42 魔力充填
「ウィル、エリンちゃん、お待たせ~」
「レイン遅い~もう腹減って死にそうだから」
「ウィル、二日くらいなら死なない」
それ冗談になってないから……ってシオンの場合三割くらい本気っぽいんだよね。
「レイン、肉~」
その言い方だとまるでわたしがお肉みたいだからやめて欲しい。切実に付いていて欲しい所にお肉は無いし、ちなみに今お腹がぽっこりしてるのはMPポーションを六本飲んだから。
「ウィル、今日から魔導馬車に泊まっても良いかな?」
「魔導馬車なんて持ってたんだな、まぁレインなら有りか」
「出すけど、この辺で良い?」
「ここより街道沿いの方が良いと思う」
森の入り口から街道沿いに移動して、アイテムボックスからキャンピングカーというか魔導馬車を出す。
「レ、レインちゃん?!これ……」
「ん、泊まる場所?ウィルは魔導コンロとトイレに魔力充填してくれるかな。シオンは水まわりと冷蔵庫、それに送風機にお願い」
二人ならもっと充填出来そうだから寝る前に車本体にも充填してもらおう。
「エリンちゃんは魔力充填って出来る?」
「少しなら……」
「じゃあ、出来る分だけで良いからここにお願い」
エリンちゃんには車本体に出来る分だけ充填してもらって、わたしも寝る前に残ってる魔力を充填しよう。でもお肉焼くなら焼き肉のタレ創造しとかなきゃだよね……魔力足りるかな?そしてわたしはMPポーションを飲み、またお腹たぷたぷになる悪循環。
「すごいですね、魔導馬車なんて初めて乗りました」
「まぁ、レインのアイテムボックスがなけりゃこんなの入んないけどな」
わたしのアイテムボックスってエレオノーラ様特製だから多分無限に入るんだと思う。だってオークがトータル四百匹くらい入ってるんだもん。
あと、この馬車なんかおかしいと思っていたら外見より中が広い。空間が拡張されてるような状態。これなら他の荷馬車や馬車とも街道をすれ違えるからエレオノーラ様の配慮なのかも知れない。
「お肉焼けたよ~、サラダとスープ置いてくれる?」
この魔導馬車にはリビングがあるからテーブルで食べられるのが嬉しい。ピクニックっぽいレジャーシートも良いけど、下がデコボコしてるからやっぱり座りにくいんだよね……
「レイン、マヨネーズ!」
「マヨネーズか……ギルドに作り方登録しようかな」
創造すると魔力が結構無くなるから気軽に買えるようになったら嬉しい。
「レイン、ドレッシングも」
マヨネーズを催促したウィルに続いてシオンがドレッシングを要求する。この二人、元の身体……サラダに塩の生活には戻れなさそう。
「エリンちゃん、パンとお肉は真ん中から取って食べて。サラダには何か好きなものかけてくれたら良いし」
「ありがとうレインちゃん」
こうしてお肉とサラダとスープとパンで簡単に夕食を済ませて食後の紅茶の時間。エリンちゃんがいるからちゃんとお湯を魔導コンロで沸かして入れた。アイテムボックスから熱々の紅茶が出てきたらおかしいもんね。
「これ食べても良いんですか?」
「うん、わたしが作ったやつだけど……」
「レインのクッキー好き」
「旨いんだよな、これ」
お手製クッキーは丸くて甘くてサクサクしてるけど、作るのがとっても簡単なアイスボックスクッキーだ。わたし砂糖は創造出来るからなんならクッキーと紅茶の喫茶店とか出せそうじゃない?
「見張りはどうする?」
「一応自動修復がついているから多少なら襲撃されても大丈夫みたいだし、ここに魔法をセットすると地図連動で撃退してくれるみたい」
運転席の方、本来ならカーナビが入る所に地図を連動できて、その下に三つ水晶みたいなものに魔法を充填出来る。充填しておくと地図に連動して魔物は自動攻撃、人は敵意ある場合撃退してくれる。
わたしはカーナビの場所に地図を連動させて、水晶三つにサンダーボルトを充填した。現在地には青三つに黄色一つ。近くに赤はないから一応安心。
ウィルとシオンが寝る前に残りの魔力を魔導馬車に充填してくれたからコバルトの街までは大丈夫そう。
お風呂はないけど一応簡易のシャワーはあって十分満足出来る広さの魔導馬車。シオンに抱き締められて寝るのは恥ずかしさとか我慢すれば快適と言えば快適だったんだけど、ベッドがあれば別々に寝られる……とこの時のわたしは思っていた。
「エリンちゃんはここで寝て」
魔力で上下するエレベーターベッドをリビングで下げて寝られるようにする。
「レイン、おいで」
「ここ繋げたから一人で寝られるから」
「ウィルと近くなるからダメ」
……くぅ、なんの為にキャンピングカーを創造したと思っているの?奥のベッドルームは真ん中にマットを追加できて、そうすると広くなるからシオンと寝ない為なのに、結局抱き締められてベッドで一緒に寝るとか意味ないんだから!
「レイン」
「シオン、離れて」
「嫌」
ああ、なんて残念なイケメンなの?これは優良物件じゃなく不良、否、事故物件なのかもしれない。だってわたしにシオンの腕が絡みついていて抱き枕とかぬいぐるみ状態で抜け出せそうに無い。こんな事ならエリンちゃんとリビングの方で寝るべきだった。でもシオンに抱き締められているとなんか良い匂いだし、その安心できるんだよね……そんな事を考えていたけど、やっぱりわたしはおやすみ三秒で。
「レイン寝た?」
「ウィル、勿体ないから覗くな。レインの寝顔が減る」
「寝顔は減らないからなっ!それよりシオンあの子だけど……」
「俺はさっさとギルドなり詰め所なりに報告してレインと引き離したい」
「だよなー、あの態度って問題ありまくりだよな」
「ただ、レインが……」
「シオンお前……危険とかああいう輩は即排除してたのが成長したのか、甘くなったのか……」
「レインの前で人間を凍らせたり排除したら絶対嫌われるし泣かれるから無理」
「そりゃあれだけ素直で人が簡単に人を騙すとは微塵も思ってねぇんだから、会ったばっかの人間の善し悪しなんてわかんねぇだろうしな……それにシオンにも騙されてたもんな」
「人聞きが悪いし騙してはいない。ただ抱き締めて寝る口実があったから使っただけ」
「……お前な」
わたしはこっちで初めて出来ただろう女の子の友達に舞い上がっていて、何も分かっていなかったんだ……




