07 油断——ウィルside——
どしてこうなったのかと、エレノワールの森まで這う這うの体で逃げ込んだヴィルヘルムは後悔していた。背負った親友は瀕死の重症。
ヴィルヘルムは攻撃魔法なら使えるが回復魔法は使えない。持っていたポーションはあまり効果がなかった。もう少し効果の高いものを持っていたらと先には立たない後悔ばかりする。
「……コバルトまで持つのか?」
ポツリと零した言葉は僅かに震えていた。エレノワールの森からコバルトの街までは約二日。
血の匂いで魔物がおびき寄せられなかなか森を抜けられない。何より多勢に無勢、シルフォード帝国兵と一戦交えた疲労からか、大人一人を背負っているのもあってヴィルヘルムの歩みは遅くなっていた。
親友の名前はアレクシオン。シルフォード帝国帝位継承権第二位。皇太子が側室腹であり正室の子であるアレクシオンが狙われたのだ。
シルフォード帝国の帝位継承権はその昔に血で血を洗う骨肉の争いに伴い大規模な内乱があったため、明らかな欠陥が無い限り生まれ順となっている。それにアレクシオン本人は帝位につく気はまったくない。そのためのパフォーマンスも兼ねたアルケミニア王国に遊学へ旅立つこの日に仕掛けてきたものだから後手に回った。
一歩間違えばシルフォード帝国とアルケミニア王国の全面戦争になるのが第二皇妃には分からなかったらしい。そんな常識すら通じないとは思わず、そう油断したのだ。
まさか皇帝直属の近衛騎士が買収されていて背後から襲い掛かってくるとはアレクシオンもヴィルヘルムも思ってもみなかった。相手取るのが一小隊だけでなければ逃げ延びることなくその場で果てていただろう。
「ここまでか……悪ぃな、シオン……」
血を流しすぎたのかもしれない。段々目が霞んできたし、立っているのがやっとで、背負って進むのもそろそろ限界だ。
大きな木の根元にアレクシオンをそっと降ろすと——普段なら雑魚とばかりに蹴散らす——じりじりと迫ってくるオークやゴブリンに対峙した。
「……もしここを切り抜けられたら、」
その続きを聞くものは、そこには誰一人としていなかった……