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31 森への珍道中

「お、おはよう」


「おはよう」


 目覚めると肩越しに振り返るように見上げて朝の挨拶をする。そうするとシオンは寝起きには眩い微笑みで朝からわたしにダメージを与えつつゆっくりと離してくれるんだけど、今日は何故か逆に腕にギュッと力がこもった。


「あの、シオン?」


「ん?」


「起きたよ?」


「ああ、おはよう」


 珍しく寝ぼけていたのかな?ようやく腕から解放されると、空気を吸い込んで背伸びしてみる。

 ウィルを見るとまだ寝ているから今の見張りは……シオン。あれ?やっぱり二人で交代は大変そうだからわたしも見張りをしよう。


「シオン、やっぱりわたしも見張りするよ?」


 見張りとして役に立つかどうかは置いておいても、魔物が近くにきたらファイヤーボール連発とかウインドカッター三昧くらい出来ると思う。


「レインは俺が寝ていたら動けない」


「でも」


「ご飯を用意してくれているから大丈夫」


 それより見張りをするとしても夜はずっと抱えているつもりなんだ……寝てないからその辺転がらないと思うんだけど、わたしぬいぐるみとか抱き枕とかの代わりになってない?

 それにウィルとシオンが交代で見張りをしているのに冒険者のパーティーだったとしたら、わたしだけずっと寝ているのはちょっと違う気がする。そのかわりがアイテムボックスから出すだけの簡単なご飯の用意なんかで良いって言うから、やっぱり申し訳ない。もちろん魔導コンロを使って料理もするけど、やっぱりわたしだけ楽をしている気がする。

 しかもウィルもシオンも木にもたれ掛かって寝て身体は大丈夫なのかな?わたしはシオンの膝の……って重くないの?!重さで痺れるし、それこそ疲れるよね?!


「その、抱えて寝たら重いし、疲れるよね?」


「レインは軽いし大丈夫、……逆にもっと食べた方が良いと思う、けど」


 わたしを見てそう言うとふいっと視線を反らす。ああ、それって残念なほぼペタンコの話ですかね?でもウィルなら兎も角、きっとシオンはそんな事言わない。それにあの綺麗な顔で言われたらそれこそダメージ半端ない。


「そろそろご飯出すからウィル起こしてくれる?」


 昔、お花見で使った厚手の大判レジャーシートを広げる。表はシンプルなストライプで裏がアルミの防水仕様、二メートル四方だから三人でご飯を食べるには広いくらい。今日は一つ敷けば足りるけど花見用だったからこれがもう一つアイテムボックスに収納されている。……この世界でこれを二つも何に使うんだろう。

 テントでも入っていれば良かったんだけど、残念ながらテントを張るキャンプはしたことがない。コテージにお泊まりとか、キャンピングカーにお邪魔したりとか、バーベキューと観光のプチ旅行的なそれくらい。

 サンドイッチとインスタントのコーンスープを並べているとウィルがシートの上に移動して来た。


「美味そう!」


 たまごサンドとカツサンド、それに小さめサラダと朝から微妙な唐揚げを出したのは多分サンドイッチだけだとウィルが足りないから。お湯を注ぐだけのインスタントスープだけど二人はあんまり気にしてなさそう。

 紅茶は出掛ける前にティーポットにお湯を入れてそのままアイテムボックスに入れてある。


「「「いただきます!」」」


「しっかし外でこれだけ食えるのは贅沢だよな~、これ旨いっ!」


「普通移動中は保存の効く携帯食だからな」


「お昼はね、おにぎりだよ~」


 保存の効く携帯食ってあの固いパンとか干し肉だよね……それは遠慮したい。二人の話じゃアイテムボックスの中も普通は時間が経過するからわたしみたいに沢山ご飯を入れておいても劣化して腐っちゃったりするらしい。劣化防止の——時間停止ではないから少しずつ時間は進む——マジックバッグとかもあるらしいけど凄く高いんだって。わたしはエレオノーラ様に感謝しなくっちゃ。


「そういや、レインの両親って何してんだ?」


「二人共もう亡くなってる。母はわたしが五歳の時に、父は二年前」


 珍しくウィルが真剣な顔して聞くから普通に答えてしまったけど、こっちの話じゃない。これ駄目とかエレオノーラ様は何も言ってなかったよね?


「その、悪ぃこと聞いたな」


「ん?別に大丈夫だよ」


 父が亡くなったのはわたしが二十七歳の時で疎遠では無いけど距離があったし、母が亡くなったのはもう四半世紀くらい前の話だ。あ、今は十五歳だから重みがまったく違う話になるのか……


『レイン~、僕にもハチミツ~』


 その辺をふよふよしていたエルがお気に入りの蜂蜜を貰いにきた。紅茶に入れて飲もうと思って買ってあった蜂蜜の中から今日は蜜柑の蜂蜜。妖精だから食べなくても良いらしいけど、どうやらエルは蜂蜜が好きみたい。


「はい、エルの分」


『薔薇のハチミツも美味しかったけど、この蜜柑のハチミツも美味しいの~』


 ……この世界にも蜂蜜ってあるのかな?


「エルばっかりズルイって!」


『これは渡さないの~』


「ウィル、クッキーならあるけど」


「マジでっ?!」


「うん、紅茶もいる?」


「俺にもハチミツっ!」


 なんだろう……ウィルも育ちは良さそうなのに、この残念なカンジは。実は甘いも凄くの好きなんだよね。それはちょっと可愛い。


『ズルイの~、ウィルには勿体ないの~』


「エルお前は本当は食わなくても良いはずだろっ!」


 ウィルとエルの蜂蜜戦争が勃発する中優雅に紅茶を嗜んでいたシオンは、二人が争ってる間に二杯目の紅茶に蜂蜜を入れていた。シオンは甘過ぎなければ良いみたいで、クッキーにアイシングしものに顔を綻ばせていたから、多分可愛いものが好き。


「二人ともっ、喧嘩するなら蜂蜜ナシなんだからっ!」


「それに、そろそろ出発の時間」


 カップにクリーンをかけたシオンが朝食の終わりと出発の時間を蜂蜜で争っている二人に告げる。


「そうだよ、わたし歩くの遅いんだからお昼まで出来るだけ進まなきゃ」


『続きのハチミツはお昼にするの~』


「お前はいらないだろっ!」


 エルとウィルはなんとなく甘味を巡ってなのか険悪な雰囲気だし、シオンもそれを止めようとしないし、わたしが寝てる間にお菓子の事とかで喧嘩でもしたのかな?

 そんな賑やかな道中が続き、歩いて三日目にようやくエレノワールの森に到着した。


 ちなみにこの道中、ウィルが不自然に優しくて、何故かシオンの過保護っぷりが加速し、しかも甘い言葉を連発するからわたしへのダメージは半端なくて、口から砂を吐きそうになったのは今更すぎて言うまでもない。






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