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47 私の王子様——エリンside——

※閲覧注意※

彼女は色々あって性格が歪んでおります故に閲覧時にはご注意下さい

——side——なので読み飛ばしても大丈夫です

 レイン、レイン、レイン……みんなそればっかり。


 王子様が私を助けてくれたら待っているのはハッピーエンドのはずでしょ?

 でも私が見たのは助けられた私じゃなく、血の気のない真っ白な顔の女の子を抱き締め何度もその名前を呼んでいるそんな光景。


「とりあえず、これ着ててくれ」


「え?」


「レインがあの状態だとシオンがまったく使いものになんねぇし」


 系統は違うけど赤い瞳が印象的でこっちも王子様だ。それに親切に羽織れと外套を渡してくれた。


「レイン大丈夫かな……ってシオン?!」


 魔力がなくなって倒れたみたいだけど、王子様たちに心配されるのは助けられた私のはずなのになんて迷惑な子なんだろう。

 見ていると何度もMPポーションを飲ませようとしているけど、手が震えているからなのか、倒れている子に意識が無いからなのか、それは口の端からただ零れ落ちるだけ。ついに抱き起こして口移しで飲ませはじめた。王子様の相手は助けられた私のはずなのにこれってあり得ないんじゃない?




 私は小さい村で生まれた。父と母が生きていた時はコバルトの街のお祭りにも出掛けた記憶がある。小さい村ではポーションの数なんてたかが知れているし回復魔法が使える人は滅多にいない。ある日崖崩れに巻き込まれた父と母は助けだされるもポーションが間に合わずに死んだ。


 幸運にも生まれた年頃が近い村長の息子が婚約者だったから私は村長の家に引き取られるはずだったのに、離れた村に住む叔父家族が私を引き取ると言い出し、何年も召使いのようにこき使われた挙げ句、十五になるひと月少し前にわずかな金と引き換えに娼館に売られた。


 コバルトの街に向かう街道でオークの群れに襲われ人買いの男がオークに殺された時はざまあ見ろと思ったけど、抱えて運ばれた先の薄汚い小屋とも呼べない場所で醜悪なオークに囲まれた時は、死んだ方がマシだと、そして私の人生はこんなものなのかと絶望した。


 私が覚えているのはここまでで、きっとすぐに王子様たちが助けてくれたのだ。

 でも役立たずに今も倒れたままの子が私のハッピーエンドの邪魔をする。


「悪ぃな」


 赤い瞳と困ったような顔が……私の意識はそこで途絶えた。


***


 倒れていた女の子の名前はレインと言って、私より一つ年上十五歳らしいけどまったくそうは見えない。私もあと一ヶ月で十五だから余計そう思える。


「あの、助けてくださってありがとうございます。それからワンピースも貸してくださって……」


「俺に言われても困る。助けたのはレインだし、ワンピースを貸したのもレイン」


 お礼を言うと素っ気ないというかなんだか冷たく返される。もう一人の王子様に私を助けるのにレインって子が魔力を使いすぎて死にかけたみたいな事を言われたけど、私にはどういう事なのかまったく分からないし。


「ワンピースは貸すんじゃなくてあげるよ。ピンク色あんまり着ないし……シオンあげちゃって良いよね?」


「レインが良いなら良い」


「ね、エリンちゃんって呼ぶからわたしもレインって呼んでね」


「レインちゃん?」


「えっと、エリンちゃん」


 名前を呼んだだけで嬉しそうにするとか、ほんとどこのお子様なんだろう?ここ何年もおいとかお前とかしか呼ばれなかったし、名前になんてそんな大した意味は無いと私は思うけど、この子は違うみたい。


「レイン、愛してるっ!」


「抱きつくのは禁止」


「シオン酷くね?」


「レインは俺のだから」


「ね、とりあえず今日は野営?少しだけポーションの材料集めたいかも……シオン一緒に行ってくれる?」


「レインが疲れてなければ良い」


「じゃ、森の入り口近くで野営だな。レイン座るヤツだけ置いて行って日暮れ前に帰ってこいよ?俺腹減ったし」


 しかもこの子のどこが良いのか私にはまったく分からない。確かにこの辺では珍しい色合いで綺麗な子なのかもしれないけど、全体的に子供っぽいし絶対私だって負けていないのに、なのにレインだけが王子様たちに大切にされて愛されている。無邪気に笑うその姿に腹が立つ。


***


「すごいですね、魔導馬車なんて初めて乗りました」


「まぁ、レインのアイテムボックスがなけりゃこんなの入んないけどな」


 ああ、分かった!魔導馬車の中は王侯貴族が乗るような豪華さで、きっとお金持ちでアイテムボックスが大きいからこの子は大切にされているんだ。


「お肉焼けたよ~、サラダとスープ置いてくれる?」


「レイン、マヨネーズ!」


「マヨネーズか……ギルドに作り方登録しようかな」


「レイン、ドレッシングも」


「エリンちゃん、パンとお肉は真ん中から取って食べて。サラダには何か好きなものかけてくれたら良いし」


「ありがとうレインちゃん」


 今まで生きてきて食べた事のない味の、旅の途中とは思えない豪華な食事。そして優雅に食後の紅茶の時間……私とはまったく違う正反対の生活。なんだか途端にレインが憎たらしくなる。どうしてこの子ばっかりこんなに恵まれているの?どうしてこの子ばっかり……。


「これ食べても良いんですか?」


「うん、わたしが作ったやつだけど……」


「レインのクッキー好き」


「旨いんだよな、これ」


 豪華な食事と高価な砂糖を使った美味しいお菓子……ああ、私より優れているのはきっとそれしか無い。それだけは逆立ちしたって勝てっこ無いじゃない!


***


 コバルトのギルドで事情を聞かれて身の振り方が決まるのを待っている間に、あの子(レイン)と王子様たちが兄妹で一ヶ月前くらいからコバルトの街に住んでいるのだと教えてもらった。それに人を攫って売る人買いにレインが誘拐されてから兄たちは以前に増して過保護らしい。なんだ、妹ならしょうがない。





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