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外れ者たちの賛歌  作者: 愚息くん
12/15

転機

機材撤収後、僕たちはこっぴどく叱られた。熱気がこもった部室で地べたに正座させられ反省文を二十枚課され、汗でびしょびしょになりながらも何とか書き進める。

「しかしすごい有様だったね」

酒を取り上げられて仕方なしにミネラルウォーターを飲んでいる千葉さんがこぼす。

「だからって何で俺達が全部の責任取んなきゃいけねぇんだよ」

阿部先輩も集中力が切れたようで、足を崩して鉛筆を放り投げた。そう、あの騒動後、すぐに先生達が集まって来て暴動は激化。野次馬も続々と群がって来て文化祭どころではなくなった。

皆が騒ぎに騒いで暴れに暴れた後、なんとか収集がついた頃には何故か僕たち軽音部が扇動した事になっており、山中先生が鬼のような形相で追いかけ回して来たのだ。


「でも僕、なんかすごい気持ちよかったです」

反省文の用紙が五枚目に差し掛かったところで僕が顔を上げると、三人とも素っ頓狂な顔でこちらを見てすぐに満更でもないという表情になった。

「アイツら、俺らの曲聴いてたかわかったもんじゃねぇけどな」

柏木先輩が言いながら背後に倒れこみ、ミミズが這ったような字が綴られた紙が舞う。めずらしく校内で髪をくくっていて、まるで知らない人のようだ。

「聴いてねーだろ、どう考えても!でもいいんだよ、面白かったし。何よりもあの空気作ったのは俺達だし」

阿部先輩は何故か誇らしげで、精一杯遊び回った後の子供のような笑顔を浮かべている。反省文はまだ一枚目も埋まっていない。

窓からのぞく空はもう陽が傾いており、祭りの後片付けをする声が遠く聞こえる。待ちに待っていた今日という日が、あっという間に終わろうとしている。この反省文が一生書き終わらなければいいのに、なんて考えながらも、僕の目の前の紙はテキトウな文章で埋まっていく。

「ま、とりあえず大成功ってことで」

千葉さんが伸びをしながらそう言うと、「何が大成功ですって?」と地を這うような声と共にけたたましい音を立ててドアが開く。僕たちが肩を大きく震わせてそこを見ると、目を見開いた山中先生が立っており、こっぴどく上に絞られてきたことが安易に想像できた。

「あんな騒動起こしてアンタたちは、私があのクソハゲ達に何言われたか一言一句教えてあげようか?ん?」

「まぁ、まぁ、まぁ」

「生意気に宥めてんじゃないわよぉもぉー!!」

阿部先輩と柏木先輩がここぞとばかりに立ち上がり、髪を振り乱して怒り狂う山中先生を笑いを噛み殺しながら諌める。僕はすっかり足が痺れて立ち上がれないため申し訳程度に「すみませんでした」と声をかけてみるがきっと届いていないだろう。

「でも、良かったっしょ俺たちのえんそー」

「良くないわよ!チューニングもズレてるしタイミングも悪い!というか千葉、あんたベースの音デカすぎ!柏木のドラムも走りすぎ!」千葉さんの言葉を受けた山中先生が爆発したように指摘し出す。ついでに僕のギターの音が小さかったことや阿部先輩の声が聞き取りづらいなどなども。心当たりはあったため大人しく耳を傾ける。すると、「まぁ、でも、良い知らせもあったのよ」と鎮静化した先生がポケットをまさぐり、一枚の小さい紙を取り出した。

「何すか、これ」

「mbsレコード、たなか…よしひこ?」

「少し顔見知りの音楽会社の人が今日来てたみたいでね、面白いバンドだって。是非興味があったら連絡してくれって渡されたのよ」

変な事務所ではないから安心して、と先生がその名刺を僕に手渡す。呆気にとられながらそこに書かれている文字を何度も目で追うと、聞いたことのあるインディーズレーベルのロゴと、田中義彦という氏名や会社の電話番号、住所が書かれていた。手が震えて、「ど、どうしましょう…」と弱々しい声が僕の口から漏れる。インディーズとはいえ、レーベルから声がかかるなんて今までの僕の人生からは考えられないぐらいのミラクルだ。奇跡だ。

「とりあえず、行ってみよーよ」

そう言ったのは千葉さんで、僕が視線をやると妙に落ち着き払った顔で「バンドデビューチャーンス」と親指を立てた。


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