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ゲイルド魔術国家2回目4

「なるほど。『リエン抱っこ事件』にはそういう裏があったのですね」

「……とうとうリエンもシャルロットの手中に。おめでとう」

 パチパチと手を叩くパムレ。

「ちょっと二人とも! そう言うのじゃないから! なんなら『心情読破』使って良いから!」

 不本意な出来事の中で一番だよ! というかシャルロットも何か言ってよ!

「リエンって結構軽いのよね。もう少し筋肉が必要ね」

「ここにきて剣術指南!?」

「ふむ、なるほど。『リエン抱っこ事件』の真相は単純にリエンの体重測定でしたか。それなら納得です」

「……シャルロットの天然ぶりは『ど天然のパムレ』でもわからない。まあ、そういうことにしておこう」

 自分でど天然とか言う人ほど信じられないからね!

 色々と声に出して突っ込みたい所をこらえていたらポーラが話し始めた。

「皆様には弟がご迷惑をおかけしたこと、姉であるワタシが改めて謝罪致します」

「いえ。いずれこうなることはワタチも予想してました。パムレ様が来なかったらワタチが魔力を吸う予定でしたし」

「その、カッシュは元気にはなりましたが、まだ何か異常があるのでしょうか?」

「あれは本人の問題ですね。魔力はその人の心。魔力は人がいなければ存在できず、共存関係ともいえます。だからこそ魔力が人よりも勝れば乗っ取ることも稀にあるのですよ」

「カッシュは乗っ取られていたの?」

「物の例えです。ですが大量の魔力によって抑えていた魔力が何かの術式になって放出することもあります。カッシュは多分『心情偽装』に近い何かで性格等に少し問題が出たのでしょう」

 大量の魔力があるって、それなりの問題もあるんだな……。

「店主殿の口ぶりから察するにご自身で経験が?」

「実はあります」

 母さんも? 一体どんな現象が……。



「大きなくしゃみをしたらノームの集落が崩壊しかけました」

「ああ、それね」



 いや、当時のノーム達にとっては大災害だろうけど、何と言うか全然恐ろしい現象に思えないんだよな。だってくしゃみだし。

「……パムレも日々気を付けている。たまにリエンに『魔力譲渡』をするけど、あれも細心の注意を払ってるよ?」

「そうなの?」



「……『魔力譲渡』中にくしゃみをしたら、リエンはパムレットしか話せなくなる」

「それは大変だ。シャルロットは絶対に『魔力譲渡』中にいたずらしないでね」

「どうして私!? しないわよ!」



 だって一番怖いし。平気で俺を抱っこするし。

「ふふ、やはり三名は仲が良いのですね。少し羨ましいです」

「何言ってるのよ。手紙でやり取りもしていたポーラと私だって仲良しよ。もちろんカッシュもその中にいるわよ」

「シャルロット……」

 時々シャルロットって良い事をさらっと言うよね。

「さて、そろそろここへ来た本題と行きましょう。確かガナリちゃんの話によるとゲイルド魔術国家に『蛍光の筆』があるみたいね」

「ガナリ様から聞きましたが、シャルロット様達が孤島を出てからは反応が無いそうです」

 手がかりが無いという事だろう。どこにも移動していない事を祈るしかないが。

「そういえば『蛍光の筆』ってどういう物なの?」

「あれは光の神『ヒルメ様』が文字を書くために『とりあえず作った』秘宝ですね。普通墨が無くなれば文字は書けませんが、その筆は墨を必要とせず、書いた文字は光り輝くと言います」

 原初の魔力の一つ『光』。その神様の名前は『ヒルメ』と言うのか。

「凄い環境にやさしそうね。墨も買わなくて良いし、事務作業をしている人には欲しい道具じゃないかしら?」

 いや、秘宝だから。庶民の味方風に言ってるけど凄い道具だから。

「欠点は白い紙に書くと、文字が見えないそうです。あ、暗いところで見れば問題ないそうです」

 あ、書いたときの色って白いんだ。それって地味に不便じゃね?

「いきなり教えるのも躊躇っていたので、そろそろ秘宝の危険性について教えようかと思います」

 そう言って母さんは部屋の奥にある黒板を持ってきた。というかこの部屋って結構色々あるんだな。地図とか魔術に関係しそうな道具とかあるし、ちょっと興味深い。

「まず皆様が回収してくれた『創造の編み棒』ですが、これは作った物に『命』を与えてしまう道具となります」

「命を?」

 そう言えば人形の姿の母さんの知り合いがいたな。編み棒で自分を作ったーって言ってたっけ。

「素材さえあれば、編み棒を使って人さえも作れてしまいます。それも理想的な人をです」

「理想的な?」

 そこで母さんは一冊の本を取り出した。

「パムレ様の世界では『人造人間』や『人工魔術師』という言葉がありましたよね?」

「……!」

 そこでパムレが少し驚いた。

「……戦争に勝つための最終兵器にして世界を終わらせた生命体。『擬人』とも言う」

「まあそういう存在というのは異世界でもこっちのミルダ大陸でも『需要はある』のです。簡単に兵士を量産できるなら戦争が好きな国は欲しいでしょう」

 そういう道具にもなりかねないのか。てっきりただの人形を作る道具だと思っていた。

「次にこの『蛍光の筆』ですが、中に原初の魔力の光が込められていて、使用者が魔力を持たなくても陣を描いた魔術は使うことができます」

「ただの光る筆じゃないんだ」

 墨が無くならない便利道具だと思ってたけど、誰でも魔術が使えるのは凄いな。

「それだけではありません。この筆の魔力は光。つまり悪魔であるワタチの天敵でもあります」

 聖術と呼ばれる種類の術は悪魔の母さんは苦手……というか脅威だろう。

 原初の魔力の光の後発の術式は聖術。うーん、一体何種類術があるんだろう。


「つまり店主殿が苦手な道具だから回収してってことかしら?」

「半分正解ですが、半分違います」


 一応国のお願いで動いているのに、筆を集める理由が『母さんが苦手だから』ってどうよ?



「本来悪魔術というのは光の魔力と相反する物。しかしこの『蛍光の筆』で悪魔術を使った場合、『聖なる悪魔』が召喚されます」



 ……いや、絶対笑わせに来てるでしょう。ちなみにポーラは一瞬で下を見たよ?



「えっと、聖なる悪魔って何?」

「む? リエン、馬鹿にしましたね。言葉通り『めっちゃ光る悪魔』です。綺麗な悪魔とも言えますね。あ、まるでワタチですね」

 全然内容が頭に入ってこないんだけど!

「……まあ、冗談はそれくらいにして、どれくらい危険か端折って教えるね」

「あ、危険なんだ」



「……聖術が効かない無敵の悪魔が誕生」



「大問題じゃん! なに冗談挟んでるの!?」



 前置きの所為で事の重大さが軽く感じていたのに、今一瞬で重く感じたよ!

「聖術が効かない悪魔術が使える……まるで『人間の』店主殿みたいな感じね」

「そうですね。というかそれを今からワタチが言おうと思ったのにどうしてくれるんですか。段取りというモノがこっちにもあるのですよ!」

「私が悪いのかしら!?」

 うん、シャルロットは悪くないと思うよー。とりあえずセシリーをシャルロットの頭に乗っけて慰める。

「ということで、使い方によって秘宝は脅威をそれぞれ持っています。『静寂の鈴』は周囲の魔力を抑制する力を持っているので、魔力の少ない精霊達は音の大きさによっては消えてしまいます。『タマテバコ』は時間を吸い取り、そして吐き出す。つまり人間を意図的に長生きさせたり、赤子を一瞬で老人にさせます。『精霊の鐘』は……ガナリ様が落書きをします。これらの脅威から守るために回収をお願いしたのです」



「ちょっと待って『精霊の鐘』だけ絶対どうでもいいよね!」



 さらっと言ってごまかしてるし目をそらしてる! 絶対思い浮かばなかっただけだ!

「まあ、原初の魔力が込められているってだけでも重要なんでしょう? そもそも原初の魔力がどれくらい脅威かはわからないけど、ミルダ大陸を守れるならとりあえず頑張りましょう」

 まあ、そのために苦労して『創造の編み棒』を手に入れたわけだし、今更諦めはしないけどね。



「……ミルダ大陸」



 ぼそっとパムレが独り言を言った。

「どうしたの?」

「……ん。何でもない。『世界』を守るために奮闘する二人を守るのがパムレの仕事。頑張る」

「うん。改めてよろしくね。パムレちゃん!」


 ☆


 魔術学校を出て宿に向おうとしたが、シャルロットが『ついでにゲイルド魔術国家の王様に挨拶するわ』と言ったので、名目上護衛としてついていくことに。


「息子がまた世話になったそうで。すまなかった」

「すでにポーラから謝罪とお礼を頂いたからこの話は終わりで良いです」

「ありがとう。それとガラン王国とは順調かつ有効的な貿易を続けられて、我々ゲイルド魔術国家としてもとても嬉しく思う」

「シャーリー女王から話は伺ってます。正直最初は質の良い水で最初は不満を言っていましたが、ガラン王国の医療関連はその水のおかげでかなりの民が命を救ったと聞きました。不服を呟いたことを申し訳ないと今でも思っているそうです」

「こちらとしても当初は水だけで良いのかと思いました。この先も続く貿易故、水以外もご協力できる事はしていきたいと思います」

「ええ。こちらも」

 そう言ってシャルロットはゲイルド王にペコリと頭を下げた。


「ちなみにガラン王国の姫はゲイルド魔術国家に」

「では私はこれで」

「うぐ……こほん。良い旅になる事を。ポーラ、送ってやりなさい」

「はい」


 ☆


 門までポーラと一緒に歩くことに。

「ゲイルド王の話、まだ途中じゃなかった?」

 あからさまに遮ったように見えたけど。

「良いのよ。どうせいつもの縁談の話とかだから」

「こればっかりは父上の悪い癖と言うか……シャルロット、気を悪くしないで?」

「ポーラは気にしなくていいわよ。あ、別にカッシュが苦手というわけじゃないわよ?」

「ありがとう。カッシュもいずれ王になるなら相手を見つけないといけないですし、父上が気にするのもわかるの。まあ、いつか見つかると思うけれど」

 王族ならではの会話だろう。うーん、結婚とか縁談とかなかなか難しい世界の話である。



「やっぱりカッシュの相手はリエンだと思うのよね」

「おい待てこのど天然パムレ大好き少女。何ぶっ飛んだ言葉を言い出すんだこのやろー」

「確かにパムレちゃんは大好きだけど、貶されてるんだかどうかわからない発言ね!」



 万が一俺が結婚するなら女の子だよ!

「時々思うのだけど、シャルロットって特殊な感性を持っているわよね。カッシュとリエンが仲良くしていた時もなぜか一歩下がってニコニコしてたし、リエンの精霊がピョコピョコ机の上を歩いているときもニコニコしていたし」

「あれはね、大叔母様からの教えよ。『この目で世界を見なさい』ってね」

 それ土地とか文化を見るって意味じゃない? なんか別な世界を見てない?

「シャルロットには時々戸惑いますが、それも貴女の良いところですわね。さて、ワタシはここまでです」

 いつの間にか門に到着していた。

「ここからすぐですが、ここはゲイルド魔術国家。雪道には気を付けてくださいね」

「ええ。見送りありがとう」

 そう言ってポーラと別れ、俺たちは寒がり店主の休憩所へ向かった。



「きゃっ!」



 うん。隣で早速転んでるけど、まあ良いか。

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― 新着の感想 ―
[一言] シャルロットは本当にイイキャラですよねww
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