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36 過去からの伝言

「おはよう」


「う、うん。おはよう」


 ああもう、朝からこの微笑みはわたしのHP削られるから……


『朝からいちゃついてないの~』


「いちゃ……これ朝起きて普通に挨拶しただけでしょ!」


 キノコを両手に抱えたエルが見つめ合った状態だったわたしとシオンに生暖かい目を向けながら冗談を言う。

 エルが変な事言うからシオンがわたしを腕に拘束したまま解放し忘れてるよ、トホホ。


『レイン、お父さんの研究をまとめた雨宮零の論文、基礎理論の実証が認定されて世界中で研究がはじまったの~』


「……ほんと?」


 これなら研究で完成させたあの薬の他にももっと効果のあるものや新しいものが生み出されるかもしれない。わたしだってもともとは父の研究の派生というか亜種というか、偶然違うものが出来ただけ。これできっと、もっとたくさんの人が救われる。父の母を救いたかったという願いも報われる。それにわたしの……


「レイン」


「?」


「泣いているのは悲しいの?」


「違うの、嬉しくて……わたし……」


「なら、好きなだけ泣いて良い」


 脇のあたりに手が添えられたかと思ったらくるりとわたしの身体が反転すると、目の前にはシオンの胸があってポンと頭に手が乗せられ撫でられる。くぅ、イケメンはなんで行動までイケメンなんだろ……そんな事考えながらわたしはシオンの柔らかくて触り心地の良いシャツに盛大に染みを作っていく。


***


(どうしよう……恥ずかしくて顔が上げられない)


 まずこの抱きつくような体勢もそうだけど、シオンの高そうな服まで汚しちゃってるし、抱きしめられて頭撫でられてるし……ああ、ほんとどうしよう。


「うわっ、シオンってばレイン泣かせたのか?!」


「違っ、シオンじゃなくてこれはエルが」


「エルが泣かせたのか?!お前性格悪いもんな!」


 エルは結構適当だけど性格は悪くないと思う。あの蜂蜜戦争の名残かな?


『やっぱりウィルはバカなの~』


「ウィル、エルがもう知ることができないと思っていたお知らせを持ってきて、それですごく嬉しくてなんでか泣いちゃったの」


「なら良いんだけどよ……それ……あっ、それより朝飯済ませてちゃっちゃとオークと戦いに行くか」


「その前に」


 ポーション?シオンが取り出したのはポーションで、しかも鑑定するとわたしのHPポーションだ。


「これを顔につけると良い」


「?」


「奥様方の常識らしいぜ、初級HPポーション顔に塗るとツルツルになるって」


「…………」


 つまりはだいぶ酷い顔をしているって事かな、うん。急いでポーションを手に出し顔にパシャパシャとかけるとヒンヤリと目の周りや頬に馴染む。ポーションにそんな使い方があるなんて……あ、もう一度鑑定してみると美容液にもオススメってちゃんと書いてあるや。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

初級HPポーション 品質:S


極上の魔力が込められた中和剤で製作されたHPポーション

飲むか傷口に掛ける事により回復する、美容液にもオススメ

回復量は中級ポーションと同等の最上級品

シエル草:中和剤(1:9)


追加効果:とても美味しい


製作者:レイン

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……それよりなんでシオンがわたしのポーション持ってるの?」


「買ったから?」


「買わなくてもあるからっ」


 わたしがギルドに売ったポーションをシオンが買うとかなんか違う気がする。昨日もたくさん作ったし。


「まぁポーションとかは普通出掛ける前に揃えるもんだしな」


「それに普通出先では調達出来ない」


 なんとなく二人の言葉にぐうの音も出ない。確かに全部売っちゃったんだよね、わたし。

 でもでも、わたしが売ったポーションをシオンが買うのはやっぱり違う気がする。しかも兄妹ってなってるのに妹の作ったポーション買っちゃうとかどんな兄バカなんだろう。


「うん、泣いていても可愛いけどいつものレインに戻った」


「う゛、」


 どうしてこの人は素面(しらふ)でこんな恥ずかしい台詞を言えるのか……これも通常仕様(デフォルト)ですか?!


「ご、ご飯にしよう!」


「お、飯なに?」


 そんな顔して、ぬいぐるみを置いていくようにいわれた子供みたいに名残惜しそうに離さないでよ。あっシオンの服にクリーンかけとこう。今から革鎧を着るんだろうし、服に涙以外にもしかしてもしかすると鼻水とかがついてたら嫌だもんね。


「エルがキノコを採ってきてくれたからそれでスープしか決まってないよ。サンドイッチとおにぎりはあるけど何食べたいの?」


「両方!どうせオーク退治して集落潰したら街に報告しに戻らなきゃなんねぇしな。あと昨日の肉残ってねぇの?」


 朝から焼き肉食べる気だ……否、ウィルは朝から唐揚げ大丈夫な人だった。

 シオンだって四個とか五個くらいは朝でも平気な顔して食べているから、わたしがおかしいのかな?食べる量もシオンでさえ倍以上違うし、ウィルに至ってはシオンの倍くらいでわたしの四倍とか?……あっ、ちょっと胸焼けしてきた。

 あれだけ食べてどこにいってるんだろう?わたしなら確実にお腹がぽっこりぷよぷよになると思う。

 そういえばシオンは寝る前に革鎧を外して、ウィルは寝る時革鎧を外して無いけどご飯の前に外してる……のはなんでだろ……。


「レ、レイン!もう勘弁してくれっ!」


「へ?」


 どうやらわたし考え事しながらシャツの上からウィルの身体を滅茶苦茶触りまくっていたようで、細身に見える割には着痩せするのかしっかり筋肉あるし、筋肉もなんかわたしとかと全然違って質が良いし、それに均整のとれた良い身体で脱いだら何気に凄そうだし、もしかしてお腹とか割れてたりするのかなって……う゛っ、これただの痴女だよ。


「ご、ごめんウィル!あれだけ食べてどこにいってるのかなぁ~って考えてたら……いつの間にか触ってた」


「シオンが怖いからやめよう、てか俺じゃなくシオンにして……」


「え゛っ、ウィルが良い……かな」


 あんな正統派のイケメンを触りまくったら犯罪だよ犯罪!痴女どころじゃなくて速攻捕まるどころか即有罪の死刑だけど、ウィルなら基本的にノリで許してくれそう。そう言うとウィルはわたしを鬼でも見るような目で見る。


「オーク焼くから、許して」


「昨日の味の他に初めて会った時のやつも作るなら」


「作るっ、ウィルの為にいっぱい愛情込めて作るから!」


「あ゛ぁっ、もう勘弁して……」


 何を勘弁したら良いんだろうか?そんな事を思いながらわたしはウィルのリクエスト、生姜焼きを焼くのであった。






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