03 女神エレオノーラ
「それじゃあ、そのガイアに行くのに同意すれば起きてここから出られるのね?」
「はい、まず地球の神より、環境の違う地球で住みやすい能力など最適に計らうよう幾重にもお願いされております。あと、あんな風に簡単に死なれては困りますし屈強な身体にしなければ」
その言葉に何故かボディービルダーが思い浮かんだ零は咄嗟に口を挟む。
「えっ、普通で良いよ」
「それは困ります」
「じゃ、任せるから……」
目の前の女性は女神エレオノーラと名乗った……発表する為に治験データを理論と突き合わせて、矛盾が一辺もないよう必死にそれこそ漸く論文を完成させたのだから、今になってその疲れが出て脳が情報処理しきれずこんな変な夢を見せているのだろう。
「何か欲しいものはありますか?」
「別に衣食住と今の仕事を普通にできれば特別欲しいものは無いですけど」
「つまり地球になくて地球にある物を使えるように……」
「それに最適も何も勿体ないから、色々そのまま使えれば良いんじゃ……あ、積んでる本を読みたい」
さっさと話を進めて目覚めてしまいたいのに、微妙に口を挟んだのは不意にここ二年で積読という棚の肥やしになっている本たちが頭を過ったから。
零の部屋の本棚には高い医学書の横にミスマッチな料理や手芸の……ストレス発散に衝動買いしてまだ読んでいない本がたくさんある。
手の込んだ料理を作ったり、可愛い小物を作ったり、ここ二年それこそ何も出来ていない。
「普通と言う割には難しい事ばかり言いますね……」
「あ、さっき買った卵とケーキは無事かな?」
あれが夢を見る前なのか後なのかさっぱり分からないけど、卵とケーキがぐちゃぐちゃなのは現実だろうが、それこそ夢だろうが全力で避けたい。
「……分かりました善処しますので、こちらで前例から調整します」
そう言うと自称女神のエレオノーラは独り言をぶつぶつと呟く。
「……乱発防止にレベルに比例させて、時空停止で収納してしまえば、情勢的に加護もあった方が……前例ではお風呂とやらに拘る者も」
なんか思ったよりスケールが大きい夢なのは、きっと疲労困憊していたからだろう。
考えなしにケーキを十個も買ってしまったのもその所為に違いないと責任を転嫁する。
「大盤振る舞いして全て決まりましたのでその確認と、悪目立ちしないように名前を地球風にアレンジして終了です」
「普通に雨宮零じゃダメなんですか?」
この夢の世界は洋風なのかエレオノーラは女神だけあって人気の名前で、その派生はエレナ、エレン、エレイン、ヘレン、ヘレーナなどらしい。
「零ですから、レイナやレインあたりでしょうか?」
「……雨宮だからレインで」
「不服そうですね」
急にファンタジーな名前に改名しろと言われてご機嫌なのは、やはり中二病のお子様だけだろう。
まともな大人なら誰だって渋る。
だって見た目はそのまま日本人で洋風の名前なんだから違和感がハンパない。
「この見た目で洋風の名前の方が絶対悪目立ちするから……」
「既に地球基準になっていますので大丈夫です。瞳の色は黒はあまり無いので近い色、髪は黒でも構いませんが変更しますか?」
一瞬どうせ夢なのだからと奇抜な色を想像したものの、否定するかの様にぶんぶんと、それこそ取れそうなくらい頭を振る。
「く、黒で」
「それと地球の情報では補足としてやや方向音痴、年齢=恋人いない歴、仕事に打ち込む時以外は鈍臭い、で合ってますか?」
「…………」
自分の夢にどんだけディスられているのだろうか?確かに、確かに正しいが、何一つ間違っていないけど、夢の中でくらい取り繕ってくれても良いと思う。
「……合ってるようですので、オートマティスムと身体は地球の成人年齢にしておきますね」