ゲイルド魔術国家2回目1
「改めて思い知ったけど、寒いわね!」
港町で服を購入して厚着になったシャルロット。どうやらガラン王国との貿易がうまくいっているということで毛皮製品が比較的安価で販売されたとのこと。これを期に俺たちも服を購入。
地味に服一着の予備一着を持って、夜は洗って魔術で乾かすという生活を続けていた所為か、ところどころ穴が空いていたりしていた。
シャルロットは少しだけモフモフの服装となり、以前の『ちょっとお金持ちな町娘』から『結構お金持ちな町娘』に進化した。いや、姫なんだけどね。
「パムレちゃんは買わなくて良かったの? いつも白いローブだけど」
「……んー、別に。着たまま洗って乾かせるから」
うん。普通高度すぎるんだけどね! 何着たまま洗って乾かすって。
『ちなみにご主人ー。ウチの力でこれくらいの寒さは防ぐ付与くらいはできるよー』
「早めに言ってほしかったなー。まあそこまで値段も高いわけじゃなかったから良かったけど」
フェリーが頭の上に乗ってるけど、ほんのり温かい。暖めてくれているのだろうか。
「すー。はー。ふふ、なんだか地元に帰ってきたという感じがしますわ」
「ポーラは大陸一周の旅をしてたんだもんね。どうだった?」
「ふふ、まさか皆様に会えるとは思わなかったし、こうして一緒に旅ができて嬉しかったです。カッシュが聞いたら羨ましがるかしら」
「魔術学校にも寄って行こうかしら。シグレット先生はそろそろ戻っているかしら?」
教師が本業だけど母さんの命令で出張していたんだもんね。会えたらいいなー。
「そ、そろそろ、出発、せぬ?」
って、フブキがすっげー震えて気配も消さずに後ろで立ってるよ!
「ただでさえ薄着なのに、なんで新しい服買わなかったの!?」
「寒さなぞ、儂には、きか、くちゅん!」
「「「『『(……)くちゅん?』』」」」
最高記録じゃね? とうとう五人が声をそろえたぞ!
「フェリー。悪いんだけどフブキを暖めてもらって良い?」
『はーい』
「ふおぉ。これは良いのう。隠密の精度は落ちるが、背に腹は代えられぬのう」
『なら『認識阻害』使うよー?』
「フェリー。出来れば暖めるだけでお願い。俺の魔力消費は最低限で済ませたい」
『承知―』
そう言ってフェリーはフブキと一緒に身を隠した。
『ふむ、寒がりな『フブキ』とな? これは突っ込んで良いのか?』
「俺も薄々思ってたけど、黙っておこう?」
名前にその単語が入っているからと言って、そうとは限らないからね。親から『そうなってほしい』という意味も込めて付けられるのがほとんどだと思うよ。
「ん? 名前か。そう言えば俺ってなんで『リエン』って名前なんだろう」
ふと独り言が口から出た。
「店主殿に聞いてみたら? その気になればいつどこでも聞けるんだろうし」
「まあそうだけどね。シャルロットは名前の由来って聞いたことある?」
「ガラン王国の王族の女性って、古くから『シャ』が最初に入る事になっているの。大叔母様のシャムロエ様や、母上のシャーリー様。祖母のシャンデリカ様や大叔母様の娘のシャルドネ様という感じね。あとは語呂で決めているみたい。呼んだ時の響きが心地よければ、国民にも愛されるだろうという意味が込められているそうよ」
言われてみれば全員『シャ』が付いている。うーん、王族としての受け継がれる何かなのだろうか。
「ポーラは?」
「ワタシはミルダ様の教会にある教本からですわね。伝承によるとミルダ様の母上の名前が『ゲイルド』という名前で、その方がこの土地を繁栄させるために色々な生きる術を記した本があり、そこには人の名前らしき項目があるのです。おそらく偉大な方たちということで、その方たちの様な偉大な人物になるようにということで、ワタシはポーラとつけられました」
へー。ということは過去に『ポーラ』という人がいたという事なのかな。
そもそもミルダ様のお母さんって『ゲイルド』って名前だったんだ。ミルダ大陸のゲイルド魔術国家。そしてミルダ様がこの土地にいる理由がなんとなく繋がった気がする。
「パムレは?」
「……え、『パムレ』の方?」
あ、違った。本名はマオだった。
「本名の方。マオってどういう意味なのかなって」
「……まあ、これと言って隠す理由は無いけど、元々は『MAOU』かららしい」
えっと、どういう意味だろう。
「……意味は全てを破壊する存在とか、人類の敵とかで使われる」
「「「……」」」
想像以上に重いんだけど!
「……あくまで最初の由来。そもそも仮の名前で呼ばれていたのを、おせっかいな人が女の子らしい名前として『マオ』ってつけた。これはこれで結構気に入ってる」
本人が気に入ってるなら良いけどね。それにしても『まおう』って聞こえたけど、別の世界の単語なんだろうな。
「ちなみにフブちゃんは?」
「吹雪のように冷酷に、そして素早く。そうつけたそうじゃ。くちゅん」
うん。全く吹雪のごとく冷酷さというのは感じられないけどね!
『リエン様よ。セシリーという名は?』
「え、セルシウスって自分で名乗ってたから」
『フェリーはー?』
「フェリーって感じがしたから」
『『適当過ぎん!?』』
精霊ズからの突っ込みが頭を響かせた。
『リエン様よ。確かに契約時にはそう言っておったが、あくまでこう……照れ隠し的な奴だと思ってたぞ? まさか本当にそんな理由で!?』
『セシリー姉様は良いじゃん。ウチはその時の思いつきだよー?』
「セシリーに関してはそれがしっくり来たんだよね。フェリーは契約名はそれだけど、なんなら普段呼ぶときの名前は別にしようか?」
『おお! 少し期待ー』
うーん。と言っても何が良いだろう。
「そうだ。パムレが以前考えた『お菓子探偵ジェノサイドインフェルノ』は?」
「……よく覚えているね。でも今つけるなら『暁の猛火エクスプロードバーンストライカー』かな」
『却下ー! 意味不明な上に全然可愛くないー!』
☆
ゲイルド魔術国家の城下町に到着。
門を通る前にポーラが軽く挨拶を交わすとすぐに通してくれた。まあ姫だしこれくらいは当然だよね。
「そちらの男性はリエン殿ですよね?」
「え? そうですけど」
門番に止められた……って、ここで止められるってちょっと緊張するんだけど。
「いえ。ふふ、実はポーラ様が旅に出る前、頻繁に城下町に来て住民と会話したり、日曜学校の先生をしてくれたりしたのです」
「そんなことが?」
「あれほど自分の立ち位置にこだわっていたポーラ様や、ゲイルド王が国民のために少しずつ考え始めたのは学校でリエン殿一同と出会ったからと聞いています。個人的な挨拶となりますがお礼を言わせてください」
「あはは。そういうことですか。その、なんだか照れますね」
そんな話をしているとシャルロットが遠くで手を振って呼んできた。
「この事はできれば」
「了解です」
軽く頭を下げる。
「何を話してたの?」
「他愛もない会話だよ」
そういえば今日のご飯は何だろう母さん特製のハンバーグとかだと嬉しいけどこの土地だと野菜料理かな調理後は氷のお菓子とかも美味しそうだけどできることなら温かい飲み物とか良いなそうだ温泉もあるし今日は情報収集を終えたら温泉にでも行ってみようかな港町の温泉は行ったことあるけどここの温泉って前回行けなかったんだよね。
「『本当に他愛もない会話』をしたのね。はあ、温泉ねー、私もそろそろ温かいお湯に入ろうかしら」
ふう。絶対『心情読破』を使ってくると思ったよ!
咄嗟にハンバーグを思いついてひたすら考えてて正解だったよ!
「……凄い。ある意味『心情偽装』に近い技術。セルフ『心情偽装』だね」
「パムレにはバレてたか」
「何を言っているんですの?」
「他愛もない会話。それよりも久々に魔術学校の生徒とかと会いたいかな」
「そうですわね。カッシュもいるでしょうし、まずは魔術学校へ行きましょう」




