次なる目的地
極秘会議ということでシャムロエ様の部屋に集合。
そこには、俺、シャルロット、パムレ、シャーリー女王、シャムロエ様、トスカさんが椅子に座っていた。
うん、凄く居心地悪いぜ? 早く出たいぜ?
「大叔母様、その、店主殿から聞いたんだけど、ゴルドから話を聞いていたというのは?」
「そうね。あくまで私個人的な話にもなっちゃうのだけど、その前にシャルロットやリエンは『音の神エル』についてどれくらい知っているかしら?」
原初の魔力音を司る神様のエル。うーん、どれくらいと言われると全然知らないかな。
「恐れ入りますが、神様については全然……」
「ふふ、そうよね。シャーリーだって神様の存在はあまり知らないものね」
「申し訳ございません」
そもそも神様だよ? そこらへんにポンと登場するわけ……あ。
「寒がり店主の休憩所でチャーハン作ってる鉱石の神様は知ってます」
「あ、今俺もそれを言おうとしてた」
「どういうこと!? え!? 神様が何だって!?」
いやそうなるよね。もう母さんが規格外って思った方が良いレベルだよね。
「こ、こほん。その、ゴルドのお父さんはとりあえず後でフーリエに聞くとして、音の神エルは普通と違って特殊な存在なの」
「というと?」
「音の概念からなのかわからないけど、どうやら音の魔力を持つものが亡くなった時、音の神様……つまりエル様に取り込まれるのよ」
そういえばそんな話をトスカ様がしてたような?
「取り込まれると、そのエルという神様の記憶の一部になるらしいのよ。まあ、よく言えば死んだ親との再会を自分の中でできるようなものね」
うーん、記憶の中で再会みたいな感じだろうか? 絶対に普通に生きていて遭遇しない状況だよね。
「そこのトスカが寿命死んだとき、ゴルドはまだ『この世界』にいなかったの」
え、どういうこと? いなかった?
「ゴルドはトスカが王になる少し前から、トスカが亡くなった後まで里帰りしていたの。で、どうやらゴルドがこの世界に来る直前に『音の神エル』と出会ったそうよ」
「ゴルドさんが音の神様に?」
「そう。そしてゴルドはエルにこう言われたそうよ。『貴方の友達の記憶は来なかった』と」
なるほど。つまり亡くなった後に来るはずだったトスカさんの記憶が来なかったことをゴルドさんに報告したのか。
「その後にゴルドはこっちの世界に帰ってきた。残念ながらゴルドの名付け親にして私の娘シャルドネは既に危篤状態で、ゴルドを一目見てから安心したのかそのまま息を引き取ったわ」
そう言えばパムレがその件で少し怒っていたっけ。シャルドネは危篤……みたいな。
「だからトスカが何かの奇跡でこの世界にとどまっているのかもとずっと思っていたのよ。それで、すぐにトスカの思い出の家の周囲は柵で覆っていつでもトスカが帰れるように私の土地にしたの。まあ、伝統的にそこを代々引き継ぐという形を取らせてもらったけどね」
「引き継ぐ必要性がわかりませんが、差し支えなければ教えていただければと」
「簡単よ。私がいつまで生きているかわからないからよ」
その言葉に全員が言葉を失った。いや、唯一パムレだけが反応して話し始めた。
「……シャムロエはそもそも原初の魔力を特殊な形で宿した体の『人間』に過ぎない。永遠に生きていくという保証はどこにも無い。もちろんパムレも特殊で、これがいつまで続くのかわからない」
「そういうこと。マオにそう言われてから代々受け継ぐことにして、私は城の隅っこでトスカの帰りを待ってたということなのよ。いつか会えると信じてね」
そんなことがあったんだ。なんだか長年の思いがようやく叶ったという感じでうるっとするなあ。
「まああの柵工事の所為で僕死にかけましたけどね」
「知らないわよ! そこにトスカがいるなんて思わなかったもん! さっさと出てきて挨拶くらいしなさいよ!」
いやまあ、見えないから仕方が無いのだろうけど。工事する時に原初の魔力の保持者を連れてくる……と言ってもシャルロットはまだ生まれてないし、シャーリー様のように完全に受け継いでいるわけでもないし難しいよね。
「こほん。さて、本題に入ろうかしら。まずは創造の編み棒の納品、改めてお疲れ様。情報はフーリエから聞いているわ」
「いえ」
「そしてシャルロット、まさか王家の土地を『そこの者達』に譲るなんて思わなかったわ」
そこの者?
「何じゃ。バレておったか」
(リエン様よ。こやつ、何故魔力を持たぬのに『認識阻害』同様の事ができる? 我には探知できんかったぞ?)
(ウチもー。なんというか……怖いねー)
精霊ズが俺の中で怯えながらも話を続けるシャムロエ様。
「久しいわね。情報を頂いたとき以来かしら」
「うむ。あの時はさすがに気が抜けぬかったが……仮に今この場で儂が刀を抜いたらお主以外は打ち取れるかのう」
いきなり物騒な事を言うフブキ。
「シャルロット。一応言うけど、この子は危険よ。私が本気を出して互角。そんな人に王家の土地を与えて後悔してないかしら?」
強く睨むシャムロエ様。それに対してシャルロットは冷静だった。
「はい大叔母様。すでに『フブちゃん』は友達なので」
「フブちゃん!?」
「そう。しっかり制御できるなら良いけど、万が一その『フブちゃん』が間違いを犯したらどうなるかわかるわね?」
「おい先代女王、貴様まで『フブちゃん』言うのか!? おかしいじゃろ!」
空気が一気に和やかになってしまった。いや、俺としてはその方がいいんだけどね。
と、そこへ困惑しているシャーリー女王が俺に耳打ちしてきた。綺麗な女性だし少しドキッとしてしまう。
「あの侵入者は一体……」
「元暗殺者で、今はシャルロットの影の護衛の『フブちゃん』です」
「貴様まで『フブちゃん』言うか!」
つられて言っちゃった。
「つまりイガグリの代わりということですね。よろしくお願いします『フブちゃん』」
「現女王!? あの、儂の名前は『フブキ』じゃて! 誰も言わぬから本名が『フブちゃん』だと思われておるぞ!」
「「(……)フブちゃん」」
「そこの先代王と三大魔術師は『とりあえず言っておこう』みたいな感じで言わぬで良いわああ!」
☆
「さて、創造の編み棒を納品してもらい、残るは二つ。『タマテバコ』と『蛍光の筆』で、正直どちらもまだ手掛かりは無いのが現実なのよ」
シャムロエ様が頭を抱えている。というかそもそも……。
「原初の魔力の時間の秘宝ってそこのパムレが壊したのですよね? 残るは一つでは?」
「「「……」」」
黙り込むシャムロエ様とパムレとトスカさん。そう言えばこの三人が旅に出てタマテバコを壊したんだっけ?
「こ、こほん。微小な可能性だけど、元々そのタマテバコがあった場所を尋ねるという手段もあるわ」
まあ、もしかしたら修理されてる可能性や、関係する神様がそこにいるかもしれないしね。
「じゃあその場所が最初ですか?」
そう聞くとフブちゃん……間違えた、フブキが横から口をはさんできた。
「ふむ、ここへくる途中で妙な噂なら手に入れておる。どうやら北の土地……ゲイルド魔術国家に光り輝く筆を見たという話しを聞いたのう」
「では最初はそこね」
「あの、タマテ」
「最初はそこ! 良いわね!」
なんか無理やり押し込まれたんだけど!
☆
話を終えてガラン王国の寒がり店主の休憩所へ到着。そこにはポーラが椅子に座っていた。
「あら、お話を終えたのね」
「ポーラ? てっきりガラン王国城を出た後すぐに帰ったのかと思ったわ」
「用事があったのでちょっと長居したのです。別にここへ戻ってくるという情報があったからではありません。待ってたわけではありませんからね」
「……リエンママから情報を得て、ずっとここにいたみたい」
「ちょ! 心を読まないでください!」
「……いや、『心情読破』は使ってないんだけど……冗談のつもりが本当だったとは」
赤面するポーラ。
「ありがとうポーラ! 待っててくれたのね!」
「ぐぐぐ、そうよ! どうせこの土地なら北上するのでしょうし、それなら一緒にって思ったのよ!」
おおー、これが俗にいうツンデレというやつだね。
「あ、ごめん。ここから南の『海の地』に行くつもりなんだけど」
『おおおお! 凄いぞリエン様よ! こやつ、心が砕けた! 言ってしまえば無じゃ!』
『さすがにやばいよー。心が砕けた人間は何するかわからないよー』
うん、シャルロットもだんだん母さんの影響を受けたのか、冗談をサラッと言う様になっちゃったよね。
「冗談冗談。そこまでへこまないでー。それに、船の手配もしたから一緒に行きましょう」
「う……そ? 本当に? 本当ですね?」
はあ、ポーラのすぐに人を信じる性格にも困ったものだ。いや、本気で困っては無いけど。




