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55 婚約指輪は呪いの指輪?

「ウィルおかえり~」


 面倒事一切合切すべてが終わり帰り着くと、レインが俺の帰りを待ち構えていた。どうなったのか知りたいみたいだけど、どうすっかな。とりあえず真実だけ伝えとけば問題は無いか。


「俺の予想通りロックフォードだ」


「……そっか、早く出られると良いけど」


 まぁ、レインはロックフォードが更正施設だと思っているみたいで、どんな所か知らねえから伝えても大丈夫そうだと踏んだが当たりのようだ。知ってたら出られるなんて発想が有り得ねぇ。


 ヒールをかけてポーションも使って完治しているからか、クリーンをかけて血塗れの痕跡が消えていたからか、レインは殴られて殺されかけた……死にかけたという実感がまったく無い。

 その姿を見た俺とシオンがどんだけ切羽詰まった状況だったか説明しても多分それは分からないだろう。

 意識を取り戻した時には既に元通りだったからこそレインは、殴られた事もその辺で転んだら出来る掠り傷くらいの軽い認識しかしていない。だから騎士の聞き取りやら魔法審問やら一連を大袈裟だと思っている。


「そう、だな」


 それは頭を殴られた事と多分ポーションで眠らされた事も原因の一つだろう。背後からの衝撃があった事は覚えているものの前後があやふやで療養中という事でレインの審問は断ったくらいだ。俺はどうとでもなるけど色んな所に身バレすると拙いからシオンも断った。フルネームを名乗った俺の従兄弟が誰かまでは審問官も詮索しねぇからな。


「ねぇ、ウィルはどんな証言したの」


「ん?俺と従兄弟とその婚約者でここに仮住まいしてて、そこで事件が起こったから始まって、一部始終証言させられたぞ」


 俺の他には当日現場に立ち会った騎士も血塗(ちまみ)れの腕がだらりと落ちた場面が夢にまで出てくるって、惨状を証言してたっけな。


「ちょ、ちょっと待って!」


「どうした、レイン?」


「それって偽証にならない?だってわたし婚約者じゃないからっ!」


 魔法審問での質問にそう出てきたって事はそれが世界に真実と認定されてると言うことで……


「レイン、婚約おめでとう」


「バカっ!ウィルのバカっ!」


「だって審問でそんな証言出てくるつーことは、真実だって世界に認められてるって事だからな」


「なっ、だってまだ付き合うのだってお試しなんだからっ!」


 どうやらレインはまだシオンから逃げられると思っているらしい。と言うか、まだ一対九十九くらいの割合かもしれないが、レインだって少なからずシオンの事を好きなはずなんだからいい加減観念すれば良いと思う。

 シルフォードの皇族の祝福というより呪いみたいなアレ(・・)は結果的には惹かれあう(・・・・・)が正解で、それが強く顕著に出るのが皇族側なだけで、出会って相性が悪い相手や双方に欠片も気持ちがなければそうならないって親父が言ってたからな。

 勿論これを言ったのが適当な伯父上(アルケミニア国王)だったら半信半疑だが、当時伯母上(アレクシア様)の為にシルフォード帝国に遊学までして調べた親父が言ってた事だから大方あってるだろう。

 親父は俺にシオンが相手を見つけたら真っ当に婚姻出来るように援護してやれって言ってたしな。……やり方が強引で姑息で何でもありの癖にまったくそう思わせない根性悪(あいつ)みたいな事はさせるなって、きっとギデオン様の話だろう。


「それは、これを用意していたからかも」


「シオン?」


 そう呟いたシオンがすかさず取り出したものをレインの手に滑り込ませた。


「「指輪?(か)」」


 それはミスリル合金で世界樹の祝福が込められ小さい精霊石が連なる細工の美しい指輪……お値段なんと白金貨六枚の最高級品。ペアリングだから二つで白金貨十二枚だな。

 なんで知ってるかって?シオンの"白金貨六枚は重いと思うか?"の問い掛けに"別に重くないんじゃね?"って答えた事があったから。金銭的な重さプラス想いの重さと、物理的な重さの勘違いだった訳だが……重すぎんだろそれ。うわ~、これ嵌めたら最後のヤツだ。


「……ね、これ外れないよ?!」


「無理に外すそうとすると指の方がとれるからやめた方が良い」


「そういや昔指輪を盗るために指切り落とす事件とかあったな~、それでも指からは外れねぇんだよな」


「ひぇ……」


 想像してしまったのか見る見るうちに青ざめるレイン。それを見かねてシオンがレインの指から滑り込ませた指輪を外した。逃がす気はまったく無いくせにこうやって泳がせるんだよな。


「婚約の指輪はいつ必要になっても良いように街に着いた時にギルドを通して注文していたけど細工に一ヶ月かかった」


 最近シオン宛てに届いてギルドに取りに行ったのは婚約指輪(それ)か……細工に一ヶ月って事はやっぱり会った時には求婚すんのは決めてたのかよ。


「それ、つけた奴以外に外せなくなるからな」


「な、なんなのその呪いはっ!」


「「婚約指輪」」


「わたしの知ってる婚約指輪はそんか機能ないからっ」


「貴族の間では誓約の指輪などとも呼ばれている」


「でも指輪がぴったりの大きさになるから小さい頃に婚約して嵌めても大丈夫だからひと安心だぞ」


「それに婚約中に相手が不慮の事故で亡くなってしまった場合も外れるから大丈夫」


 不慮の事故って……それ決闘とかで命を落として、とかも含まれるよな。


「……魔法怖い……貴族怖い。そ、そんな事より早く出掛けよう!」


 指輪の話自体をなかった事にしたいらしいレインが、快気祝いがてら外に飯を食いに行く話を不自然に持ちだした。家にいたら結局レインが作っちまうから俺が出掛ける前に提案したんだが……いくら何でも不自然すぎだろ。


 シルフォード帝国の皇族が(つがい)を逃すわけねぇから、後はレインがいつ諦めて認めるかだろ。何だかんだ粘りそうな気はするが。

 なんか可哀想だしそろそろ援護しといてやるか……。


「そうだな、俺腹減ったし」


 シオン程ではないにしろ、十分俺もレインに甘いんじゃねぇか?






前話にて40,000PV↑となりました。ご覧いただきましてありがとうございます♪

40,000PV御礼は本編こちらの55を続けての更新にさせていただきます。現在、家庭の事情(冠婚葬祭)が重なっているのと仕事が滅茶苦茶忙しいのですみません(´◦ω◦`):


10,000PV、20,000PV、御礼SSは番外編として56の後のおはなしを書く予定です。詳細決まりましたら活動報告にてお知らせ致します(〃艸〃)

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