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49 とんだ茶番

 あれから四日、エレノワールの森奥でオークの集落跡についての調査が終わったらしくその件でギルドへ呼ばれたので朝一で出掛けて帰ると、キッチンには不自然に食材が広がり作りかけが置きっぱなしになっていた。


「……レインが見当たらない」


「流石に勝手には出掛けねぇだろ」


 白昼堂々街中での誘拐事件後にレインが一人で出掛ける事はないし、そもそもこの家に髪飾りとブローチの反応があるとシオンが言う。そして、この程度の広さの家の中で人を見失う事は有り得ねぇ。

 確か今日はギルドからの依頼だかで中和剤を作ってしまいたいからと言って一人残ったんだっけ……いや、一人じゃなかったな。


「髪飾りとブローチの反応はこの家の一階と二階にある」


「……まさかな」


「ああいう手合いはやはり即排除すべきだった」


 そう、どんなに可愛らしくお願いされても近くに置くのは止めるべきだった。ああいう手合いは放置すればするほど(たち)が悪く増長しのさばる。シオンなんて真顔で奥歯をギリギリと噛みそれを深く後悔している。何より無事だと良いが……。


「とりあえずレインをどこにやったのか、だな」


 どこに隠したのか……傷一つでもつけたら氷の殿下(アレクシオン)ならあの時の賊みたいに顔色一つ変えずに氷漬けにしたり切り刻むだろうし、まさか殺したりしてはいないと思うが万が一そんな事があれば死んだ方がマシだと思う目に遭わせるだろう。

 最近はだいぶ丸くなったと思ってたんだが常に命を狙われる殺伐とした環境で育ったからか基本的に物騒なんだよな、シオンの奴。


「……俺たちだけで締め上げても意味がない。二度とレインの視界に入らない様に存在事態を抹殺すべき」


「お前、それ悪役の顔だからな……」


「大丈夫。レインの前でこの顔はしない」


 大切なものに手を出した報いを受けさせようとしている今のシオンは——普段なら抑止力となるだろうふわふわした砂糖菓子のようなフェリシアやレインがいないからか——はっきり言って良心とか自重という(たが)が外れた超危険人物だ。しかもレインの優しさを踏みにじった時には即座にあの女を抹殺する為に既に何か仕込んでそうだから怖い。


「ウィルは詰め所に連絡して来て、また"誘拐事件"だって」


「誘拐事件ねぇ」



***



「では、こちらの邸からこつ然と居なくなったと……」


 連れて来た詰め所の騎士たちが俺たちに詳細な事情聴取を始めた。


「居場所がわかる追跡のブローチは部屋に置きっぱなしだったし、髪飾りは何故か別の場所から反応があるから面倒な事になる前にあんたらを呼びに行ったんだけどな」


「髪飾りの反応が使用人の部屋からするし、あれ(・・)以来一人で出掛けたりしないからレインが心配」


「あっ、そういえば誘拐事件の美少女……す、すみません」


 若い騎士が口を滑らせたが、どうやら前回の誘拐事件を知っている様で話が早い。そうしているとシオンが反応のする使用人部屋へ騎士たちを誘導する。ノックをすると一体何事かと恐る恐る顔をだした。


「レインが居なくなったので詰め所から騎士が来ているから聴取がある」


「き、騎士様ですか?」


「ああ、朝から昼までの様子を教えてくれ」


「私は掃除をしていて、レインちゃんはお菓子を作るってキッチンにいたと思います。キッチンを使っていたので、他の場所や庭などの掃除をしていたのでレインちゃんの事は分かりません」


 やっぱ犯人ありきで見ているとこいつ白々しいな……どうしてレインの髪飾りをお前が持っているんだ?そう詰め寄らないシオンが逆に怖い。


「あれだけ美少女だと外から押し入って攫う事も考えられますけど、その割には争った形跡はありませんでしたね」


「それとレインの追跡の髪飾りを君が持っている理由を教えてもらえるか?」


「あ、あの、つけてみたいって言ったらレインちゃんが貸してくれたんです」


「そうか……」


 その返答にシオンが眉根を寄せた。自分の魔力を注いで追跡が出来るようにアクセサリーを加工した魔道具はシオンが初めてレインに贈った装飾品だ。それが他人の手にあることが不快なのだろう。


 ちなみにレインの着る服やアクセサリーがだんだんとシオンの贈り物だらけになっていくのを見ていて、そもそも男がわざわざ服やアクセサリーを贈る理由とかレインは知らねぇんだろうなと思うと、ちょっと斜め方向の親友にそれはまったく通じて無いとか、付き合う前からそれは重すぎるとか教えるべきだったのか、逆にレインにその意味を教えてやるべきだったのか……。

 とりあえず男に慣れて無さそうなレインが慌てて服やアクセサリーをシオンに全返却するとか変に(こじ)れても困るので、知らんぷりを決めた俺は決して悪く無いと思う。そう、決して面倒だったとかではない……


「いくらレインだって婚約者からのプレゼントは貸さねぇだろ」


「こ、婚約者?!」


「兄妹じゃなく?!」


「ん?俺とシオンは従兄弟で説明とか面倒だから兄弟で住める家って言って借りてるだけで、その辺はギルドマスターも知ってるしな」


 あの女と若い騎士が口を揃えて驚く。婚約者は少し盛ったがシオンの態度が既に兄妹で済ませられない程にだだ漏れているから、この口の軽い騎士から広まれば丁度良い。いちいち説明するのも面倒だからな。

 ギルドマスターは例の誘拐事件でギルドの馬を契約とかの手続きすっ飛ばして緊急で借りる時に本来のギルドカードを見せているから俺たちの素性や従兄弟なのも知っている。


 レインはそれが何であれ人に貰った物をその贈った本人に許可をとらずに貸したりあげたりはしない。この女になにか着る物を貸してやって欲しいと俺が言った時も貰ったのだから既に自分の物にもかかわらず贈り主のシオンに許可をとっているくらいだ。


 だから、シオンが知らないのにレインから借りたなんて言ってもそれは有り得ない。







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