大切な場所2
パムレと一緒にタプル村を見て回ることに。
ちなみにセシリーはフェリーと一緒にタプル村を回るとか。姉妹だけでのんびり散歩でもしたいのかな。
「何故ピーター君が俺の後ろをついてきてるの?」
「だってえええええ。セシリーさんにいいいい」
一緒にちょっと散歩しませんか? と誘ったら、フェリーにセシリーを取られたらしい。
「妹がいたとか聞いてねえぞ! というかその子は何だ! まさかフェリーさんとお前の……」
「ぶっとばすぞこのやろー。仮にもこの子が娘だったら食費だけで破綻するわ」
「……あー、一応リエンを養うくらいは金貨を持ってるよ?」
お菓子魔人兼三大魔術師だもんね!
「……パムレはパムレ。お菓子に目がない女の子。リエンとは旅で出会った仲間」
「リエンの子じゃないなら仲良くなれそうだ! 僕はピーター。リエンの大親友だ!」
基準広すぎね? いや万が一俺に子供ができたらその子だけ冷たくするの!? 平等に仲良くしてよ!
「……ピーター……ほほう。フーリ……こほん。リエンママの二番弟子か。将来有望だね」
「ん? まあ、リエンの母さんには魔術を教えてもらったり料理を教えてもらってるが、そんなに凄いのか?」
さらっと言ったけど、三大魔術師の魔術研究所の館長の弟子って凄くね? 本来誇っていいことなのに公にできないのは勿体ないね! いつも残念だねピーター君!
「それよりもシャルロットを見てない? 外にいたならどこに行ったかわかるんじゃない?」
「ああ、立ち入り禁止区域にいるぜ?」
やっぱり。マーシャ家の跡地……か。
☆
村の端っこには村長すら入ってはいけない領域がある。そこは神聖な場所と言われており、足を踏み入れた瞬間重罪人として捕まる場所と村では言われていた。
柵で囲われたこの場所は中がどうなっているか外からでは見えない。ただ、一つだけ扉があった。
「いたいた。シャルロット―」
「リエン……と、ピーターだっけ?」
「盗賊が来た時の騒動以来ですねシャルロット姫。と言っても直接話したことはなかったし、リエンから話しか聞いていませんが」
「シャルロットでいいわよ。リエンと同い年で友達ならこの場では普通に話して貰えるかしら?」
「お、それはありがたい」
ピーター君のその誰とでも仲良くなれる感じの性格は羨ましいよね。ところどころ残念だけど。
「よくわかったわね。ここにいるって」
「いや、流れ的にね。それに村は小さいから数時間あれば見つかるよ」
ピーター君とかくれんぼしても、倉庫に隠れない限りは数分でみつかるもんね。
「ガラン王国のしきたりでね。代々このタプル村のこの小さな一角だけは最初に引き継がれる土地なの。正直なところこの場所の価値は全然わからない……いえ、わからなかったわ」
先代の偉大な王トスカ様が育った場所……くらいには言われていたのだろうけど、人間であればその歴史は薄れてしまい大切に思う人はいなくなる。しかしティータさんのような長寿の人がいる以上、この場所は意味合いが変わる。
「こんな小さな土地なのに、それをどうするかを決めることにこれほど重くのしかかるなんて……女王になった際には何倍の重さになるのかしら」
女王になる。つまりガラン王国の領土全ての責任を持つという意味だろうか。
「そりゃ、土地に聞いてみたら良いんじゃね?」
と、ピーター君が言った。
「え?」
「あ、いや、深い意味はないぜ? 人の気持ちがわからないなら土地に聞けば良い。僕はよく寂しい時、人形に話しかけたものさ。答えは無言だがなぜか答えが返ってきた様に思えたな」
なんかピーター君がすごく意味深な事を言ってるけど! 大丈夫これ、その内ピーター君も原初の魔力の何かを保持してたとかそういうことにならない!?
「……大丈夫リエン。ピーターは思ったことを言ってるだけ。ガチなただの人間」
「え、僕なんで良い事言った感じなのに小ちゃい子供にけなされてるの?」
そのやり取りに微笑むシャルロット。
「ふふ。でも、ちょっとやってみようかしら。ピーター、ありがとう」
「あ、ああ」
「ねえリエン。そしてパムレちゃん。ちょっと一緒に来てくれる?」
「行くって?」
「この中よ」
☆
本来禁止とされている区域。だけど、今この地はシャルロットが保持しているため、本人の許可ということで入っているけど結構緊張する。
俺からお願いしてピーター君も誘ったけど『怖いから遠慮するよ。僕は青春という名のセシリーさんを探すから。妹に負けられるか!』と言って逃げていった。
柵の中は家があった。すでに草木が伸び切って、廃墟に近い。
「……懐かしい」
そうか。ここにはパムレは来たことがあるんだもんね。
家の中に入ると、中も床から草が生える等で、歩くのも大変な状態だった。
「うーん、おっと」
シャルロットが目を細めて、時々転びかける。
「シャルロット? 足元にツタがあるから危ないよ?」
「それは、知ってる、けど。はあ、リエンには『見えない』だろうけど、ここ、音が所々から飛んできてて、見えにくいのよ」
シャルロットって『音の魔力』を保持しているから、音を見ることができるんだっけ? って、音?
「いや、確かに俺は見ることはできないけど、そもそも聴こえすらしないよ?」
「……! 理解、パムレの予想が当たっていれば……これで!」
パムレが突然叫んだ?
パムレが両手を前に差し出し、魔力をかき集めているように見えるが、一体何をしているのだろう。
「……シャルロット、『音』はパムレの手に集まってる?」
「え? うん。すごい勢いで」
「……なら、こう!」
そう言った瞬間、何かが圧縮されて、そして……。
ぱああああん。
そんな音が鳴り響いた。
「パムレちゃん? 一体何を」
破裂音に驚き閉じた目をゆっくりと開けると正面には……黒髪の少年?
『久しぶりですねマ「すごいわ! 今ので目の前がすっきり見えるようになったわ!」オ……』
いや、絶対今言葉を発しちゃいけない瞬間だったよね!
意味ありげに目の前の少年は両手を少し広げて微笑んで、なんか『演出してますよー』という感じを出しているのに、この子ったら空気を読まなかったよ!
「ごめんなさい。もう一回良いですか? この子には後で『リエンチョップ』しておくので」
『あはは。大丈夫ですよ。シャムロエやシャルドネで充分慣れてますから』
「えっと、まさかとは思いますが、大叔父様?」
先ほどパムレが『過去投影』で見せてくれた少年とほぼ一緒の姿である。
「……はあ。何故ここにいる? 『トスカ』」
ガラン王国先代の王にして過去最高に慕われていたと伝わっている名前。パムレがその名を言うという事は本人なのだろう。
「……トスカは人間。だからしっかり年を取ってしっかり亡くなった。フーリエと一緒に埋葬もした。もう一度聞く。何故ここにいるの?」
『正直なところ僕にもわかりません。一つ言えるのは、本来原初の魔力の音の保持者が歩む道を『何者か』によって邪魔をされました』
「何者か?」
『音の魔力を保持している者は、その生涯を終えた時、『音の神エル』の中に入ると言われています。なので僕としてはマーシャおばちゃんとの感動的再会をするはずだったのですが、何者かによって邪魔をされました』
何だろう、どこかで似た単語を聞いたような……。そうだ、ゴルドのお父さんのアルカンムケイル様も『何者かによって』落とされたって言ってたっけ。
『マーシャおばちゃんの家に落ちたのは不幸中の幸いでした。ここはマーシャおばちゃんが長生きするために音が反響する物が多く置かれていたので、今日まで生き永らえました』
「じゃあ柵を作ったシャムロエ様はこの事を?」
『いえ、シャムロエはわかりませんし、本当に偶然です。そもそも僕の事は見えませんからね。あ、工事中の音で僕が半分消えかかった時はヒヤッとしました』
さらっと言ってるけど命に関わってない? いや、一度亡くなってるけど。
『でも、マオがこうして実体化してくれたおかげで最後に会話ができました。シャムロエと会話ができなかったのは心残りですが、マオと会話ができただけでも嬉しかったです』
「……軽率。待って、方法を考える」
「どういうこと?」
「……パムレは間違えた。実体化により音の魔力をひとまとめにしてしまったから、今までこの家全体を使って魂的なやつを維持していたっぽいけど、それが維持できなくなった」
『気にしないでください。こうしてガラン王国の子孫たちやかつての仲間と会話ができただけでも嬉しいのですから。マオ、これからもお願いしますね』
「……黙って。まだ方法は」
消えて行くトスカ様。何だろう、せっかく会えたのにすぐにお別れか。パムレにとっては凄く大切な人なんだろうけど、俺としても何とかしてあげたいような。
『大丈夫です。僕は音の魔力の保持者なので、このまま音の神のエルに取り込まれると思います。もしかしたらまた何者かによって邪魔されるかもしれませんし、マオくらいの実力者なら会えるかもしれませんので、その時はゆっくりお茶をしましょう」
「……うるさい! フーリエにもゴルドにも、ミルダにも、そしてシャムロエにも会わせてない状態で消させない。マオがマオであることを教えてくれたトスカを、今度はマオが助ける。例え本来人間に訪れる運命の死から逃れられなくても、こうしてもう一度出会えたならそのチャンスは逃さない!」
「でもマオ、無理です。これが本来の流れなのですから」
「……嫌だ! 蘇生や生成、マオの頭にあるすべての魔術を駆使してトスカを生成する。『蘇生術』の対価がどれほどの物でも構わない! 絶対にシャムロエに会わせる!」
「我儘になりましたね。はあ、その辺は変わりませんね。でもね」
……うーん?
「いやあの、消えるまでずいぶん時間かかりますね!」
俺のツッコミにトスカ……様? とパムレは固まった。
「……ん? トスカ、いつ消えるの?」
「ちょっと待ってください。消させないって言ってた矢先その発言変じゃないですか?」
よく見ると先ほど少し透けていたトスカ様だが……くっきり見えるんだけど?
「ふう、なるほど。『創造の編み棒』と音の魔力って相性が良いわね。こう、音と音を編み物の様につなぎ合わせることで形を維持できたわ。ついでに人の体とまでは行かないけど、それに近い物を想像しながら大叔父様の背中を『縫い縫い』してたわ」
「麗しの『リエンチョップ』!」
「あいた! ちょっと何するのよ!」
「やりやがったな空気を読まない事に関しては特急階級のお姫様! 事前に報告くらいしろ! いいか、この後に絶対なんとも言えない空気が待ってるぞ!」
「良いじゃない! というか事前報告する余裕もなかったし、もし期待させた後に失敗したら『できなかったね……』ってオチが怖かったのよ! 今回は私は悪くないわよ!」
「だからって……」
口論途中でパムレとトスカ様が目に入った。
パムレが涙を流しながらトスカ様に抱きついて行く光景を目の当たりにした俺はひとまず黙り込んだ。




