06 杖は魔法を使う道具らしい
『レイン~待つの~、危ないから収納から杖を出すの~』
「収納って何っ?!」
『お約束すぎるの~、収納はアイテムボックスで在庫から出すの~』
「分かんないっ!」
『レインは呪文がなくても思い浮かべれば使えるの~』
(収納……武器、在庫は、在庫あった!)
なんだか古そうだけど重厚な杖を取り出したレインは、それをどうやって使うのかを考える。でも考えつく前に目の前には摩訶不思議な角のある兎っぽい生物。あんまり可愛く無い。
『レイン~、ホーンラビットだよ~』
「えいっ!やぁ!とうっ!」
杖を両手で構えると、飛びかかってきた兎を剣道よろしく無我夢中で滅多打つ。どうやら地球にいたときより素早く動けて兎っぽいのの動きもある程度分かるみたいだ。
『……レイン、普通はその杖で魔法を使うの』
「そ、そうなの?」
やはり空中でガックリとしているエル。唖然としたからかお気楽妖精さが根こそぎ消え去っている。
そんなこと言われたってレインとしては魔法なんて見たことも使ったことも無い。魔物と戦うなら杖より剣が良かったとかさっきは思ったけど、どうやらこの杖は魔法を使う道具らしい。
大事なので復唱しておこう。杖は魔法を使う道具らしい。
『とりあえず素材になるからホーンラビット回収しちゃって~』
「えっ、イヤだよ。触りたくない」
地球で研究所に出向する前は仕事柄、もちろん切ったり縫ったりしていたから血が苦手というわけでは無いレインだが、ちょっと可哀想にひしゃげて潰れたホーンラビットを流石に触りたくない。
『心のなかで収納とかアイテムボックスってホーンラビットを思い浮かべれば回収できるよ~、ついでにホーンラビットを素材にしたいって思いながら分解を使うと毛皮や角、お肉とかに分類されるから~』
「便利な世界なのね」
『違うよ~、エレオノーラ様が地球からきたレインは魔物を解体したり毛皮を剥ぎ取ったり素材にできなさそうだからってつけてくれた能力だよ~』
「……この世界の人は皆できるの?」
『大体できるよ~、だって大きいとアイテムボックスがいっぱいになっちゃうから解体しないと持ち運べないし、食べられない魔物は討伐部位だけ持ち帰れば良いの~、それに出来ない人はギルドで毛皮とかお肉にしてもらうの~』
レインにとってお肉はスーパーで買うもので自分で解体して食べるものでは無い。足を向けて寝られないどころか、エレオノーラ"様"と呼ぼうと心の中で固く誓う。
とりあえず言われた通りに収納すると分解の能力で解体しておく。
「別に呪文じゃなくても良いのね」
『レインはね~』
普通に呪文ではなく収納とかアイテムボックスと思い浮かべれば能力を使えたから、普通に素材に解体!と念じてみたレイン。
「エレオノーラ様々だね」
そうこうしていると、地図上の黄色の点滅に——あと一キロくらいと——段々近くなる。どんな状況で、そもそも助けられるのかなんて分からないけど、何もしないよりは良い。その点滅が目の前で消えてしまうのを指をくわえて見ているなんてレインには出来そうにない。
(それでもやっぱり何も出来ないかもしれないけど……)
でも、もしかしたらと、淡い希望がある。魔法の世界なんだから、なんとかなるんじゃないかと。自分には何も出来ないかもしれないけど、それでもレインは点滅の方向へ走りつづけた。