 あと少しでカッシュの腹部に木刀が当たりそうだったが、ギリギリで防御されてしまった。

「消耗戦ね。見たところリエンに少し有利かしら」

「くう、カッシュ―頑張りなさいー」

 なんだかガラン王国とゲイルド魔術国家の国の代表的な感じになっちゃってるけど、大丈夫だよね?

 とはいえ、シャルロットの言っていることは正しいかもしれないけど、実は俺も少し悩んではいる。

 普段は短剣を使っているのに、今回は使い慣れない木刀。武器の長さが異なるから間合いがわからない。

「せめて視覚的に間合いがわかれば」

 とつぶやいた途端、声が聞こえた。


「ふむ。なら儂のマネをしてみろ。畳を切ったあの時のようにのう」


 フワッとフブキがシャルロットの後ろに現れた。

 タタミ……たしかフブキと初めて出会った時、フブキは床を一瞬で切ったんだっけ。

「そうか! てえい!」

「ぐ! 目つぶしか!?」

 地面に線を書くように剣を振る。地面には弧の形の印が生まれた。

 これが俺の間合いか。なら、ガラン剣術のハジキからの腹部狙いで!

「てえええい!」

 カッシュの縦に振った木刀。それが間合いの中に入った瞬間、横にはじく。そして。


「たあああああ!」


「ぐっ!」


「一本! リエンだ!」


「やったわ! さすがリエン!」

 ふう。何とか意地を見せることができたかな。それに。

「ふふ。良い戦いを見させていただきました。今日だけの息子の勝利に祝福を」


 なかなか大物な『母さん』にも見せることができて、良かった良かった。

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