04 剣と魔法の世界、地球《ガイア》
「気を取り直して家名がまだですので、決めてしまいましょう。王族と被ると少し面倒ですし」
「……適当なのはある?」
突拍子もなさ過ぎて、零はだんだんと投げやりになってきた。
年齢=恋人いない歴のダメージの所為ではない、多分。
「では私の花、エレノワールの森のエルローズからとってローズは如何ですか?地球の花もそれをお持ちでしたので」
「じゃあ、それで」
レイン・ローズ、などとかなり恥ずかしい名前の誕生であるが、夢だからと割り切る。
「では地球と基本的な説明をしますね」
地球は剣と魔法、魔物が渦巻くどきどきファンタジーな世界らしい。
(……もう、何も言うまい)
ギルドに登録すれば冒険者として魔物と戦おうが、何かを作ったりする生産者だろうが、向き不向きはあるにせよ好きな仕事が選べる。
地球の比較的安全な地域はエレノワールの森周辺にある、魔法国家のシルフォード帝国、錬金術が盛んなアルケミニア王国、エルフや妖精の精霊魔法都市オリヴィエント公国、獣人が多くポントスシア海に面したエルアニマ共和国、と多種多様な四カ国。
シルフォード帝国は最近焦臭いので、メドウラノス山脈で隔てられているアルケミニア王国がオススメらしい。
また、魔法の他にスキルや様々な加護など色々な能力が使える。
属性魔法より精霊魔法の方が消費魔力が少ないが、精霊魔法は誰にでも使えるわけではないらしい。
簡単に言えば精霊が力を貸してくれれば使える。
例えば飲み水だと魔法で出した水より精霊に力を借りて出した水の方が美味しいらしい。もちろん調合に使うと言えば純水を出してくれるし、料理に使うと言えば適したミネラルたっぷりの水と臨機応変。魔法で出すとその人の魔力によっての品質の良し悪しはあるけど、ほぼ一定の品質らしい。
***
「……難しすぎてパンクしそう」
自分の夢の中なんだからもう少しお手柔らかにして欲しい。
零にゲームやファンタジーの知識はほぼ無い。
故に治療や実験をしたり数式を解くより難しく感じる。
「では能力は後でステータスを見て確認していただいてよろしいですか?」
「それでお願いします」
そろそろ目覚める時間なのだろう。
ようやくふかふかのベッドでゴロゴロだらだら出来ると思うと、零は素直に嬉しい。
夢を見ている時点で既に寝てる癖に、目覚めてからもゴロゴロだらだらしようとするあたり、久し振りの休日は誕生日なんて何のその食っちゃ寝して世間一般で言うところの牛になる気満々だったりした。
「それでは、ようこそ地球へ」
零の……否、レインの胸のあたりが輝くと同時に、やがて粒子のように徐々に徐々に消えていく。
「あ、名乗る時やギルドでは名前と年齢だけが無難ですよ~」
多分この世界において基本中の基本、大切な事を思い出したついでに付け加えておくエレオノーラ。案外抜けている。
そしてすっかり光の粒子が消えると漸くと言わんばかりに深い溜め息をついた。
「はぁ~、あの駄女神の後始末はなんとかつきましたかね?」
本来なら雨宮零の寿命は地球においてあと半世紀以上あったのである。
それ故、地球と地球で選ばれた魂を循環をさせる時に、本来一つないし二つ付与される特別な能力を罪滅ぼしとばかりに特例の特例で大盤振る舞いの割増付与したのだ。
たまに地球でファンタジーなゲームを作ったり、異世界や転生ものを書いたりする人間がいるのは、地球の記憶が微かに残っているからかもしれない。
「とりあえずこれで簡単に死んだりはしないでしょうし、成人したばかりの身体にしたので、本来地球で得るはずだった伴侶の変わりにこちらで得られれば良いのですが……」
もし、あのまま雨宮零が地球で生きていたとしたら、佐藤が心を入れ替えた猛アタックで二年後にはゴールインするはずだったのだが、それは今となっては神のみぞ知る既に消えた未来。
そして零がレインとして地球に降り立った事によって、この世界も波紋のように緩やかに、ほんの少しづつ、それでも確実に話は変わる。
枝分かれしたその先は現時点では予測不可能。
それも含めて全ては女神が導く運命なのかもしれない……
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