孤島から船出
精霊の鐘から戻って、再度休憩所に到着すると、フブキとセシリーが何やらお話をしていた。
「前から気になってはおったが、儂ら話し方そっくりじゃのう」
『ここは年上の我に譲るべきじゃないかのう? というかお主の話し方は一人称すら『光の神』と同じじゃよ。はよ話し方変えた方が罰当たらんぞ?』
「生まれてこの方この話し方しか知らぬゆえ。むう、年長者という単語を使われると儂としても言い返せぬのう」
「……あ、リエン。おかえり。今二人が超くだらない会話をしてて困ってた。へるぷみー」
「『くだらないとは何じゃ!』」
独特な話し方なのに、こうして出会うってもはや運命だよね。
一方でポーラはフェリーとお話をしていた。
「へえ、ゲイルド魔術国家も寒いですが、砂漠の夜はそんなに冷えるのですね」
『超寒いみたいー。ウチはわからないけどねー』
最初気を失っていたポーラだけど、やはり一緒に行動していると慣れてくるんだろうな。
「そういえばフブキ、ゲイルド魔術国家の王族を暗殺する依頼とかもあったの?」
なんとなく冗談のつもりで聞いてみた。
「む? そりゃあったぞ?」
「……(ぱくぱく)」
うん。これは完全に俺が悪いよね! そしてポーラは驚いてまた気を失いかけてるよ! 今更だけどポーラの気を失った回数と俺の気を失った回数は同じくらいじゃないかな!
「そもそもイガグリさんの護衛の代わりと聞きましたが、元々何をされていた方なのですか?」
あ、そういえばまともに紹介してなかったっけ。
「うむ。イガグリは同郷でのう。先日までは暗殺を生業としておったが」
「シャルロット!? 大丈夫なのですか!? え、実はワタシここでこっそりやられませんか!?」
「大丈夫よ。今のフブちゃんは私の直下だから。むしろ私の次に守ってくれるわよ」
「そうですか……いや、でもゲイルド魔術国家の暗殺依頼という言葉は聞き捨てられないのですが!」
「うむ。残念じゃが引き受けたことは無いのう。というのも、ゲイルド魔術国家は魔術が優れている土地ゆえに、何かの間違いで痕跡を辿られて居所を掴まれる可能性を加味したら、引き受けぬ方が良いのじゃよ」
仕事は選んでたんだ。
「そもそも儂らが引き受ける仕事はかなり少ない。かなり手練れの盗賊退治や軍には頼み辛い違法奴隷の解放など。それ以外だと情報収集が主な収入源だったりするかのう」
へー。そういう意味では本当にお金や食べ物に困っていたんだ。
「でもガラン王国の王族は狙ってたんだよね?」
「魔術師少ないし格好の的じゃな。じゃがシャムロエ殿にことごとく阻止されたがな。かかかっ!」
「(ぱくぱく)」
いや何「良い思い出だねー」な雰囲気出してるの? 命のやり取りだよね!?
「リエンも気にしすぎですよ。そもそも『ガナリ様経由で集落を移動しても居場所は探れました』から、今となっては笑い話なんですよ」
「ちょっと待つのじゃ。え、儂らバレてたの? 祖先は確かにマオとフーリエに一本取られておとなしくなったと聞いたが、今の集落や前の集落って割れておったのか?」
「当然じゃ無いですか。シャムロエ様としては超緊急時の戦力として考えていましたので、引っ越すたびにガナリ様から教えてもらってそれをシャムロエ様に情報を横流ししてましたよ。あえて今まで何もしなかったのも、横流し先を探られないようにしていただけです。あ、パムレ様だけは絶対に余計なことをするので教えていませんでした」
「……ちょっとこねこねするだけなのに。リエンママ頑固」
「儂は……手のひらの上じゃったか。生かされておったのか……」
相当落ち込んじゃったよ!
「過去は過去よフブちゃん。今は私の部下なんだし、明るい仕事をこれからしていく集団として頑張りましょう!」
「……影の者改め『太陽に導かれし王家に選ばれた聖人』」
「時々思うけどパムレの名前のセンスって絶対変だよね!」
フェリーにつけようとしてた名前も変だったし。絶対にパムレだけには名前を付けさせてはいけないと思った。
そんな会話をしている中、ガナリが不意に「ん?」と言葉を漏らした。
「どうしたの?」
「ふむ、一瞬ですが興味深い音が聞こえました。おそらく貴方達が探している『蛍光の筆』の音でしょう」
「本当に!?」
「はい。その筆で描いた字は魔力が消えるまで光り続ける。ですがこれは……ふむ、フーリエ」
「はい?」
「貴女以外で『今』悪魔術を使う人はいるのですか?」
「いや、レイジという人物は使えますが、それ以外は……」
「でしたら気を付けたほうが良いですね。『蛍光の筆』で悪魔召喚の陣を描こうとしている人物がいます」
「「「え!」」」
どういう事?
「ふむ、音が途切れました。どうやら悪魔術の勉強をしているのでしょうか……とにかくゲイルド魔術国家にそれを持つ人がいるみたいです。ガナリ的にも悪魔はこれ以上増えると困るので、対処してもらえると助かります」
何故だか変な胸騒ぎを覚えた。
☆
船の準備が整い、再度出航することになった。
「ではあっちで会いましょう」
「わかった。ガナリはまたここで」
「はい。あ、もし父様に会ったらリエンからも言ってください。たまには孤島に来てくださいと」
あはは。実は寂しがり屋なのかな。
「ここの店って人が多いとかなり労働環境が『黒い』んです。父様にもこの辛さを味わってもらわないと」
「凄い個人的な悩みだね。うん、会ったら伝えとくね」
そして出航。天気は晴れ。うっすらと白い雲が見え、風が心地よい。
「嵐が嘘みたいね。船員に聞いたらしばらく先までは安定してるみたいよ」
「それは安心しましたわ。せっかくの貴重な船旅、室内だけに留まるのはもったいないですものね」
「うむ。儂としては隠れたいところじゃが、まあたまには良いじゃろう」
『久々の地元じゃ。精霊には無いはずの感覚じゃが、なんとなく気分が高まる感じがするぞ』
『セシリー姉様の家久々ー。綺麗になってるー?』
「……もう無理辛い、船の後ろで思いっきり魔術ぶっ放して加速させていい? 辛いの一瞬怖いの一瞬。安全は保障する」
相変わらずパムレは海の上では最弱だった。
☆
順調に進んでいると思ったが、船員がざわつき始めた。
気になった俺は舵を握る船長に話しかけてみた。
「何かあったの?」
「いや、ちょいと厄介な奴等が現れましてね。あそこに小さな小舟が三隻あるでしょう?」
遠くを見るための望遠鏡を借りて覗いて見ると確かに小さな船がある。
「ちょっと貸してもらえるかしら?」
「ポーラ?」
「ここまでざわついていたら気になりますわ。ちなみにシャルロットはパムレ様をあやしています。『キモチワルイの飛んでいけー』って言ったら即座に回復し、そしてまた船に酔い始めたので持続的に話しかけていました」
なるほど。『音の魔力』でパムレの船酔いを飛ばしていたのか。
「それよりもあの船は一体?」
「へい、あれは賊です。最近毎日大量物資を運んでいるからか、それを狙う輩が現れるんです」
「そうなの?」
「幸い船は大きく、乗り込まれる前に過ぎれば問題は無いんですが、今回は三隻……仲間を集めて来ましたね」
「捕まえたりはしないのですか?」
「俺たちは運搬業でして、力こそ自信はありますが、賊と戦う術は無いもんで。それに仮に捕まえたところで『ここは海の上』。領土外での犯罪なもんですから、引き渡し先が無いんですよ」
「なんですって! つまりここは無法地帯なの!?」
ポーラが声を上げて驚いていた。
「そこまで驚くことなの? これから対策をすれば良いと思うけど」
「いえ、王族として今の話は聞き捨てられません。貿易の決定はガラン王国とゲイルド魔術国家の決定であり、それにより国民や他国の方が危険にさらされる状況になるなんてもっての外。さらにこの情報が知らされていないという現状も踏まえてやはり『ゲイルド魔術国家王家』はまだまだなのですわ」
歯を食いしばるポーラ。
「船長様、今回の件も含めて王家にはワタシが責任をもって伝えます。そして、今回の賊に関して、もし通り過ぎることが難しかったら捕らえてください」
「だが受け渡し先はどうします?」
「問題ありません。ガラン王国の姫とゲイルド魔術国家の姫を襲った賊として大義名分はあります。本当ならこうなる前に対策を練るべきでしたこと、心より謝罪しますわ」
すげー。ポーラが姫っぽい!
なんか俺の周囲って肩書は凄いのに会うと残念な人ばかりだから、こういう一面を見ると感動するなー。
「へへ、正直俺はさっきまで王族がちと苦手だった。客だから何も言わなかったが、それでもやはり壁は感じてたが……少しだけ可能性を感じたぜ」
そう言って船長は大声で叫んだ。
「前方三隻! 襲ってきたら容赦なく捕まえろ! 奴らは俺たちにとっては王家に献上する『荷物』だ!」
「「「おおー!」」」




