ピーター君2
まじか。驚きの新事実。
ピーター君のお父さんってガルフ王の弟だったんだ。
「ほう。今では行方不明の奴等のご子息じゃったか」
「え、行方不明なの?」
確か聞いた話だと遠いところで商売をするって言ってピーター君を預けたって言ってたような。
「なるほどのう。『今の』ミッド王子は『捨て駒』。そしてガルフ王もまた『いずれいなくなる王』ということか。なかなかこの世は読めぬのう」
「どういう事?」
さっぱりわからないんだけど!
「今のミッドガルフ貿易国はミッド王子の暴動によりかなり不安定ですが、実はその前から不穏な動きはしていたのです。それにいち早く気が付いたピーターの父親は影で動いていたのですよ。今もどこかで動いているみたいですが、どこにいるかはワタチにも分かりませんね」
行方不明って……母さんや『影の者』でも行方がわからないって相当だよね?
「でも手紙は届くのですよ? だからどこかで何かはしているそうです。まあ、もろもろの事情を踏まえてピーターはワタチが半分預かってる状態ですね」
ピーター君の別荘には確かにお世話をしてくれている人もいるけど、魔術を教えたり勉強を一緒に子供の頃からしていたのはそういう経緯からだったんだ。というか十年以上前から不穏な動きをしていたミッド王子って……。
「さて、ワタチは一足先に帰ってますよ。仕込みの支度もありますからね」
そう言って母さんはその場を去った。
「お、ピーターとやらもどうやら移動するみたいじゃぞ?」
「うん。こっちも移動しよう」
ここだけ聞くと完全に尾行だけど、セシリーが今の状態を保つための必要なことだからね! と、自分に言い聞かせる。
☆
到着したのはタプル村の集団墓地だった。
「のうリエン殿? 女子と出掛けるのに墓地とは完全に間違ってないかのう?」
「うーん、俺もそうは思うんだけど、タプル村で結構見晴らしの良い場所でもあるからなんとも」
と、到着するとそこにはシャルロットとトスカさんがいた。
俺に気が付いたシャルロットは手を振ろうとした。
俺は必死に両腕を交差させせ『内緒! 頼む! 俺はいない!』と合図を送った。
それを見たトスカさんは察したのか、ピーター君とセシリーに話しかけた。さすが!
『おや、二人でどうしたのですか?』
『ぴ……ピーターじゃない。どどどうしたのかしら?』
完全にシャルロットは俺の事を気にしているのか棒読みだよ!
『あはは、まさかこんなところに人がいるとは』
『む!? ピーター殿、まさか人気がいないところで』
『違いますセシリーさん! 僕はいかがわしいことなど』
『何も言っておらんのじゃが……』
『あうう』
相変わらずのピーター君である。うん、残念なところがまた面白い。
『シャルロットさんにそのお知り合いの方だっけ? どうしてここに?』
『ここには僕の大切な人がいたり、大切な人と出会ったりした思い出の場所なんですよ』
『へえ、まるで英雄トスカみたいだな。知ってるか? 実はガラン王国の先代王トスカ様はここで三大魔術師マオと先代女王シャムロエ様が出会って、そこから大陸を冒険して世界を救ったんだぜ?』
今目の前にいる人がその人だから!
「まあ、知らぬ事ゆえ、仕方がないと思うがのう。あの姫の苦笑がどこまで続くかわからぬが」
「シャルロット頑張って耐えてー!」
トスカさんもシャルロットも凄い複雑そうな表情をしているよ!
『ふむ、ピーターは詳しいな。何かで読んだのかの?』
『母さんが夜寝る前に聞かせてくれたんだ。英雄トスカの物語、三大魔術師の誕生秘話。あとはー、ああ、長生きマーシャの病院っていうのもあったな。全部本当にあったかはわからないから子守唄程度にしか聴いてなかったけどな』
『マーシャって……』
『ふむ、それってどんなお話ですか?』
『小さい頃に教えてもらった話だからうろ覚えだけどな。なぜか普通の人よりも長生きするおばあさんがいて、そのおばあさんが歌うとどんな病気も治るって話だったな』
『そうですか……』
トスカさんは優しい笑みを浮かべて墓を見た。
『ふふ、良いお話も聞けましたし、シャルロット、ここはお邪魔にならないように退散しましょう』
『そうね。じゃあピーター、頑張ってね』
『ふえ!? いや、何も頑張らないし!』
そう言ってシャルロットとトスカさんはその場を去った。
『ふむ、子守唄だったとしても忘れずに覚えておるとは。色々と詳しいのじゃな』
『ああ。調べるのは好きさ。物語。魔術。そして『精霊』とかもな』
え?
今、ピーター君の口調が少し変わった?
『ふむ、気が付いておったのか?』
『はは。実は最近その答えにたどり着いたんだ。契約者と離れることができず、また『心情読破』を使っても心を読めない。色々と合致して答えに辿り着いた日の夜は泣いたさ』
『ほう』
『だから、この色々な伝説があるこの場所で僕は……親友のリエンと勝負しようと思う。そこにいるんだろ?』
その声に俺は驚いた。確かに、離れることができないという条件から考えればその結論にいたるだろう。
「ああ。その、悪かったなピーター君」
「あ、そっちの方向だった!」
うん。ピーター君、逆方向見てたね!
軽く咳払いをして、改めてピーター君は俺を見た。
「なあリエン。僕は本気でセシリーさんとお付き合いを考えている。だから、お前とセシリーさんの契約解除を賭けて勝負しないか!」
「ほほう、奴、漢じゃのう」
ピーター君の提案に俺は驚いた。おそらくピーター君にとっては一世一元の大勝負であり、告白なのだろう。
その言葉に俺は。
「ああ、わか『無理だよー。一度契約した精霊は一生ともに生きることになるから、契約を切るにはご主人をこの世から消すしか方法は無いよー』ったってそうなの!?」
おいおい、急にフェリーがポンっと現れたんだけど!
「セシリーさんの妹のフェリーさん? ちっちゃいけどなんとなく面影が……えっと、どういうこと?」
とぼけてた感じだったけど、実はフェリーの事も気がついていたのだろう。それほど驚いていない様子だった。
『そのままの意味。精霊の契約は契約者が死なない限りずっと。だから悪魔の呪いよりも強い縛りとも言われているー。それに、ウチの予想だと例えセシリー姉様と契約できても、その姿を維持することは当面できなさそうだねー』
「どういうこと?」
『単純にご主人の魔力とピーターの魔力の量の違いー。幼い頃から鍛えられていたご主人は普通の魔術師よりも魔力の量が多めだから精霊二人と契約ができたー』
そういえば以前セシリーの『犬』やフェリーの『鳥』を出した時はパムレが魔力を分けてくれたけど、そもそも二人を召喚している時点で結構な魔力量を消費しているんだよね。
「妹さん。ちょっと勘違いしているな」
『えー?』
「俺はセシリーさんに惚れたんだ。確かに俺の魔力量は少ないが、いつかそれを克服できるように頑張るさ!」
『ご主人ー、やっぱりこのピーターはちょっとでは引かないねー。暑い暑いー』
火の精霊に暑いって言わせちゃったよ。
魔力量を気にしたのかフェリーはポンっと音を立てて消えた。
「だがそうか……そもそも精霊は契約したら契約者が死なない限り無理なのか」
ピーター君には悪いが、諦めてもらって。
「じゃあ僕とリエンが一緒に住むしかないのか」
「お前は馬鹿なのか! いや馬鹿なんだな! 何でそんな答えになる!」
嫌だよ! いくら親友と言ってもそれは嫌だよ!
と、そこへ後ろの木陰から咳き込み音がした。
『あ、気にしないで頂戴。ちょっと珍しい薬草があったから採取しているだけだから』
『シャルロット、鼻血が出てますよ?』
『違うんですトスカ様。なんだかこう……未開の地に足を踏み入れる瞬間みたいな? あ、薬草の話です。いやー薬草奥が深いですねー薬草ですねー』
嘘つけ! 絶対良からぬことを考えてるだろ! 何だよ「薬草ですねー」って!
「まあそのなんだ、一緒には住みたくないが、セシリーは俺の精霊だ。セシリーの行動を見る限りではピーター君と一緒にいる時も楽しんでいるみたいだし、俺が帰ってきた時は話し相手になって欲しいな」
「リエン……」
「まあ悪くはないがの。我が知る歴史をすり合わせたりするのもまた面白そうじゃからのう」
なんだかんだでセシリーも楽しんでるみたいだし、まあ毎回は難しいけどピーター君の頼みならセシリーを召喚するのも悪くはないだろう。
「いや、難しいだろ」
「え?」
ピーター君?
「だってお前、そこの姫さんと仲良さそうだし、将来的には」
ばああああああああああああああん!
『わあ。トスカ様見てください。初めて魔術の『獄炎』を成功しました。今度は何か的になるモノを狙いますね』
『リエン! 逃げてください。これ以上そこの少年が話し続けるようならここは火の海です!』
よくわからなかったけど、とりあえずピーター君の会話を無理やり変えて、この場所から移動した。




