ゲイルド魔術国家2回目2
「『獄炎・改変』!」
ばああああああああああああん!
魔術学校に入るなり大きな音が鳴り響いた。
「……ふむ、これは凄い」
「なんか黒煙が上がってるんだけどあれって……」
魔術学校の校庭からもくもくと上がる煙。
「また成長しましたわね。あれはおそらくカッシュですわ」
ポーラの弟にしてゲイルド魔術国家の王子。ある事情で布団から出れないほどの病に侵されていたけれど、俺たちが問題を解決して、それからリハビリをして今では『かなり元気に』なったって聞いていたけど……。
「元気を通り越してない?」
「そもそも魔力に恵まれた子ですから。あ、そろそろ到着します」
校庭に到着。中央には結構大きめの穴ができていた。
と、同時にシグレット先生の声が聞こえた。
「あのなあ、ここまではやるな。怪我人が出たらどうする」
「大丈夫です。周囲の確認や安全の確保。万が一の対応はすでに考えています」
何やら揉めているらしい。
「こんにちはシグレット先生。それとカッシュ」
「シャルロットさん? それにリエン!」
思いっきり走ってきて俺の手を握るカッシュ。
……を見て鼻を手で隠すシャルロット。え、何故?
「あ、気にしないで。別に『男の友情に何か心揺れる感情が抱いた』わけじゃないから」
「あっそ。それよりカッシュ。久しぶり」
「え! どうしてここに!? というか姉様も? ええ?」
ぴょんぴょん跳ねるカッシュ。そこへシグレット先生が呆れ顔でこっちへ向かってきた。
「一応授業中な。この授業で最後だからそれまであそこの椅子で待っててもらえるか?」
☆
授業が終わり、再度カッシュがこっちへ来る。後ろからゆっくりシグレット先生も歩いて来ていた。
「改めて久しぶりリエン! そしてシャルロットさん! そしてパムレさん!」
「久しぶりね。それにしてもさっきのはカッシュが?」
「はい! あれから猛勉強をして、剣術も極めつつ魔術も頑張って覚えました!」
それにしては急成長である。魔術に自作の工夫を入れてたみたいだし、相当な技術を持っている。
「ですが魔術学校の校長の息子であるリエンならあれくらい簡単だと思うので、僕はもっと勉強を」
「待って待って! さすがに改変まではできないよ。俺は基礎魔術までしか教わってないし」
「そう……なの?」
ポカンとするカッシュ。
と、俺の見間違いだろうか、一瞬不気味な笑みを浮かべたような。
「そうなんだ! 僕ってリエンより強くなったんだ! あはは、なんだか嬉しいな」
「え?」
いや、強いかどうかは別かと思うけど。
「もしかして今なら三大魔術師と対等に戦えるくらいにはなったんじゃ」
「カッシュ!」
そこへポーラがカッシュを呼び、強く睨んだ。
「パムレ……いいえ、マオ様に失礼です。今すぐ謝罪を」
その強い言葉にカッシュは。
「嫌だよ。事実でしょ?」
何だろう。この不気味な感覚は。
「……ポーラ、気にしないで。パムレは気にしない」
「ですが」
「そうだパムレさん。今ここで勝負しよう? もし僕が勝ったら『三大魔術師』の称号を僕に頂戴?」
「なっ!」
ポーラが驚いた。シャルロットは呆れ、そしてシグレット先生は。
「馬鹿かお前は。いい加減に」
「……わかった。そんな『くだらない』称号くらい勝てたらすぐに譲る」
パムレの表情はいつも通りだが……何だろう、この声の中に潜む何かは。
「じゃあ中央へ! やった……とうとう僕が三大魔術師に。そしてゲイルド魔術国家の次期王の威厳がさらに……」
そうつぶやきながら校庭中央へ向かった。
「ねえ、なんだかカッシュ、おかしくない?」
「ええ、国を出る前は凄く礼儀が正しい弟でしたが……なんだか今は違うような」
「とにかくパムレ、大丈夫?」
「……ん、結果は見えている。気がかりはある。セシリーとフェリーは念のためポーラの護衛をしてて」
え、パムレから精霊達にお願い?
☆
「ったく、それじゃあ始めるぞ。俺の判断で戦闘は止めること。もちろん無理だと思ったら即座に言うんだ」
「……わかった」
「うん!」
そしてシグレット先生の合図により試合が
「『獄炎・の、改変』!」
ちょ!
今若干早くなかった!?
というか、魔術を放つ前の詠唱が無かったんだけど!
「リエン、やっぱり変よ! 今の早すぎない!?」
『試合前に唱えておった。人間では確認できぬだろうな』
「そんなのあり!?」
『人間の世界ではありえぬのじゃろうな。じゃが、自然の世界ではごくありふれた風景じゃ。じゃが魔力お化け(マオ)ならあれくらい余裕じゃよ』
見てみるとパムレの周辺には魔力壁が設置されてあった。
「凄い! あの短時間で!?」
「……もう終わり?」
「えへへ、まだだよ!『獄炎』!」
再度鳴り響く爆発音。
それを的確に防御するパムレ。
「凄い凄い! 全部防いでるね!」
「……物足りない。あくびが出るよ?」
「なっ! ふ、ふーん。ちょっと手加減してたけど本気で行くよ!」
「……っ!」
突然俺たちの前にも魔力壁が設置。これはパムレが?
「『獄炎・超改変』!」
だああああああああああああああああん!
ありえない地響き。そしてすさまじい爆発音。
校舎の窓ガラスが一気に割れ始めた。
「きゃあああ! な、何なのですか?」
「リエン、ちょっと大丈夫なのこれ!?」
「わからない。セシリーとフェリー、魔力壁の状態は?」
『うむ、魔力壁は少し割れたが大丈夫じゃ。もう一度来ても我らで対処できる』
『問題は魔力お化けの方ー。というか……どっちも魔力お化けー?』
確かにすさまじい爆発だった。砂煙が舞って見えないけど、おそらく大きな穴ができているのだろう。
徐々に煙が消え始めると、二つの人影が見えた。
「はあ、はあ、え、全然効いてない?」
カッシュが驚いていた。パムレは魔力壁で自分を守っていた。
「くっ! 魔力はまだ少しある……壁も少しヒビが入ったし、あと少し」
「……無駄。これくらいすぐに直せる」
そう言ってパムレは一瞬で魔力壁を修復した。
「なっ! あと少しで三大魔術師の称号が……」
カッシュがそう言うとパムレはため息をついた。
「……はあ、カッシュは残念だけど『三大魔術師』の資格は無い」
「そんな! せめて三大魔術師の候補や弟子とか!」
「……はあ、あれを見てそう言える?」
と、パムレは俺たちとは真逆の方向を指さした。
そこには。
血だらけで倒れているシグレット先生の姿があった。




