王家の食事
「本日はよくぞお越しくださった。ささやかですが我が城の料理長による料理をお楽しみください」
ゲイルド魔術国家城の一室で、沢山の料理が並べられた。
目の前には大皿。そして沢山の食器。
王族の作法とか俺全然知らないんだけど!
「それでは誠に心苦しいが少々会議が入ってしまって、席を外させていただきます。ポーラ、後はお願いします」
「はい。父上」
そう言ってゲイルド王は部屋を出て、部屋の中には俺、シャルロット、パムレ、ポーラ、カッシュ。そして料理を運んでくれる係りの人がいる。
フブキは裏で護衛をすると言ってどこかにはいるらしい。
「ということで、今回は作法を気にせず『友人の家でご飯』という感じでいただきましょう」
「え?」
「ふふ。次々出される豪華な料理を見て慌てるリエンを見ていて楽しかったわ」
シャルロットとポーラとカッシュは微笑んだ。なんかすごく恥ずかしいんだど!
「……問題ない。パムレも作法なんて知らない」
今までで一番心強い味方(三大魔術師)がこっちについたぞ! やった!
ということで最初に野菜料理が出され、次にスープ。そして焼いた肉の料理に最後は果物のお菓子の順に出されて、それらを美味しくいただいた。
☆
ナプキンで口を拭いてお茶を一口。うん、とても美味しかったなー。
「ちょっとリエン、聞いて無いわよ。作法知らないとか嘘でしょ?」
「え、いや、時々母さんが気分を変えてーと言って似た種類の料理を似た順番で出すから『普通に食べてただけなんだけど』」
「ふむ、リエン兄さんはすでに王族のたしなみも覚えているのですね。これはもう……」
カッシュが怪しい笑みを浮かべているよ。
そして隣でパムレがほっぺたにソースをつけながら食べてるよ。
「予想外なリエンの特技に驚きましたが、実はワタシは別件で狙いがあったのです。入ってきて」
ポーラが扉に向って声をかけると、身長の高い男性が入ってきた。
「この方は先ほど父上が紹介した料理長ですわ」
「お初にお目にかかります。お楽しみいただけたでしょうか?」
「はい。美味しかったです」
と感想を言ったら、シャルロットが話しかけてきた。
「ふふ、リエン。本当の事を言ってみたら?」
「え?」
唐突に何を?
疑問の表情を浮かべていたら、ポーラが話しかけた。
「料理業界ではかなり有名な『寒がり店主の休憩所』で長年育ってきたリエンなら、今回の料理について何か面白い意見は無いかなと」
「え、いや、でも」
普通に美味しかったよ?
「実はこの料理長、寒がり店主の休憩所に毎週の休みに通うくらい勉強家で、今日そこで育ったリエンが来ると聞いてすべての料理を行ったそうです」
「ご紹介ありがとうございますポーラ様。そしてあの店主様の店で長年生活していたリエン様に食べていただけて、それだけで光栄に存じます」
何が作法を気にしないでーだよ。すごく緊張するんだけど!
「ポーラ様やカッシュ様には今後も美味しい料理を食べていただきたく、もしリエン様から何かご助言がありましたらこの上ない幸せでございます」
「そんな俺なんかの意見何て」
「ふふ。謙遜が過ぎると嫌味よリエン。料理長はリエンの意見を聞きたくて今日一人で挑戦したのよ? と言っても私もリエンと旅をしてなんとなく学んだけど、『これが』王族に関わる人たちの生活なの。友人の頼みとして私からもお願いして良いかしら?『リエン料理長』」
「うわ、懐かしい単語出して来るね」
ガラン王国の兵達が利用する厨房でそんなあだ名がついたんだよね。
「うーん、と言っても本当に美味しかったとは思う。あるとすれば温度かな? ゲイルド魔術国家は雪国だから野菜や肉の保存は凄く良いけど、調理後も焼いた料理に関しては温かい場所に置くとかかな。もしくは王族の食事に出せるかわからないけど、『焼き石』を置いてみるとか」
「ヤキイシ?」
「平べったい焼いた石。もしくは少し温めた石を皿にするの。この皿だとすぐに焼いた肉が冷めちゃうかなーって思った。後は~~」
☆
~~くらいかな。でもすごく料理は美味しかったと思います。って、あれ? 料理長さん?」
気が付けば料理長は澄んだ顔で涙を流していた。
「……リエンの新たな特技として、料理人の心を折る話術を会得している。『心情爆破』とでも名付けよう」
パムレにしてはとても簡素な名前だけど、単語が物騒だよ!
「さすがはあの『寒がり店主の休憩所』で長年生活されていたリエン様。やはり私もまだまだ修行不足ですね」
「い、いえ。本当に美味しかったです。これはお世辞じゃないです」
「その言葉だけでも嬉しく……む? ん? あれ?」
と、突然料理長の表情が少し硬くなった。
「はあ、悪い癖が出ていますわよ? 料理長」
「あ、あはは。申し訳ございません。お客様の本当の感想を聞きたく、『心情読破』を使わせていただいたのですが……ふむ、まさか失敗するとは」
「あ、ああ」
母さんからもらったお守りの効果だろう。なるほど、結構『心情読破』を使える人ってさりげなく使っているのかもしれないな。
「えっと、俺の頭の中には『寒がり店主の休憩所』に伝わる調理方法があるから、それを隠すための修行も少々嗜んでいるのです」
「何と……感想よりもそっちの方がすごく気になるところですが、それを聞くのは無粋でしょう。いや、先の『心情読破』まことに失礼しました。では私はここで」
そう言って料理長は深々と頭を下げて部屋を出た。
「本当だ。リエンの心が読めない……え、何か悩みでもあるのかしら?」
「いやいや、ちょっと先の一件もあって母さんから『心情読破』を使われても俺の心を読まれないようなお守りを貰ったんだ」
「へー! それってパムレちゃんも無理なの?」
「……ん? ああ、普通にわかるよ?」
結構期待してたんだけどやっぱりかー。俺の唯一のゆとり空間の心を守る壁として活躍すると思ってたのになー。
まあ元々母さんに言われてたし、わかってはいたけどね。
「……あー、補足するとあまりに強力すぎると、契約精霊にも影響出るからそれを配慮してると思う。普通の人間ならまず突破できない」
「そういう事か」
さりげなく『パムレは普通じゃない強い魔術師だよ』という言葉が見え隠れしている気もする。
「そのリエン兄さん。もしかして僕の一件もあってのですか?」
「ああ、まったく関係ないと言えば嘘になるかな。たまたま今回はカッシュが俺に『心情読破』を使っただけで、似た現象が起こる可能性はいつでもあったんだ。それに元々その術式を俺に見せまくってた人が原因でもあるしね」
使用人がいる以上うっかり母さんとか館長とか言えないからだいぶ言葉を選んだけど、伝わるだろう。
「それよりも同じ年代で集まってるしサラッと話すけど、カッシュの王位継承権が一位から二位になったって本当なの?」
「おういけいしょうけん?」
シャルロットの単語も気になるけど『同じ年代で集まってる』という部分を大声で突っ込みたいなー。隣で口をナプキンでごしごししている小っちゃい女の子は俺たちの人生の大大大先輩何だよなー。
「はい。今回の一件で父上と話し合い、もしも王になる人物がいなければ僕という仕組みにしてもらいました」
「へー。王位継承権って後の王様になる序列のことかな。となると、王の権利を得られる人ってどういう人になるの?」
「今のところワタシの婿になる方です。本来なら実在する方を第一位に立てるのですが、今は『予定』としてぼかしています」
おおう。これは一般市民代表の俺にはちょっとわからない世界だぞ?
魔術学校の生徒とかにポーラと親しい人とかが候補になるのかな?
「王族だしやっぱりそれなりの地位の人じゃないと難しいよね。相手選びも大変だね」
「そうでもないですわ。地位は与えれば良いですし、生涯の相手ともなればやはり相性。ワタシとしては親しい方が一番良いですわね」
「姉上、好みはいるのですか?」
「そうですわね。料理ができて、魔術も使える方……何より気遣いができる方ですね。なかなか限られた殿方になりそうですわー」
うーん? 自意識過剰だと思うけど、すっごく俺を見てくるんだけど?
と、困っていたらシャルロットが『あ』と言って話し始めた。
「心当たりがあるわー」
「本当に? ぜひ教えてくださる? 名前を」
「ピーター君ね」
「そうですよね! ピーター君で……ピーター君!? 誰ですの!?」
あー。確かに気遣いできて料理も俺よりできるかもな。魔術はまあ一般魔術師よりは強いだろう。
「……おおう、シャルロット……なかなかの強者」
「ふふ。じゃあ今度ピーター君を紹介するわね。超紳士だし、料理できるし」
「後で部屋に来なさいシャルロット! 女子だけでお話をしましょう」
「良いわよ? ふふふ」
なんだか微笑ましいような、ちょっと怖いようなご飯になってしまった。
☆
「ということでシャルロットは今日ポーラの部屋で寝ることになったよ」
「何ですって! これじゃあ後払いシステムの金貨を一日分もらえないです!」
「ソーデスネー」
「もはやワタチの冗談は単調すぎてバレてしまいますか。今度新しいネタを考えねばですね」
と言いながら机を拭く母さん。
「代わりにカッシュを連れて来た」
「お邪魔します」
「何サラッと王子を持ってきてるんですか。ピーター君みたいな一般人とは違いカッシュ様は王子なんですよ!」
それを言ったら母さんは三大魔術師だしパムレも三大魔術師だしフブキは領主だし。一般人って俺だけなんだよね。
「ということはパムレ様の宿泊先はポーラ様の部屋ですか?」
と、母さんが質問をし、カッシュの後ろからパムレがひょいっと出てきた。
「……カッシュの後ろにいるー」
「ふむ、『マオ様』、すみませんがシャルロット様のところに行ってもらって良いですか?」
「……あー、わかった」
そう言ってパムレはテクテクと城へ向かっていった。
「え、見た目の所為で心配だけど、大丈夫なの?」
「パムレ様は大丈夫ですよ。それよりも今『蛍光の筆』を持っているのはシャルロット様なので、あっちの護衛を増やさないと」
迂闊だった。そう言えばそうだよな……。
「あ、別にリエンはそこまで深く思い詰めなくて大丈夫です。リエンはワタチがいますし、せっかくの男の子だけのお泊り会に女の子がいたら気を遣うでしょう」
「いやパムレをそもそも部屋に入れようとはしてないけど……うーん、まあそこまで考えてなかったのは反省だけど、のんびりカッシュと話しながら今日は休むとするよ」




