28 裏話 ギルド受付嬢アイラside③
その日も私は受付嬢として朝から受付でギルドへ訪れる人の相手をしていた。
「ギルドマスターに会いたい」
お昼頃に慌てた感じで駆け込んで来たのは沈着冷静って言葉がぴったりでほぼ顔色を変えないレインちゃんの兄その一。どうも緊急の用件が何か気になった私は——並んでいた冒険者の皆さんは快く待ってくれると言ったので——業務を一時中断し兄その一をマスターの部屋に案内した。
「ギルドの馬を貸して欲しい」
話を聞くと約束の時間に帰って来なかったレインちゃんにつけている位置が感知出来る魔道具の反応が城壁の外にあるらしく、兄その二は騎士の詰め所に報告をしに行って、兄その一は馬を借りに来たらしい。
位置が感知できる魔道具とかものすごく高いだろうけど、しれっと金貨を出すあたり良いとこのボンボンだろうからこの際無視だ。
「ゆ、誘拐ですか?」
「ああ、多分」
「やっぱり……レインちゃん可愛いから」
「レインはすごく可愛い」
その時初めて私にその微笑みを向けたのだから、兄その一は確実に私の同志だった。ああ、この緊急時じゃなければ心の友になれるかもしれない。
「流石にEランクのヤツに任せられる案件じゃない」
「……こっちなら問題ないか?」
そう言うと、兄その一は渋い顔をしたギルマスにアイテムボックスから取り出したもう一つのギルドカードを見せる。
特にギルドカードに作成枚数の制限は無いがそうそう何枚も作る者はいない。貴族がお忍び用で二枚持つくらいで、確かアルケミニア王国現国王は王太子だった頃に弟を連れまわして庶民に紛れて冒険者をしていたとか……。紛失すれば罰金があるし再発行にお金がかかる。税金だって払わなくてはいけないから庶民はそう何枚もいらない物なのだ。
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アレクシオン・C・フォン・シルフォード 18歳
Lv:25
冒険者:A
職 人:F
商 人:A
長剣
精霊魔法
攻撃魔法(風・水) 回復魔法
シルフォード帝国:S
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「俺のでダメならウィルのを預かっている」
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ヴィルヘルム・F・フォン・ルミナス 18歳
Lv:28
冒険者:A
職 人:F
商 人:A
長剣
攻撃魔法(火・土)
アルケミニア王国:S
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「おい、おい、なんかの冗談か?ってどっちも本物じゃねぇか!」
「ギルドマスター?」
「アイラ、お前ちょっと部屋出とけ」
「は、はい」
頭を抱えるギルマスに私は席を外すように言われる。
レインちゃんの一大事なのに私だけ除け者とか……秘技聞き耳。扉が厚いのかなんかあんまり聞こえないわね。
「俺たち二人で追える」
(Aランク冒険者なんてこの街には数える程しかいないし、確か去年こいつら合同で水龍討伐してるんじゃなかったか?)
「……馬は二頭で良いですか?」
「すまない。それと出来ればこれは内緒にして欲しい」
(シルフォード帝国第二皇子とルミナス公爵家嫡男のお忍びとか勘弁してくれ……こいつらが妹として世話してる女の子ってのは一体何者なんだ?!)
「俺は何も知らねぇ、これで良いのか?」
「ありがとう」
所々聞こえなかったけどやっぱり良いとこのボンボンで、予想するに可愛いレインちゃんのギルド登録に併せて一緒にギルドカードを作ったから以前のカードを見せた。ギルマスの対応からして兄たちはBランク以上の冒険者、で合っていると思う。
ギルマスの部屋から出た兄その一は兄その二と合流してレインちゃんの反応があるらしい場所へ馬を走らせて行った。
***
「レインちゃん無事かしら……」
「詰め所の騎士があいつらの家に身代金要求する手紙を持ってきた男を捕まえたって情報だ……つーか、マジで無事じゃねぇと困る」
「そうですよね、高性能ポーションも作れる美少女ですから」
「まさか……あの赤いポーション」
「そう、レインちゃんのポーションすごいんですよ」
どうやらギルマスもレインちゃんの素晴らしさにようやく気がついたようだ。あの美味しい効果の高性能ポーションを作れる美少女なんてそうそういない。
しかも増血効果のあるポーションは新発見の新登録だったらしく、現状ヒールやポーションで回復できない場合もある冒険者にとって死を回避する材料と成りうる。レインちゃんにギルドから特許料が入る事になるけど……ただ材料が魔力と相性が悪く、高い魔力と技術か祝福がある人しか作れないポーションなんだとか。特許料が入る回数よりもレインちゃんが作って納品する事が多くなりそうな気もする。
私はレインちゃんの心配をしながらその無事を祈り、渋々受付業務に戻った。
***
夕暮れまであと少しという所で兄その二がギルドに馬を返しに来た。そういえばレインちゃんの兄その二の赤い瞳は印象的で、どこかで見たような……でも知り合いに赤銅色の髪の人はいないし、どこでみたんだっけ?うーん、思い出せない。
とりあえず思い切って声を掛けた。
「あの、レインちゃんは無事ですか?!」
「あー、アイラさんだっけ?レインなら無事だ、シオンが抱えて家に帰った」
「良かった」
本当に良かった。身代金目的の誘拐だって戻らない命も珍しくはない。可愛いから別の事だって心配になる。
「まったく、犯人の護送と詰め所への報告、ギルドに馬の返却まで全部俺に丸投げしてよ。俺だってレインと屋台回ったりしたいのに……明日には元気になるかなレイン」
「わ、私もレインちゃんにお洋服選んだり一緒にお茶したりしたいです」
なんとなく兄その二なら溺愛具合がぬるま湯なので割り込めそうな気がする。兄その一は私と同類……美少女を愛でるか妹を愛でるか些細な違いはあれど、ガチだ。
「おう、今度レインに言っとくわ」
そう言って帰って行く。何これ、兄その二って凄く良い人じゃない?私じゃなきゃ惚れるかもしれない。私としては美少女を愛でる一択なんだけどね。
それにしてもレインちゃんとお洋服選んだりお茶が出来るなら受付業務も頑張れるし楽しみ過ぎて涎がじゅるり、あら、いけない、いけない。
「アイラさん、依頼の達成報告お願いします」
「は~い」
「あれ、なんか良い事でもあったの?」
「今度すごく可愛い女の子とお洋服を選びに行く約束で、ほんと楽しみで!」
ああ、明るい色も似合うけど、シックなのも捨てがたいし、シンプルなのもそれこそフリルだって……お、お揃いってのも、はぁはぁ。
「そうなんだ(アイラさんと可愛い女の子……なんだその美味しい組み合わせはっ!)」
「報酬の小金貨二枚になりま~す」
レインちゃん誘拐されて怖かっただろうし、過保護な兄その一が外に出しそうに無いし、今度はいつギルドに来てくれるかしら?
私はアイラ。美少女をこよなく愛する普通のギルド受付嬢だ。




