海上の奇襲
向かってくる三隻の船。よく見ると弓のような武器を持っていた。
『ご主人ー。射程圏内だから燃やすことはできるよー』
「それは最後の手段で考えよう。多分この海の真ん中で燃やしたら絶対生きて帰れないから」
『相手は火の弓を使ってくるけどー?』
「それでもできれば捕まえる方針で。俺たちは一般人だからさ」
そしてとうとう賊の攻撃が始まった。
「お前らは柱の裏に隠れろ! 弓などの飛び道具はかならず限界がある。反撃まで怪我するなよ!」
「「やあ!」」
船長の掛け声に全員が防御態勢に入る。俺もセシリーから力を借りて氷の壁をいくつか生成する。
「ぐああ!」
一人が弓の攻撃を受けたらしい。
「こちらへ! ワタシが応急処置をしますわ!」
「すまねえ……」
ポーラは治癒術が使える。そういう意味ではかなり貴重な存在だろう。
徐々に弓の攻撃が減り始めてくる。すると、強めの振動が襲ってきた。
「少年、気をつけろ! 奴等が乗り込んでくる!」
「わかった! セシリーとフェリー、力を貸してくれ!」
「うむ、今回ばかりはリエン様の魔力を惜しみなく使わせてもらうぞ」
「ご主人もー、無理しないでー」
ガラン王国の秘宝の剣を取り、警戒。
「のりこめええええ!」
族の掛け声とともに賊が乗り込んできた。
俺の考えは甘かった。てっきり前方から来ると思っていたら、弓の攻撃で隠れている間に回り込まれていて、前から一隻、後ろに二隻の船があった。
「囲まれてる!?」
「迷うなリエン様よ! 後方は精霊で何とかする! リエン様は前方を!」
「わかった!」
前から二名。どちらも右手に刃物を持っている。
「左は儂が行こう。リエン殿は武器だけを狙え」
「ありがとう!」
フブキの合図により俺は右の賊の武器を狙って一振り。
「なっ! こいつ、子供のくせに」
「てあああ!」
「があっ!」
短剣の裏。持つところを相手に強打させ、気絶させる。
「良き判断じゃ。うむ?」
と、フブキの後ろからこっそり近づいてくる族が、その場で倒れた。
「あちゃあ、反射的に強打したが……まあ生きているじゃろう」
全然見えなかった……これが実力差だろう。
と、驚いていると、族賊の一人が大声を上げる。
「折りたたまれている帆に火をつけろ!」
いくら折りたたまれているとは言ってもこの距離なら当てられる。これはまずい!
「リエン様よ、ちょっと魔力を借りるぞ!」
「え?」
「『氷結晶』!」
セシリーから少し多めの魔力を吸われる感覚と同時に帆が凍り付いた。
「これで燃えはせぬ。逃げることは難しくなるが、燃えるよりはましかろう」
「なっ、手練れがいる! そいつから捕らえろ!」
盗賊の注目はセシリーに集まった。
「やべえ、あの姉ちゃんが狙われるぞ」
船長が心配し俺に声をかけた。
「大丈夫です。彼女は精霊なので姿を消せます」
「お、おう、わかった。とにかく相手の頭を落とせば……っぐ!」
賊の船にはまだ人がいて、俺たちの船に時々斧か何かで攻撃をしていた。そのせいで少し揺れている。
「やべえな、いくら丈夫に作っててもこう何度も攻撃されてたら無理だ……ぐっ!」
「船長!」
船長の顔の横に矢が飛んできた。ギリギリ当たらなかったが、切り傷ができた。
と、弓を持った大男が一人、こっちへゆっくりと迫って来ていた。
「へへへ、良い女もいるじゃねえか」
「お前が頭か」
「残念だが俺は頭の一つ下と言ったところだ。頭は俺たちの勝利を船の上で待っている」
「へっ。戦場に出てこない賊なんぞ、肝が据わってねえな」
「頭を侮辱するか。なら、わざと外した弓を今度は当ててやろう」
ゆっくりと弓を引く賊。
次の瞬間。
ばあああああああああああああああああああん!
「な、なんだ! うお!?」
今までにない揺れと波が襲い始めてきた。
「船長おおおお! 前後に……怪物があああ!」
「なに!?」
怪物? 魔獣か!?
恐る恐る見てみると、ありえないほど太くて大きな触手のようなものが賊の船を掴んで、俺たちの乗る船のはるか上で締め付けていた。
あれって……母さんに使用禁止した『深海の怪物』か?
でも、悪魔術を使う人はここにはいないような。
「リエン様! あれは悪魔術ではない!『魔術』……いや、『召喚術』じゃ!」
召喚術?
異世界や異空間から魔獣や魔物を呼び出す術式で悪魔術とは少しだけ異なるけど根本的な部分は同じな技術で、実際使える人は数名しかいないはず……。
と、そこへシャルロットが個室から出てきて俺を呼んだ。
「大変よリエン!」
「どうした!」
「何度も来る小さい揺れに、パムレちゃんがとうとう『本気で』怒っちゃった」
「船員さん! 今すぐ個室に避難!『三大魔術師マオ』が本気で怒り始めたぞおおおおお!」
☆
「総勢五十人。なんというか、この船だから運搬できるものの、今後の課題は多そうですわね」
「ガラン王国でも対策を練るわ」
「ありがとう。それよりも……」
少し離れたところをみると、精霊たちとパムレがいた。
『ぬおおおおお! これでどうじゃ!?』
『重いいいいい!』
「……ふむ、全然気持ち悪くない。これならパムレも船を克服できそう」
精霊ズは小っちゃい状態でパムレを懸命に持ち上げていた。
「ごめんよ二人とも。港まであと少しだから耐えてくれ」
『これくらい容易いものじゃあああ。ぐう、ふおおおお! やっぱり辛いのじゃあああ!』
『後で魔力をー、沢山ー、欲しいー』
わずかに宙に浮くパムレだが、どうやらこの状態だと大丈夫らしい。というか精霊二人が持ち上げれるなら、俺もその内疲れた時にやってもらおうかな。
『リエン様は無理じゃああ。こやつの体重がギリギリなだけじゃよおおお』
まあ、持ってもらう度に隣で叫ばれてもなあ。うーん、とりあえず三人は置いといて。
「フブキ、立てそう?」
「無理じゃ。腰が……抜けてのう……」
苦笑するフブキ。一応捕らえた賊が逃げないか見守るために近くで椅子に座っているけど、肝心の賊はというと。
「俺は何を見せられた? 目がいくつもある怪物が俺を食おうと」
「俺なんか触手からすさまじい水圧の水が飛んできて、一瞬息ができなくなった」
「パムレットパムレットパムレットパムレット」
「おい、こいつ、さっきから『パムレット』しか言わなくなったぞ……」
と、全員が戦意喪失してしまった。
パムレの放った『召喚術』は『深海の怪物』にも似ていた気もするけど、とにかくパムレの怒りが頂点に達して、とにかく放った『怒り』の表れだろう。
と言うか一名『パムレットの刑』にあってるし、相当暴走したんじゃないかな。
「やはり三大魔術師マオの名は侮れぬ。リエン殿から見てどれくらいの大きさの怪物が見えた?」
「この船の五倍くらいの怪物かな」
「魔術等に疎い儂じゃが、それでもあれは異常だと感じた。違うか?」
「規格外だとは思うよ。まあ、パムレだからと言われたら納得してしまう自分もいるかな」
「そうか。ふむ、やはりあ奴は底が見えぬ。まあ、リエン殿やシャルロット殿も底が見えぬがのう」
そんな会話をしていたら、船の監視台の船員が大声を出した。
「港が見えた! 上陸の準備を!」
色々あったけど無事に到着したみたいだ。




