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ゲイルド魔術国家2回目3

「へ……あ……せん……せい!?」

 カッシュが走ってシグレット先生の所へ走った。同時に俺たちもシグレット先生の所へ向かった。

「今治癒術を……っく!」

 カッシュが治癒術を使おうとするも、少し輝く光は見えたがすぐに消えた。

「魔力が……」

「……そ。魔力管理は魔術師の基本。特に治癒術を使えるゲイルド王家は緊急時に一番活躍できる……『はず』なのにね」

「カッシュ! ワタシも手伝います」

「姉様……」

 ポーラが急いで治癒術を発動するも、流れてくる血は止まらない。

「待って……これ、助からない」

「姉様!?」

「だって……こんなの……切り傷とか言う話しでは無いもの!」

 高温で焼けた何か……うっぷ。正直直視できないほどの物が……。

「『落ち着いて……ゆっくり呼吸よ』」

 シャルロットが俺の肩に手を置いて声を出した。するとさっきまで吐き気がしていたのが少し楽になった。そうか、音の魔力か。

「そんな……僕は……」

「……慢心や自信は周囲を見えなくする。と言ってもカッシュは魔力が多すぎて逆に酔ってしまったのもある。これはシグレットの責任でもあるね」

「どうして」

「……?」

「どうしてシグレット先生にも魔力壁を張らなかったのですか!? マオ様だけでなくシグレット先生も!」


 その瞬間。



『パーン』



 ポーラがカッシュの頬を思いっきり叩いた。


「ふざけたことを言わないで。慢心し自分の力を制御できなかった挙句、それを相手の所為にした。これが理解できないのかしら!?」

「それ……は」

 と、そこでシャルロットが俺に耳打ちをした。

「でも、カッシュの言う通りパムレちゃんなら魔力で壁を何個も作れるんじゃないかと思うんだけど、難しい事なの?」

「魔力壁……単純な魔力の壁なんだけど、基本的に一度に張れる魔力壁は一つ。例外として俺は精霊二人いるから自分含めて三つ作れるけど、魔力量は同じだから三枚重ねても一枚と変わらない強度になるんだ」

「理解したわ……つまり、その……完全に八つ当たりってことね」

 シャルロットが理解した所でカッシュを見ると、膝をついて泣いていた。

「僕は……どうすれば……」

「謝罪しなさい。王子として三大魔術師マオ様や、シグレット先生にも」

「ですが姉様、先生はすでに!」



「ほれ、早く俺に謝れー」



 ……ん?

 先生の声が背中から聞こえて来たんだけど。

「って先生!? え!? 死んだんじゃ!?」

「若いからって簡単にそんな単語を口走るな。俺がお前の母さんに怒られるんだからな」

 頭を軽く掻きながら苦笑する。というか怪我一つしてないんだけど。

 それと今でも血を出している黒焦げの何かが目の前にあるし。



「……あ、それはパムレ作『人型土人形』。中には赤くてドロドロの植物を入れることによってより現実味のある形になった」



「「心臓に悪い冗談はやめてよ!」」 

 俺とシャルロットは大声で叫んだ。

『ぷはあ、リエン様があまりにも深刻な表情で話すものじゃから、演技上手じゃのうーと思ってたが、やはり本気で奴が死んだと思ったか』

『ご主人単純ー』

 え!? 二人は気が付いてたの!?

『当然じゃて。そもそもこやつの魔力が無かった時点で入れ替わっておることは知ってたわい』

「それならそうと……」

 続けて話そうとしたが、カッシュの言葉に遮られた。


「誠に申し訳ございませんでしたシグレット先生。僕は自分の力にかなり溺れていたことが今回わかりました。これまでの生意気な行動等、一度考えさせていただきたく存じます!」

「わかりゃあ良い。まあ、こうなったのも俺の責任だからな」

「どういうことかしら?」

「こいつも言ったが、カッシュの魔力の再生力は人よりも優れている。だからこそ魔力に支配されそうになったんだ。今回マオに協力してもらったのは、一度体内の魔力を全て出し切ってもらう事。それと魔力による支配を経験し、そこから取り返しのつかない事を実際に経験してもらう事。この二つをマオにお願いしたんだ」

 そうだったんだ。っていつお願いしたんだか。

「いやでも目の前で教師が黒焦げになるって……あまりにも衝撃的だと思うよ? 俺ならしばらく外で歩けなくなると思うけど」

「リエンは大丈夫だろう。なんせお前の母親が『アレ』だからな。だがカッシュは違う。今まで布団で生活をして外を知らない。ましてやこれから王になる人物。今後取り返しのつかない事の一つや二つはするだろうが減らすことはできるだろう。仮想でも経験すれば減らすことはできるだろう?」

「心に刻ませていただきます」

 ぺこりと頭を下げる。

『む? リエン様よ。ちょっとそのカッシュとやらの目の前に立つのじゃ』

 え? 今頭を下げているのに?

 とりあえずセシリーの言う通り前に出た。

 と、目の前のカッシュが俺に向って倒れ掛かってきた。


『魔力切れ―。というかかなり無理してたねー』


 こうなることも予想していたのだろうか。俺やシャルロットやポーラ以外は全部見通してたんだろうな。もちろん遠くに見える魔術学校の校長室からきっと眺めているであろう母さんも予想していたんだろうな。


 ☆


「ごめんなさい」

「もういいから。というか調子は大丈夫?」

「少し頭が痛みますが、魔力も戻ってきたので大丈夫です」

 カッシュの寝室に俺とシャルロットとポーラ。そしてカッシュが集まった。

「セシリーとフェリーは外で遊んでもらっても?」

『む? ちょいと魔力を使わせてもらうが、リエン様の母上のところへ行こうかのう』

『魔力を吸われないように部屋の隅っこにいることになるけどねー』

 そう言って二人は退室。

「それよりも僕が気を失っている間にここまで運んでもらってありがとう」



「あ、いや、ちょっと階段きつくて途中からシャルロットに運んでもらった」

「感謝しなさい。ガラン王国の姫に運んでもらったことを!」

「ここぞとばかりに威張らないでもらえるかしらどうもありがとうね!」



 本当はすっごく突っ込みたいんだよ?

 ポーラの言う通りここぞとばかりに『あ、そういえば私ガラン王国の姫じゃん』的なノリで言ってくるけど、剣の特訓で体力がついたと思っていたらまさかのすごく長い階段。途中でシャルロットに変わってもらったんだけど、もう情けないのなんの。

 ポーラも『あきらめないで! 絶対後から何かにつけてシャルロットは言ってくるから!』って言ってたけど、階段の途中で落とすわけにもいかないし、すっごく悔しい声を出しながらカッシュをシャルロットに渡したよ。

「リエンならまだ良いけど、さすがに王子を運ぶというと兵士たちの視線が気になったわね」

 俺ならいいって何だよ! 俺は運ばれるの嫌だよ!

「ちょっと待ってくださいシャルロットさん。僕ってどう運ばれたのですか?」

「え? こうだけど」



 いや、ひょいって感じで俺を持ち上げないで?

 一瞬で膝と背中に手を淹れられて持ち上げられたんだけど! 顔近いよ!!



「僕……外歩けない」

「シャルロットさんやい。せっかく大きな悲劇? を乗り切ったのに、それ以上のトラウマを与えてどうするの? それと早く降ろしてもらっていい?」

「リエン。今更だけど、結構恥ずかしいわね」

「言ってる場合!? そう思うなら早く降ろしてよ! ほら、ポーラも『きゃー』って声を今にも出しそうな感じで口を両手で隠しているから!」

「普通男性が女性にする持ち方だと思っていましたが、逆になると不自然ですわね。でもシャルロットは不思議とそこまで違和感を感じないのは元々剣術をやっていたからかしら?」

「そうね。母親や大叔母様から受け継いだ肉体は私も多少影響があると思うわ。時々パムレちゃんを撫でていると『ちょっと痛い』って言われることもあるわ」

 どんだけ強く撫でてるの!? というか地味にパムレもその辺は言ってくれるんだね!

「ともあれ、今回は僕が色々と勉強不足で招いた事件。マオ様がいなかったらシグレット先生はいつああなっていたかもわかりません。今日の事は一生忘れませんよ」

「そうね。私も姫と言う立場で言わせてもらうけど、今日の出来事は今後起こりうると思うわ。間違って馬を走らせた結果、近衛兵に大けがを負わせた事を思い出しちゃったわ」

 あ、シャルロットもそういう経験あるんだ。

「肝に銘じます」

 ペコリと頭を下げるカッシュ。ポーラは布団をかぶせてカッシュはそのまま眠りについた。

「さて、セシリーとフェリーを迎えに行きましょう」

 本当は呼べば来るけど、まあ、母さんにも会えるし行くとしよう。


 ☆


「え? え? り、リエン? どうしてシャルロット様に抱っこされている状態なのですか?」

「……パムレもさすがにこの状況は予想できなかった」



「いつ降ろしてくれるのかなーって思ってたけどまさか校長室まで運ばれるとは思わなかったよ! というかポーラも違和感があったなら言ってよ!」



「いえ、その、あまりに自然にそのまま歩くものですから、もうそれが普通なのかと」


 十六年生きてるなら普通と異常の区別はつくでしょう!

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[一言] シャルロットイッケメエエエンんん!!!
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