ゲイルド魔術国家2回目6
風呂場を出て共有スペースに行くと、すでにシャルロットとパムレとフブキが椅子に座っていた。
パムレはパムレットをむしゃむしゃと食べていて、シャルロットとフブキは楽しく会話をしている感じかな。
「あらリエン。結構長湯だったわね」
「ついついゆっくりしてたよ。待った?」
「フブちゃんとお話してたからそれほどでも。それよりそっちの方は?」
と、一緒に風呂場を出たんだった。
「ん? お前さんの連れか。てっきり男二人旅だと思ってたぜ」
「あはは。色々と事情があってね」
「って、凄く美人じゃねえか! 金髪の長い髪の美少女。そして黒髪の凛とした美少女。そして銀髪の……」
固まった。
「マオ様じゃん! え!?」
男は驚いていた。
というかパムレの顔は知ってるんだ。
「……ん、『認識阻害』を忘れてた。やはりパムレットは強敵」
「パムレの知り合い?」
「……さあ。どこかで会った?」
「いや、以前魔獣に襲われている時に助けてもらって、すぐにいなくなったんでお礼も言えなかったんだ。その、あの時はありがとうございました」
「……覚えてないけど、助かったなら良かった。どういたしまして」
男性は俺を見た。
「え、マオ様もお前さんの連れなの?」
「一緒に旅をしているよ。あ、金髪の女性はさっき君が言ってたあの国の姫」
「あら、私の話をしてたの? どんな話?」
「ま、待ってください。ちょっと……えっと、リエンって言ってたな。ちょっとこっち来い!」
わー。急に引っ張られて少しシャルロットたちから離された。
「え、俺これから捕まる? 不敬罪で逮捕?」
「別に変な事言ってないでしょ。大丈夫大丈夫」
再度引っ張られてシャルロットたちの所へ行く。
「失礼しました。俺は元建築関連の仕事をしているベンと言います。一国の姫に置かれましてはご機嫌麗しゅうですますございます」
「ふふふ、言葉が変よ? それにここは色々な壁を崩してくつろげる場所よね? 確かに私は姫だし、この子は三大魔術師だけど、普通の女の子として見てもらっていいわよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるベン。
「リエンも来たことだし、あっちの食堂でご飯でも食べましょう。ベンも良ければどうかしら?」
「ありがとうございます!」
☆
とりあえず色々と注文し並べられたご飯。
うん、完全に母さんのレシピである。
「なあリエン。俺は夢でも見てるのか? 三大魔術師と一国の姫と一緒に飯を食べているぞ?」
「まあ、これも何かの縁だよね」
「ちなみにリエンも王族とかなのか?」
「一般市民だよ」
「そうか。じゃあ姫と三大魔術師と黒髪のお嬢さんの護衛って感じか。俺と年齢が近いと思ったが立派な男じゃねえか」
「……いや逆でしょ。パムレとシャルロットとフブキがどっちかと言うとリエンの護衛」
おいいいいいい!
実際そうだけどそれを今言わなくていいから!
「さ……三大魔術師を護衛って、どんな金貨を渡せばできるんだ?」
パムレに関してはパムレットだけで雇える気もするけど、とりあえず苦笑しておく。
「む? 一応儂はシャルロット様が主ぞ? まあ、おまけで守るが」
「細かい事は無しにしてご飯を食べようよ。ほらベンも気にせず食べよう」
「お、おう。へへ、ここの料理は最高なんだぜ? 寒がり店主の休憩所の店主さんの料理をそのまま食べれるからな!」
何と言うか素直に嬉しいな。母さんの料理が褒められるというのは。
と、微笑みながら食べていたところ、奥の方から大声が聞こえてきた。
『お客様、困ります!』
『けっ! 酒くらい飲ませろ! ここは庶民の休憩所だろ!?』
何やら揉めているみたいだ。
『俺たちは皆ででかい風呂に入っている。一方で王族はでかい風呂を一人で入る。生まれてすぐに恵まれた環境だったらさぞ楽しいだろうな!』
『ですから、他の方のご迷惑に』
『ああ!? 客に文句か!?』
泥酔した男は女性店員を押し倒した。
「リエン、ちょっと行ってくるわね」
シャルロットが立ち上がった。
「おいリエン。姫さんが止めようとしてねえか? 大丈夫か?」
仮に暴力沙汰になってもシャルロットなら大丈夫だと言い切れるが、ここは他国。ガラン王国の姫と言う立場では大丈夫とは言い難い。
「あん!? お、可愛いお嬢さんじゃねえか」
「うーん、かなり飲んだみたいね。このままだと『お酒の所為で凄い頭痛が襲ってくる』わよ?」
「おう? へへ、心配してくれるのか……あ……お……」
突如男はシャルロットを凝視した。いや、目線が定まっていない。
「ぬああああああ! 頭があああああああああああ!」
「言わんこっちゃない。この人の連れはどこかしら?」
「あ、ああ。俺だ」
「そう。言わなくても何をするかわかるかしら?」
「ああ。俺も止めなかったから正直どうするか悩んでたが」
「そう」
そう言ってシャルロットは俺たちのところへ戻ってきた。
「すげえ、姫さんの言った通り酒の飲みすぎが今ちょうど来ちまったってことか?」
うーん、多分『音の魔力』だとは思うけどなー。
「……シャルロット、手」
「ふえ? あ、うん」
「……今後気を付ける。あれはやりすぎ」
「あはは、パムレちゃんにはバレてたか。私もまだまだね」
そう言って席に戻ってきた。
「さあ、せっかくのご飯だし温かいうちに食べちゃいましょう」
「お、おう!」
☆
ベンと別れ、俺たちは寒がり店主の休憩所で休むことになった。
色々あったがとりあえずゲイルド魔術国家にたどり着くことという目的は達成した。
『コンコン』
と、扉が軽くたたかれた。
『リエン、ちょっと良いかしら?』
「シャルロット? ああ、良いよ」
そう言い返すとシャルロットが部屋に入ってきた。
「えっと……後ろの『空腹の小悪魔』は?」
『あ、気にしないでください。ただの店主の目ですギャー』
俺だからいいけど、他の人だったら絶叫ものだよ!
「ちょっとお話しようかなって思ったら店主殿が」
『この夜に部屋で二人。母親としては見過ごせないのですギャー』
一応セシリーとフェリーがいるんだけど、それを言ったらきりが無いんだろうな。
「それにしても急にどうしたの?」
「ちょっと不安になってきたの。今日の酔っぱらいに対して『音の魔力』を使ったら、想像以上に効果が出ちゃって。もしかしたらカッシュも同じ感じだったのかなって」
「ああー、そういう事」
シャルロットは自分の魔力に少しだけ自信がついてきたのだろう。実際強くはなっているし、そこら辺の魔術師よりは強くなっているとは思う。
「ねえ母さん。この辺で少し広い場所とか、大きな音をたてて良い場所って無い?」
『ギャ? 魔術研究所の実験室ならそこそこ広いですけど』
「そこ、ちょっと借りて良いかな?」
『良いですけど……あー、わかりました。今から準備しますねギャー』
俺は立ち上がり、鞄を持った。
「どうしたの?」
「これから魔術研究所に行こう。今日は剣術じゃなくて魔術の勉強をしようか」




