34 パワーレベリング
「レイン、倒して」
「えっと、ストーンブラスト!ウォーターアロー!ウインドカッター!」
今わたしはレベル上げの為に半分凍らせられ足止めされた魔物に止どめを刺してる。それに付き合わされているのはシオン。
さっき妖精さんに協力してもらって中和剤を作りポーションもたくさん作ったから準備万端。
「ふぅ、倒せた~。あっ、シオンそろそろMPポーション飲んでおく?」
「ああ」
シオンはさっきから魔物を絶妙に氷付けにしているから大部MPを使っているはずだ。
わたしは創造出来るようにかMPだけは大量にあるからまだまだ大丈夫だけど。
「俺なんもする事ないんだけど」
手持ち無沙汰で不貞腐れてるウィルは足止めが可能な氷魔法は使えないから待機中だったりする。シオンが得意なのは水の上位魔法の氷で、ウィルが得意なのは真逆の炎だから仕方ない。
「結構倒したと思うんだけど、レベル上がらないや……」
「そろそろ一度入り口付近まで戻って街道側で野営の準備をするしかないな」
「腹減ったし、オークでも焼いて食うか?」
「…………」
なんかさっきのオークが殖える方法というかその話を聞いて、食べようって気がまったくしないんだけど……他の生き物かもしれないけどその苗床が人間かもしれなくて、でも産まれるというか殖えるのはオークで。気分的になんだか複雑だ。
でもよくよく考えると元いた世界もスーパーにお肉が並んでいたのは、ただ並んでいたのではなく畜産農家さんに増やしてもらってそれがわたしたちに届いて食べる事ができていたんだよね……それが魔物じゃないだけで。……そう、魔物じゃないだけで。
「レイン?」
「あ、オーク食べるのにちょっと抵抗がっ、でもそんな事言ってたら何も食べられなくなっちゃうよね……」
シオンが心配そうに覗き込んでくるから思った事を口にする。
「魔物は魔物、で、肉は肉。食べられるんなら有り難くいただくってのが自然の摂理だろ?」
ああ、なんかウィルが凄いまともって言うかちゃんとした事言ってる。よし、わたしだってこれからこの世界で生きて行かなきゃいけないんだから、覚悟を決めてあれを使おう。
「で、何を作るんだ?」
「初めて倒したホーンラビットでシチュー」
そう言いながら携帯用のコンロを取り出すとウィルに魔力の充填をお願いする。
シオンが野営用に買ってくれたなかなかお高い携帯の魔導コンロ二つは魔石を利用したカセットコンロみたいなもの。実はこの魔石に魔力を充填するのはウィルが得意。得意な魔法と魔石に付与された魔法がおんなじ属性だからかな?
わたしが初めて命のやり取りをした魔物、ホーンラビット。角があってあんまり可愛くない兎っぽい魔物は、お肉と毛皮と角に分かれてアイテムボックスに入っている。あの時は魔法が使えると知らなくて杖で思いっきり殴ったっけ……うん、踏ん切りつけるのに使うには良いと思う。
「オークも焼こうぜ」
「分かったって、ウィルの食いしん坊」
シチューを弱火でことこと煮て、もう一つのコンロではお茶を煮出したから次はお肉を焼かなくちゃ。
「シオン、これ冷やせるかな?」
「それくらいなら簡単」
シチューが熱々だから飲み物を冷やして貰う。これはアイテムボックスに入っていた麦茶をさっきコンロのヤカンで煮出して少し置いたもの。
ヤカンで麦茶とか、どこの運動部かってカンジだけどそこは気にしない。急速冷蔵できるシオンって、冷蔵庫とか冷凍庫いらずですごく便利だよね。
結局、パンとシチュー、オークの焼き肉というメニューになった。創造しておいた焼き肉のタレを使う。うちの冷蔵庫には焼き肉のタレが無かったみたいで、バーベキューで食べた事のある有名どころを創造した。知らないものは創造できないから難しい。ステーキソースはせっかくの誕生日だし一人豪勢にお肉を焼こうと思って買ったばかりだからあったけど使っていない。なんとなくオークは豚肉の美味しいのってカンジで、ステーキソースは牛肉に使いたいけど、牛肉っぽい魔物って何か見当もつかない。
「「「いただきます」」」
レジャーシートを敷いてカゴに盛ってあるパンとシチュー、それに大皿にオークの焼き肉が好きなだけ取れるように置いた。取り皿とフォークがあるからウィルの天国だね。
「レイン愛してるっ!」
「それ、わたしじゃなくお肉を愛してるでしょ」
焼き肉を頬張りながら——わたしじゃなくお肉に対して——愛の告白とかウィルらしい。シオンが氷魔法を使ってないからウィルのお肉に対するこの心の叫びというか求愛は許容範囲みたいだけど、その基準がよく分からないや。
「このお茶不思議な味がする」
「俺はエールなんかよりは好きだけど、まぁシオンが冷やしてくれたらエールでも飲めるけどな」
「ねぇ、ウィル。エールって何?」
エールって飲み物なんだろうけど、どんなものか何か分からないから聞いてみる。
「エールは大衆向けの安い酒だな。レインも一応成人してるし、エレノワールの森から帰ったら酒場でも行くか」
「エールってお酒なんだ。一度くらい酒場に行ってみたい気もするけど……ビールとかならお家で出せるよ」
確かギフトのプレミアムなビールとか研究成果が出てお祝いにいただいたワインとかあったと思う。後は父のコレクションだったウィスキーとかだけど未開封のお酒なら消費期限はきっと大丈夫だよね?
「レインがつまみ作ってくれんのか?」
「ウィルはお肉煮たり焼いたりすれば良いんでしょ?」
それなら少し調味料を創造しておこうかな。今日はとりあえず残り少ない蜂蜜を創造しておこう。
創造しておいたのは何も食べ物だけじゃない。
T3号輸液セット、使うか分からないけど鉗子や剪刀、有鉤鑷子に無鉤鑷子、メスといった器具全般。器具全般を創造した時、やっぱりメスは電気メスだけが無かった。止血に電メスの凝固モードが使えない分どうするか考え所だ。
……ただ、回復魔法やポーションがあるこっちの世界で器具自体を使うのかどうかは謎だけど。職業柄というか職種的にあれば安心できる。ちなみに器具の鉗子は種類が多すぎてオペナースにならなきゃ把握困難だからか知ってる三つしか創造できなかった。
麻酔には一般的な区域麻酔リドカイン(キシロカイン)を、全身麻酔は呼吸管理とかどうすれば良いか分からないから却下で、麻酔もポーションで代わりになりそうなものが無いのか探してみよう。
「レイン、明日もレベル上げするならきっちり寝とけよ」
「……分かってる」
ご飯が終わって食後のお茶をしてシオンがおいでって手招きするから、もうわたしの就寝時間。
いっそこのレジャーシートに転がっても良いと思うんだ。身体が痛そうだけど、あの恥ずかしさに比べたらなんのそのだよ。
「なんならレジャーシートに寝られると思うんだけど」
「…………」
今、目を伏せて聞かなかった事にしたよ、この人。そして、あっと言う間に捕まったわたしは、絶対抱き枕かぬいぐるみの代わりだ、これ……と思いながらおやすみ三秒なのでした。




