39 続どうしてこうなった?!
「ウィル、世の中冗談で済む事と済まない事がある」
「シオン、落ち着けっ!」
「俺は幼女に興味は無い」
「シ、シオン?」
「レインだから一緒にいたいし触りたいしあわよくば「ストーップッ!」」
ウィルが遮ってシオンを制止してくれたお陰で助かったよ。このままこの至近距離で聞いていたらわたし恥ずかしさで脳みそ溶けて確実に死ねる。
「とりあえず、レインを降ろして誤解を解こう。な?」
「…………」
ウィルの提案にシオンはお姫様抱っこから渋々わたしを下に降ろす。助かったー!って、まだ途中か……
「とりあえずレイン、シオンになんか聞きたい事は?」
「まず……本当に変態さんではない……の?」
「幼女に興味は無い……万が一レインが幼女だったらそれでも構わないが、例えば呪いで一夜にしてお婆ちゃんになったとしても変わらず求婚する」
そこは構って!……それ絶対犯罪だから。それに一夜でお婆ちゃんになってもって……あるの?そんな事あるの?!
「うわぁ……ガチ過ぎて引かれるからな、それ……。レインこの際他に聞きたい事は?」
「あ、あと、シオンがわたしを好きってのがどうしてか分からない。……その、いつ、から?」
「まず最初、精霊かと思った……少し珍しい黒曜石の髪を耳に掻き上げ紫水晶の瞳に俺を映しながら覗き込んでいて、ああ綺麗だなって。一瞬目を丸くし驚いた顔をするとその紫水晶が零れ落ちてしまうのではないかと心配したが、次の瞬間には顔を綻ばせて可愛らしいなとその後「ちょ、ちょっと待って!」」
スラスラ出てくるのは一体いつの話なの?わたしにそんな記憶なんて一切ないし、なんか美化とか捏造とかしてない?それより甘すぎで口から砂を吐きそうなんですけど、これ通常仕様、これで通常仕様……
「だから今までちゃんと態度で示してきたつもりだが……何が足りなかったのだろうか?」
「シ、シオン。例えば旅の途中でわたしじゃなくて女の子が一緒だとしたら、危ないからってあの、寝る時のあれは普通なんだよね?」
「何故レイン以外を抱き締めなくてはいけない?」
本気で首傾げたよ、この人。転がると危ないからとか言ってたのに、嘘つきーっ!!!
「……そういえばウィルは寝る時もつけっぱなしだけど革鎧って寝る時外すものなの?」
これは前から疑問だった。何故か寝る支度をする前にシオンは革鎧を外して鎧の下に着ているものとかアイテムボックスにしまっているから……ウィルは寝る時もつけっぱなしだけど、ご飯の前にとっているんだよね。どうしてなのか不思議すぎる。
「野営は普通は革鎧は着たままだな。ただ、エレノワールの森だしそこまで強い魔物はいないから革鎧はあっても無くても大丈夫……それに革鎧は抱き締めるのに邪魔」
「あっ、俺はなんか窮屈な気がするからエレノワールの森だし飯の時は外して食う事にしてるだけだぞ。この程度なら結界石とかもいらねぇしな」
ああ、聞かない方が良かった……エレノワールの森は大丈夫だから外してるって二人とも言ってるけど本当なのかな?確かに寝心地は良かったけど……。
「う゛う゛……買い物行ったら手を繋ぐのは迷子防止なんだよね?」
「レインと手を繋ぎたかったから迷子になってくれて丁度良かったけど、迷子にならなくても繋ぎたい」
そんな微笑んでも、絆されたりしない…………しない……もん……ああ゛ー、もうその顔やめてっ。
「ぐはっ、もうダメ……わたしが鈍感なの?だってわたし極普通だよ?どっちかって言ったら地味で目立たない方で……あっ、罰ゲームとか」
そうだ、罰ゲームが一番しっくりくる。あれが全部アピールだったなんて知らなかったし、知りたくなかった。シオンが何を考えているのかまったく分からない……それに兄妹のロールプレイだと思っていたよ、わたし。
『レイン面白過ぎるの~、どっちかって言ったらレインの方が罰ゲームなの~』
確かに罰ゲームさせられてる気分ではあるよ、トホホ。
「あのさ、レイン普通に美少女だし、それに普通でもねぇな。お前が地味で目立たなかったら世の中の女はみんな地味で目立たない事になるぞ」
「ウィル、慰めにしてもそれ褒めすぎだと思う……」
『レイン鏡見たことある~?』
「エル、いくらわたしだって鏡くらい見たことあるから。いくら見ても父とそっくりなだけだから見ても仕方ないって言うか……少しでも母に似てたら良かったんだけどね…………」
あっ、なんか悲しくなってきた。そうしたら父に母にちっとも似ていなくて残念的な事言われなくて済んだわけだし。
「それは違う。俺が今まで会った中でレインは姿形が美しいだけじゃなく内面も綺麗だ。優しくて性格も良いし料「そっ、そんなことないからっ!!!」」
ああ、味方がHPをごりごり削っていくよ……わたしのHP100しかないのに連続攻撃でHPは残り1の気分。もう瀕死だよ。
「あのな、レイン。シオンは女関係では嘘つける程器用じゃねぇから。なんたって言い寄る女を袖にしまくって、あだ名は女性に冷たい氷の殿下とか、精霊に愛された氷の殿下だぜ」
「あだ名が殿下とか王子様って……」
あだ名が殿下とか王子様とか何それやっぱりイケメン怖い……無理無理ほんと住む世界違いすぎだから。
「そっち?!気にするのそっち?!あとなシオンが女に微笑むとか滅多にないから、貴重だから。って何その疑いの眼差しは!」
「だってシオンいっつも微笑んでるし、寧ろ出会った時から微笑みっぱなしだし。ウィルの嘘つき!」
「バカっお前な!俺とかには普通かもしんねぇけど、レインのいない時のシオンの表情見てみ、表情筋死んでんのかってくらい真顔だからな?レイン、とりあえず付き合え。それで丸く納まるから」
わたしがいない時の表情なんて、わたしいないんだから見られるわけないと思うんだけど。それに収まるって、それって納める気満々じゃないのかな?
「…………じゃ、お友達から?」
「もう友達だから、恋人から。なんなら夫婦でも」
「シオン、俺別の意味で尊敬するわ……」
ほんとだよ……こんなに積極的というか何言っても諦めそうに無いカンジでグイグイくるなんて、何か変なスイッチ入っちゃったのかな?オフはどこー?やっぱりエルがなんて言おうとキノコ説が濃厚だと思うの。
「…………お試しで!とりあえずお家の契約終了までのお試し期間って事なら」
期間限定……例えばわたし的に価値観があわなかったり、距離感があわなかったり、顔が良すぎてわたしの目がやられたり、甘過ぎて脳みそ溶けそうになったりしたら、ごめんなさいって事で。……まぁ、重要なのはシオンがこれは間違いだって気づいた時に、これなら気まずくならずすっぱり別れられる。きっと命を助けたから吊り橋効果?とか何かの勘違いなんだから。
「お試し期間が終わったら結婚してくれる?」
「違うからっ!お試し期間が終わってそれでも間違いとか勘違いじゃなかったら本当に付き合うって事だから!」
そんな嬉しそうにしかも可愛く言ってもそれは了承しかねる……なんでそんなに結婚したがっているのかがわたしは謎だよ。だって、お付き合いすらしていないのに結婚だよ?!絶対おかしいから!
「レイン、お前そのお試し期間で逃げられると思ってる時点で負けだと思う。なんたってシオンはアルケミニアの妖精姫を決闘までしてかっ攫ったあのギデオン様の息子だよ……」
ウィル、忠告は嬉しいんだけどそのギデオン様って誰なのか知らないから……しかも決闘とかかっ攫うとかすごく物騒なんですけど。
わたし、どうやらこんな所で人生初めての彼氏が出来たみたいです…………




