05 エルローズの妖精さん
漸く目覚めると思ったのに、眩い光が治まると森の中だった。未だ目覚める気配すらない。この仕打ち……何か悪いことをしたのだろうか?
「痛っ!」
頬をつねると地味に痛いし、頬を叩けばもっと痛い。
「夢の癖にリアルすぎ……」
『夢じゃないよ~』
「ふぎゃ!!!」
いきなり声が頭のすぐ上から聞こえて、素っ頓狂な声が森に木霊する。
『レインの為に付いててあげてるの~』
深呼吸して森の澄んだ空気を肺に循環させる。バクバクと全身に血液を送り届ける心臓をどうにか落ち着かせて、小さな宙に浮く妖精っぽい何かの話を聞く事にした。
「な、名前は?」
『う~ん、見える子供にはエルローズの妖精さんとか呼ばれてる~』
「じゃあ、エルって呼んで良いかな?」
『うん良いよ~』
エルの話によると、女神エレオノーラから少しの間わたしのチュートリアル的なものを頼まれたらしい。エレノワールの森で万が一迷って焦臭いシルフォード帝国に行かないようにとの配慮もあるみたい。
『レインは夢だと思ってるって~』
つねって叩いてほっぺがヒリヒリ痛いし、お腹が空いてきたあたりで、どうやらここは現実なのだと不本意ながら受けとめなければいけないらしい。
否、もしかしたら夢の中でもお腹が空くかもしれない。
『とりあえず地図をみて~』
「どうやって?」
『えっ、そこから~?』
お気楽妖精のエルが真顔で固まり、なんかしょっぱい視線をわたしに向ける。
「あとね、エレオノーラさんにステータスは後で確認してって言われたけど」
『まさか~』
「うん、どうすれば良いか分かんない」
飛びながら空中でガックリとうなだれるなんて妖精って器用だなとか、後で確認しろと言う割りに見方の説明も無いとかエレオノーラさんも抜けているなとか、夢だと思っていてほぼ何の質問もしなかったレインだが自分の行動は棚に上げてしまう。
『とりあえずレインは地図って思い浮かべるか言うの~』
「地図」
そうするとモノトーンっぽい輪郭と何やら色づいた部分、色々な色の小さい光とか点滅とかもある。
『大きさは自分で調節出来るから少し範囲を広げたり小さくしてみたりするの~』
広げるとやはりモノトーンの地図っぽい何かがたくさん出てくる。メドウラノス山脈の裾野にはエレノワールの森が広がっていた。
これを見るとシルフォード帝国とアルケミニア王国はメドウラノス山脈を越えるかエレノワールの森を越えないと行き来が出来ないし、オリヴィエント公国は森に囲まれている。エルアニマ共和国はその二つの森とポントスシア海という風に、四カ国は各々の往来が難しい地形となっている。
広げて確認をしてみたレインは現在地のエレノワールの森周辺の地図に戻した。
「ねぇ、この赤や黄色、点滅しているのは何?」
『赤は魔物とかレインの敵だよ~、黄色は敵でも仲間でもない人で、後あるのは青が仲間で~、緑が探索したとき使えそうな素材とかだよ~』
「便利なのね」
『うん、レインが方向音痴気味だからオートマティスムで行った所にだけ色がつくんだって~』
「うぐっ、方向音痴じゃなくて、ただ地図を見るのが苦手なの。地図って北が上になってて進む方向が違うとだんだん分からなくなってくるっていうか……」
『地図を回転させて目的地を上にすれば~』
なんて便利な自動筆記機能つき地図なんだろう。地図を見たところで目的地につかないレインにとっては画期的すぎる能力で、女神を疑ったりして悪かったと反省しエレオノーラに感謝する。
「それでこの黄色と黄色の点滅は?」
『普通の人と死んじゃいそうな人だよ~、死んじゃうと灰色になってそのうち表示されなくなるの~』
「は?」
点滅=瀕死とかどんな状況なのか分からないけど、まだ灰色になっていないのなら何かできるかもしれない。迷うことなく一瞬のうちにレインは点滅目掛けて走り始めていた。