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45 白と黒

「これで完了だな。必要な分をギルドの受付で受け取っても良いし、そのまま支払いに使える所もある」


 お金を引き出す時はこのカードとギルドカードが必要で、ギルドカードと統一する事も出来るみたいだけど、ギルドマスターが今回は一緒にしない方が良いって言うから別々のままにした。なんと、このカードにはリアルタイムで残額が分かるという摩訶不思議機能がついている。うーん、電子カードみたいな?一人あたり引き出せる限度額とか色々と設定出来るみたいだけど別に必要無いってシオンとウィルが言うから普通の冒険者パーティーじゃ無いわたし達には必要無いんだろうな。お家の家賃の引き落としもこのカードからに出来るらしく、それはすごく便利。


「それで折り入って頼みがある…………」


 オークの討伐報酬を口座に入れてもらう事になってパーティー共用のカードを作った後に、ギルドマスターが頭を下げながらそんな事を言い出した。


「エリンちゃんをうちで?」


「無理だな」


「別に三人で間に合ってるし」


 ギルドマスターが言うにはエリンちゃんはあと一ヶ月で成人するからそうしたらギルドで見習い職員として雇えるけど、それまでお手伝いというか使用人としてわたしたちに雇って貰えないかって。それをウィルもシオンも即却下。


 ギルドでは公平を期す為に基本的に利用者に個別に便宜を図る事が出来ないらしい。勿論相応のお金を払ってお家や馬や馬車などを借りたり出来る便利な機関ではあるけど、それはあくまで契約をして対価を払った場合に限る。


 コバルトの街のお店にも聞いてみるけど、住み込みだと探すのに日にちがかかるらしい。魔物が多いこの世界は孤児院みたいな場所も常に定員オーバーで、十二、三歳くらいから冒険者になったり住み込み先を探したりで出て行く場合が多いらしく今十四歳のエリンちゃんが一ヶ月お世話になるのは難しいんだって。


 住み込み先が決まるまで宿に泊まれるくらいお金を持っていると良いんだけど、コバルトの街に入る時に少しならあるって言っていたから手持ちは多くはなさそうだよね……。

 色々聞くとエリンちゃん一人だと暮らしていくのはすごく大変で、見習いからでもギルド職員になれれば寮とか社宅みたいな所を借りられるし、お給料も貰えるからあと一ヶ月どうにかすれば良いみたいだ。


「一ヶ月なら良いんじゃないのかな?そうしたら成人してギルドで雇って貰えるようになるんでしょ……小さいけど部屋は余ってるし、報酬ならわたしが出しても良いから、そのダメかな?」


「お嬢ちゃんもこう言ってるし、な?」


 お父さんが死んじゃって一人きりになっちゃったエリンちゃんに二年前のわたしを重ねると、やっぱりいきなり一人放り出されたらすごく嫌だと思う。その分わたしは研究に打ち込んだけど。


「……俺は反対だからな」


「俺も反対…………でも、レインがどうしてもそうしたいならそれでも良い」


「あ゛ー、シオンってば言ってる事が一瞬で真逆になったぞ」


「ウィル、お願い」


「……そんな目で見るなって。……分った。分かったけど後悔すんなよ」


「レインはレインだから……多分分からない」


「まぁ、人を見る目を養うと思えば良い、のか……」


 なんの後悔をするんだろう?わたしがわたしだから分からないって何の暗号?ウィルもシオンもなんだか顔を(しか)めたり曇らせている。

 わたし人を診る目はしっかりしていると思うし、それなりに腕は良かったつもりなんだけど……。

 あ、それより何もお仕事なんてないけど、お手伝いってお給料はどのくらい出せば良いのかな?この世界のお仕事事情とか全くわからないや。



***



「部屋が狭くて申し訳ないけど、ここを使ってくれる?これ、シーツとか」


 やっぱり使用人のお部屋っぽいから狭いし、この部屋ベッドとクローゼットしかないんだよね。一応クリーンはかけたけど狭いものは狭い。


「ありがとう、レインちゃん」


「あとお給料なんだけど……(相場ってどのくらいなんだろう?)」


「一ヶ月衣食住はこちらで面倒を見る。服は何着か用意しておこう。三食食事も出す。住むのは一階の空いているどちらかの部屋。使用人というか手伝いの仕事は、二階は一切立ち入らなくて良いので、一階の掃除と何かあればレインの手伝い、それで一日銀貨二枚。不満があれば出て行ってくれて良い」


 わたしがどうすれば良いのか考えていると、シオンが何かを取り出しながらエリンちゃんに説明しだした。


「そんなっ、不満なんて無いです」


「これが契約書だ。よく読んで問題がなければサインをして契約してくれ」


 銀貨二枚だと一ヶ月で小金貨五枚と銀貨六枚になる。本当は手伝ってもらう仕事なんて無いし、服と食事、住むところつきでエリンちゃんの年齢だとこの位が妥当なのかな?

 一階のお部屋にクリーンかけてもらうとして、多く見積もっても一日十五分くらいで終わってしまう。エリンちゃんの魔力がどのくらいあるのか分からないから回復しながらだともっと時間がかかるかもしれないけど。


「シオン、ありがとう!」


「そうだ服を取りに行くついでにレインが何着か見繕えば良い」


「せっかくだからエリンちゃんも一緒に買いに行こう!いいよね?」


「……分かった」


 うわっ、なんかシオンが凄く不満そうだよ。エレノワールの森に行く前に街でわたしの服をシオンがオーダーしたんだよね。いらないって言ったけど押し切られてお店の人に全身採寸されたんだ。しかも同じ生地かなんかでドロワーズまで一緒にオーダーしたみたいだから恥ずかしかったんだけど。


「行こうレイン」


 シオンに手を引かれて、繋いだ手は解こうにもビクともしないからわたしは否応無しに歩き出すしか無い。振り返りながらエリンちゃんについて来て欲しいと伝える。


「エリンちゃん、ついて来て」


「は、はい」


 手を繋ぐなんてそれこそいつもと変わらないのにいつもより恥ずかしいと思うのは、シオンがわたしに、こ、告白なんてしたからだと思う。そんな生やさしいものじゃなく実際はオークの死体だらけの中での求婚だったけど……あれも血迷った世迷い言なのでノーカンです。ああ、今繋ぎ直した手の繋ぎ方がついに恋人繋ぎなんですけど……もう兄妹って設定は無視ですか……。恋人繋ぎなんて初めてしたしシオンがわたしの初めてばかりを容赦なく奪っていくよ。

 お店について試着があるからかようやく繋いだ手を解放される。


「エリンちゃんどれにする?」


「どれでも……そ、そのシオンさんはどれが良いと思いますか?」


「着られるサイズを選べば良い」


「分かり……ました」


「レイン早く試着してみて」


「う、うん」


 ごめん、エリンちゃん。あの綺麗な顔で塩対応されたらそりゃヘコむよね。お父さんが死んじゃって一人なんだからもう少し優しくしてあげても良いと思うんだ。確かに急に知らない子が増えたら暮らしにくいかもしれないけど、それはわたしも同じだっただろうし……あの人懐っこいウィルもエリンちゃんに素っ気ないんだよね。


「うん、やっぱり似合ってる」


「そうかな?」


 スパイダーシルク……蜘蛛の遺伝子を導入した蚕に作らせた繊維じゃなく、本当に蜘蛛の魔物の糸で作った羽のように軽やかなワンピース。防御力が格段に上がるから装備品に入るみたいで、ここで採寸してもらって他の街で専門の職人さんが縫製した逸品らしい。これ、シオンとかウィルのシャツと同じ素材だよね?

 デザインはシンプルだけど洗練されたひざ上丈のAラインワンピース。色はシンプルな白と黒の二着でなんと同じ生地でドロワーズもある。……高そう。これすごく高そう。わたしの持ってるお金で足りるかな?


「着て帰る?」


「あ、お会計」


「もう払ってあるから大丈夫」


 ……シオンってばまた試着してる間に払ったのかな?もしかするとオーダーした時に払っている可能性もある。この世界で買ったワンピースは全部シオンが選んだもので、お金もシオンが払ってるからなんかすごく申し訳ないんだけど、金額も教えてくれないし頑なにお金は受け取って貰えないから好意に甘えちゃっている状態なんだよね。そんな悩みもさて置き、デザインと手触りの良さにうっとりしちゃうのはわたしも一応女の子なのだと実感する。


「エリンちゃん決まった?」


「えーと、この三着で迷っています」


「同じ服を着てるわけにもいかないし全部買ったら良いよ!ね、シオン」


「ああ」


 今エリンちゃんはピンクのワンピース一枚しか無いから、後はギルドで働くようになったら追加で好きなのを買ったら良いと思う。


「ありがとう……ございます」


 なんだか浮かない顔してるけど、お洋服気に入らなかったのかな?






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