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48 魔女退治——エリンside——

※閲覧注意※

彼女は色々あって性格が歪んでおります故に閲覧時にはご注意下さい

——side——なので読み飛ばしても大丈夫です

「部屋が狭くて申し訳ないけど、ここを使ってくれる?これ、シーツとか」


「ありがとう、レインちゃん」


 本当に狭いベッドにクローゼットだけの使用人の部屋は使われずに空いていた。私の作り話に同情した人たちがギルドで働けるように手配してくれたけど、ギルドでは成人してからしか雇えないし孤児院はいつも定員より多く間もなく十五歳になる私は入れないとかで、その間は王子様たちの家で手伝いとして置いてもらう事になった。


「あとお給料なんだけど……」


「一ヶ月衣食住はこちらで面倒を見る。服は何着か用意しておこう。三食食事も出す。住むのは一階の空いているどちらかの部屋。使用人というか手伝いの仕事は、二階は一切立ち入らなくて良いので、一階の掃除と何かあればレインの手伝い、それで一日銀貨二枚。不満があれば出て行ってくれて良い」


「そんなっ、不満なんて無いです」


「これが契約書だ。よく読んで問題がなければサインをして契約してくれ」


 アイテムボックスに入ってるお金だって小銀貨数枚で、もともと売られた私は帰る場所も行くあても無いのだから、この何故か不機嫌そうな王子様の気の変わらないうちにサインと血を垂らして契約するしか無い。どうやら王子様たちは他人を家に置くことに反対で、唯一レインの賛成で置いてくれる事に決まったのだとギルドマスターが教えてくれた。つまりお友達ごっこでレインの機嫌をとれば良いだけ。


「シオン、ありがとう!」


 レインがお礼を言うと目を細めながら伸ばした手で頭を撫で、その手は自然と頬に滑り落ちた。いつも思うけどこの兄妹は距離が近い。


「そうだ服を取りに行くついでにレインが何着か見繕えば良い」


「せっかくだからエリンちゃんも一緒に買いに行こう!いいよね?」


「……分かった」


 衣食住の面倒を見るので私にも服を買ってくれるらしい。クリーンをかければ良いだけだけど私の服はレインにもらった一枚しか無いからそれは嬉しい。ただレインがそう言うとシオンさんはまた不機嫌そうな顔をして渋々了承する。


「行こうレイン」


「エリンちゃん、ついて来て」


「は、はい」


 何故かシオンさんはレインの手をとり歩き出す。妹と手を繋いでお店に向かうとか……ギルドで誘拐された話も聞いたけど、過保護というかいつも目を離さないというか、ウィルさんは二人に対して家族に接する態度だけど、まぁ溺愛していると言えばその範囲なのかもしれないけどシオンさんは妹相手にちょっと変だと思う。


「エリンちゃんどれにする?」


「どれでも……そ、そのシオンさんはどれが良いと思いますか?」


「着られるサイズを選べば良い」


「分かり……ました」


「レイン早く試着してみて」


「う、うん」


 私の時はまったく興味がなさそうなのにレインには愛おしそうに微笑む。横目で見るとレインが試着に行って着替えているうちに見たことの無い金貨でワンピースの代金を払っていた。あの服はきっと私が売られた値段より高いだろう。


「うん、やっぱり似合ってる」


「そうかな?」


「着て帰る?」


「あ、お会計」


「もう払ってあるから大丈夫」


 デザインも生地もその辺では買えない一級品というやつなんだろう。オーダー品と比べると縫製済みの服が途端に粗末に感じた。


「エリンちゃん決まった?」


「えーと、この三着で迷っています」


「同じ服を着てるわけにもいかないし全部買ったら良いよ!ね、シオン」


「ああ」


「ありがとう……ございます」


 レインの着ているその白いワンピースはこの服何着分なんだろう。


***


そうだ、レインを味方につければ良いんだ。あのお人好しだったら私の幸せのために喜んで協力するはず。夕食後しばらくするとリビングから各々の部屋に戻ったのを確認すると、立ち入るなと言われた二階のレインの部屋を訪ねた。


「レインちゃん?私エリンだけど……あの、入るね」


 友達が訪ねたらあの子は喜んで迎え入れるに決まってる。声をかけると扉を開けて室内に進んだ。さっき二階に上がって行ったばかりなのに、それに反して暗い室内……中の内扉、隣の部屋からだけ明かりが漏れていた。


「シオン。あのね、わたし一人で寝たい」


「イヤだ」


「だって、んっ、」


「これ以上はまだしないから。だから一緒に寝るだけ……責任は喜んでとる」


「シオン、離して……っ」


「レインもう少しだけ触っても良い?」


「っ、……駄目っ!」


「ダメ?」


「抜け出せ……ない……」


「おやすみ、レイン」


 聞こえてくるのは耳を疑うような甘く切なげな愛しきものへの囁き。なんなのこれ……気持ち悪い。いつも目で追ってそして微笑みかけ愛おしそうに触れる。妹相手におかしいと思っていたけど、兄妹で一体何をやっているの?

 ああ、王子様の目を私が覚まさせてあげなくちゃ……


***


「おはよう、エリンちゃん」


「おはよう……ございます……」


 昨日兄妹であんな事していて朝から平気な顔でご飯の用意をしている。そして何年も下働きや召使いみたいに使われていた私なんかより手際が良くて、しかも美味しいから余計腹が立つ。


「ご飯の用意しちゃうから、これ並べてもらえる」


「料理、得意なの?」


「別に得意じゃないけど、ウィルもシオンも作れないから作ってるだけかな」


 なんだろう、この不快な感じは。誰にでも優しくて可愛いくて何でも出来ますみたいな。しかもレインじゃなくて兄の方が執着しているし、私にも自分にも等しく接するのが不満なのか割って入ってくる。そしてレインはまったく気付いていないけど、このキッチンに来てからあの子の一挙一動を見逃すまいと言わんばかりに見つめている。


「レイン手伝う」


「エリンちゃんに手伝ってもらってたから大丈夫だよ」


「…………」


「じゃあ、これ冷やしてくれる?」


「分かった」


 一瞬手伝えない事に不満そうな顔をしたかと思ったら、レインが仕事を用意した途端に微笑んだ。これってまるで何かに操られているみたいで気持ち悪い……まるでレインしか見えてないみたい。


「「「いただきます」」」


「いただき……ます?」


 祖国の食事の挨拶だと言っていたけど、合わせたわけでもなくそれを自然とする三人に私は、お前は相応しくなくてここは場違いなのだと言われているようで不快になる。


「レイン、ほんと愛してる」


「ウィルはミルクプリンを愛してるんだよね」


「俺も好き」


 買い物に行っただけで店の人に好かれる。ギルドに行っただけで美人のお姉さんに好かれる。食事の用意をしただけでこうやって好かれる。みんなレイン、レイン、レイン……そればっかり。


 ご飯が終わったら私は掃除をする。魔力はそんなに無いから休み休み数時間かけて一階のすべての部屋にクリーンをかける。それだけの楽な仕事。


「お庭のお掃除おわりました」


「ありがとうエリンちゃん」


「えっ、何やって……」


「何って中和剤を作ってるんだけど……あっ、妖精さん中和剤を作りたいからお水をお願い」


 何も無い空間に一人で話し掛けているレインはとても不気味だった。


「じゃあ……マイム?」


 大きな鍋の前でボソボソと話ながら……すごく怖い。


「マイム、中和剤用のお水お願い」 


「レ、レインちゃん?!一体誰と話してるの?」


「妖精さんだよ……エリンちゃんもしかして見えないの?」


 そう言うと古びた杖を取り出し大きな鍋の前で何かを始める。


「わ、私、あっちの掃除してくる!」


 魔女だ。レインは魔女だから王子様たちを虜にしているんだと分かった。でもレインは拒絶していたから、兄妹とはどんなものなのか教えてあげなくちゃ。そしてお友達の幸せに協力させてあげれば悪い魔女じゃなく良い魔女になってハッピーエンドになるんだから。


***


「レインちゃん!」


「あっ、エリンちゃんこれからクッキー焼くけど一緒に作る?」


 アイテムボックスから材料を用意しているレインは魔女だと分かった途端、本当に不気味だ。だって、なんでもアイテムボックスに入れている事に私も今気付いたけど、そんな大量に入るアイテムボックスなんて聞いた事が無い。


「クッキー……そうじゃなくて。あのね、レインちゃんはもう成人してるんだしお兄さんとベタベタし過ぎるのは良くないと思うの」


 一瞬何事かと言う驚いたような顔をして、そしてとんでも無い事を言い出した。


「あのね、言ってなかったけどわたし、ウィルとシオンとは兄妹じゃないよ。ウィルとシオンは従兄弟だけど、わたしは違うの」


「なに……それ……」


「エリンちゃん?」


「…………めない……」


「へ?」


「エリンちゃん?!」


 認めない。絶対認めない!

 兄妹じゃないなんて、レインが王子様たちに愛されていて私が蔑ろにされるなんて!!!

 そうだ、レインがいなければ良い。兄妹じゃ無いなら私が変わりにレインと場所を変わっても良いはずだ。

 そう、レインさえ居なければ……

 人を操る魔女の癖に生意気にも綺麗な洋服を着て可愛い髪飾りをつけている。あんたには似合わない。

 リビングに飾ってあった剣で人を操れない様に後ろから殴ると、さっき話していた得体の知れない何かに助けを呼べないように睡眠ポーションをかけると、とりあえず大きな魔女の鍋の中に放り込んで蓋をした。自分の作った薬で退治されるなんてほんと魔女にはお似合いだ。"何かあったら使って"なんて親切を装って私に渡してきた他のポーションだって得体が知れないから怖くて使えやしない。


 ああ、これでようやく操られていた王子様たちの魔女の呪いが解ける……


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