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追加の休暇と呼び出し

「……ということでもう一日休暇を所望。超ネムイ」

 パムレが本気でお願いをしてきた。しかも人目に付かないところでなんだけど、一体どうしたのかな?

「あー、儂から説明させてもらって良いか?」

「うん、何かあったの?」

「おそらくじゃが、リエン殿から預かっているフェリー殿じゃが、リエン殿が寝たくらいの時間でフェリー殿も寝てしまってな」

『うっとりしちゃったー』

「うん」



「寒くて儂は凍えておった。おかげでこやつが徹夜で見張ることになった」

「なんで外で見張っちゃってたの?」

「も……盲点じゃ。目からうろこじゃぞ!?」

「いや、それくらいすぐに答えが出るでしょ!」



 つまりフブキのうっかりでパムレが徹夜しちゃったと。うーん、なんか申し訳ない気も少しするなー。

「わかった。パムレは今日休んでて。というか今日はすぐに帰れそうにない感じだし」

「……ん。なんとなく昨日の騒動が原因なのは想像できる。今日中に何か無ければ貴族としての価値は下がる。ふぁー。じゃ」

 フラフラになりながらパムレは寒がり店主の休憩所へ入っていった。


「パムレちゃん、もしかして寝てないのかしら?」

「うお、シャルロットいたの?」

「朝から反応鈍かったからちょっと気になってたのよ。うーん、私の我儘も原因だろうし反省しているわ」

「まあ、本当に危なかったらポーラの家に泊まるという事は却下されただろうし、深く気にしない方が良いと思うよ」

「うーん。あとでパムレット買ってこようかしら」



『……ゲイルド魔術国家限定パムレットを所望』



 うん。思ったより元気そうだ。なんか脳内に直接声を届けてきたから多分ひと眠りすれば大丈夫かな。

『……あ、結構眠いから力加減をうっかり間違えるとリエンの頭が『ポン』するよ』

「やめてよ! 可愛く言っても命に係わるんだからな!」

「え、リエンどうしたの?」

 パムレは俺にだけ送ったのか。

「ゲイルド魔術国家限定パムレットを所望だってさ」

「うふふ、それを聞いて安心したわ。じゃあそれを忘れずにまずは目先の問題を解決しようかしら」


 ☆


 元を辿れば今朝絡んできたガイスがシャルロットを平民と呼んだところなんだけど、俺がちょっとした助言をしなければここまでの騒ぎにはならなかったのかなーとちょっと思っていた。

 ガイスは自分の失言をすぐに親へ連絡し、そしてゲイルド王へ謝罪文を送り、そして兵達が息を切らして寒がり店主の休憩所へやってきた。

 内容は失言の撤回と謝罪らしい。一般人の俺としてはその内容だけで城に呼び出されるのは疲れるなーと思ったし、シャルロットも特に気にしないって言ってたんだけど、ゲイルド王がどうしてもという事で俺たちは渋々応じることになった。

「まあ、その国のしきたりもあるだろうし、仕方が無いわよね」

「なんかごめんね。俺が最後にさらっと言わなければここまでならなかったのに」

「むしろリエンの行動は正しいかもしれないわね。そもそもゲイルド王があそこまで呼び出すのはそれなりの重大な問題かもしれないしね。ガラン王国の貴族とゲイルド魔術国家の貴族とでは少し文化が異なるかもしれないわね」

「勝手な印象だけど、貴族ってお金持ちって印象しかないけど、実際どんな仕事をしているの?」

 いまいち貴族とか平民とかの違いがわからない。まあ、お金がある人と普通の収入の人くらいの印象だけど。

「ガラン王国の貴族の場合はそのお金を使って人を雇い、その土地を繁栄させる役割を持つわね。村長のようなものよ」

「なるほど。沢山のお金があるのはそういう理由もあるんだ」

 と、そんな会話をしていたらゲイルド魔術国家城へ到着。

「お待ちしておりました。シャルロット姫様。リエン様」

「ちょっと質問なんだけど、今日はどっちかしら?」

 どっち?

「はい。本件は公式の場となります」

「わかった。装いはこれしかないけど良いかしら?」

「はい。緊急でのお呼び出しです。ですがこちらでお召し物をご用意しますが」

「結構よ。では案内してくれる?」

「かしこまりました」


 何やら固い雰囲気だなー。


 ☆


 謁見の間。

 一般市民が謁見の間にここまで入ったのって俺くらいなんじゃないかな?

 と、ちょっと思いながら案内され、いつもは謁見の間の真ん中に行くんだけど……今日は横? いつもは兵士たちが並ぶ場所のような。

 うーん、色々作法とか知らないし聞きたいところだけど、声を出すこともできないしどうしよう。

『ん? リエン様よ。じゃったら我とフェリーがその役目を担うぞ?』

 え、どうやって?

『フェリーがシャルロット殿に触れ、我がリエン様に触れておれば、神術『意思疎通』の似たことくらいはできるのじゃ。まあ、試しにやってみよう』

 やってみようと言われても、どうすれば良いのやら。

『あーあー、シャルロットー、聞こえるー?』

 と、とりあえず心の中で呼びかけてみた。

『え? リエン? ええ、聞こえるけど私の声は届いてる?』

 おおー、聞こえた。

『ちょっと作法とかわからないし、この方法で俺はどうすれば良いか教えてもらって良いかな?』

『そうね。と言っても他国間の話し合いとは異なるから、今回は私もほぼ即興よ。状況を見ると横に立たされたのは重要なお客様と言ったところかしら』

 いつもと状況が違うからこういうときのシャルロットって頼りになるなー。

「ゲイルド王並びにポーラ姫、カッシュ王子登壇致します」

 ゲイルド魔術国家の王とポーラとカッシュが立派な服を着て玉座の前に立った。

「ガラン王国の姫シャルロット殿、本日は女王が不在で申し訳ない」

「いえ。双方今は色々と込み入ってて大変でしょう」

「はい。ガラン王国とゲイルド魔術国家は現在とても良い関係で、どちらも手を取り合って助け合っている状態。ですが、先の出来事は我々王族としては見過ごせません。忙しい中足を運んでくださり感謝いたします」

 深々と頭を下げるゲイルド王。それに合わせて周囲の兵士も頭を下げる。


『リエン、頭を下げちゃ駄目よ?』

『へ? あぶなっ!』


 つられて下げそうになったけど、ここでは良いのか。

「ベイトール家が入室します」

 兵士がそう言って、謁見の間に入ってきた。一番前にはゲイルド王と同じくらいの年齢の男性。その後ろには女性。そして最後尾にはガイスが歩いてきた。


「さて、話は当事者である息子から聞いているな?」

「はっ。この度は誠に無礼な発言を愚息が行い、大変申し訳なく存じます。ガラン王国の姫とは知らなかったとはいえ、品位に欠ける発言をしたとガイスは反省しております」

「この通り、反省しております。シャルロット様、どうか許していただければと存じます」

「ええ。それにあの商店街の賑わいで『よく聞こえなかった』わ。それで良いかしら?」

「感謝いたします」

 再度深々とゲイルド王は頭を下げた。



「して、『それだけか?』」



 空気が変わった。

『あー、なるほど。どうやら本題はここからみたいよ』

『どういう事?』

 その瞬間、扉から何か心地の良い音が聞こえた。鈴の音のような音でとても聞き覚えのある音だった。

「ゲイルド王。いらっしゃいました」

「うむ」

 そして扉が開いた。そこには大きな杖を持つ『静寂の鈴の巫女』ミルダ様が立っていた。

「み、ミルダ様!?」

 テクテクと歩いて来て、中央に立つと思ったら俺の隣に立った。

「遅れて申し訳ございません。本来であれば『魔術研究所の館長』がふさわしい場ですが、彼女は人前に出れません。そして『三大魔術師マオ』は本日とある事情により出れなく、代理の代理としてミルダが参上致しました」

「なっなっ」

 ガイスのお父さんがすごく困った表情をしていた。

「お待ち下さいゲイルド王。何故『静寂の鈴の巫女』様がいらっしゃったのですか!?」

「ふむ。どうやらおよび立てして正解でした。シャルロット殿に謝罪をして収束。そう考えておったそうだが、事の重大さに未だ気が付いていないとは。これは貴族の見直しを考えなければいけないな」

「お待ちくだされ! ガイス! お前一体何をしたんだ!」

「し……知らない。ただカッシュ王子の隣で歩いていたそこの『平民』と言い合っただけで」


 場が凍った。

 いや、正直なところ俺は何て言われても良いんだよ?

 でも、なんとなくここまで来ると察するよね。


「ガイス殿。そなたが『平民』と呼ぶ少年の隣には今回の件で本来呼ぶはずだった方の『代理の代理』で来てくださった。もう一度言う。『代理の代理』で静寂の鈴の巫女様がいらっしゃった。これが何を意味するかわかるか?」

「何も考えられない……だってその『平民』は寒がり店主の休憩所の子だと私は伺いました」

「嘘ではありません。それはミルダが保証します。ですが、寒がり店主の休憩所の店主が十数年育てたのと『本当の親』は異なると言ったら?」

「え?」



 いや、どっちも同一人物だし血繋がってないけどね!



「ゲイルド魔術国家は三大魔術師によって支えられていただいている状態。故に三大魔術師のご子息への無礼は死罪に匹敵します」

「なっ!」

「ガイス。僕は言ったよね。彼への侮辱は死罪だと」

「あれはその場の冗談かと」

「公の場でしかも死罪という冗談は王族はおろか一般市民でも普通は言いません」

 ガイスの目は泳いでいる。

『あちゃー。これはあの貴族の最後の好機を逃したわね』

『どういうこと?』

『あの場ですぐにリエンに謝罪するべきだった。ほら、あの両親を見て。あの場で何も言わずに目で何かを伝えているでしょ?』

 よく見たら凄い形相でガイスを見ていた。

『あそこで助言をしたら教育がなってないことの証明になる。だから何も言えないのよ』

『というか俺は母さんの息子ってだけでそれほど偉いわけじゃないと思うけど』

『ふふ、それもだけど、リエンはすでにカッシュを助けている恩義があるのよ。国は違うけど命の恩人を粗末に扱う王族はいないわね』

 ふむ。つまりあの貴族の命は俺が握っているという事か。


 すげー重いなー。


「ゲイルド王様。よろしいでしょうか」

「何でしょうかリエン殿」

「現在俺……こほん、私はガラン王国より極秘の任務で動いております。故に変に目立つよりも『平民』と呼ばれる状態の方が私としては都合が良く、またそれはしっかりと隠れているという証拠となるでしょう」

「うむ」

「また私はミルダ様もおっしゃった通り、十数年は寒がり店主の休憩所で育ち、一般市民と感覚は同等。突然現実を突きつけられて成り上がった地位に見合うほど私はできておりません」

 俺はガイスとその両親を見た。

「死罪という重い罪は私に免じて無かったことにしていただきたく存じます」

 その瞬間、ガイスとその両親は深々と頭を下げて、誠心誠意の謝罪をしたのだった。

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[一言] リエン君カッケえええ!!!!
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