25 買い物デートではない
まずは、ギルドへ直行すると装備品を販売しているカウンターへ。回復品のカウンターにはわたしの作ったポーションも置かれているからちょっぴり恥ずかしい。
「ローブかな、それとも皮の胸当て……」
「こちらの女性用ローブは物理攻撃耐性+100魔法攻撃耐性+200、魔術師に向いた魔力回復量+微がついて小金貨十枚です。黒地に金糸で刺繍がされていて可愛らしいですよ」
つまり物理攻撃105のダメージを受けてもわたしのHPは5しか減らない。体力50とか紙みたいに薄っぺらだから防具はちゃんとしておかないと冒険者にはなれない。自分で材料を集めたりもするだろうし、ムキムキまではいかなくてもそこそこ筋力をつけたい。
「もう少し物理攻撃耐性あるものの方が良いかな……」
エルが言うにはわたしはレベルが上がりにくいらしい。だけど、魔物を倒してもポーション作っても経験値が貯まるらしいので、ポーションをたくさん作れば良い。その為にも材料たくさん集めなくちゃ。
「俺が護るからエレノワールの森ならこれ以上の装備はいらない」
その微笑みの方が攻撃力ハンパないんですけど。わたしのHPは既に半分の気分だよ。
「とりあえずローブはこれで良い、靴は?」
「こちらの編み上げブーツは森でも動きやすいですよ」
「…………」
「こちらのブローチや髪飾りもオススメです」
オカシイ。なんか可愛いのばっかり勧められてる。
「…………」
「レインはこれが似合うと思う」
ぐはっ、ダメージがダメージがぁ!直視出来ない。これ以上HPを削られる前に買ってしまおう。とりあえずエレノワールの森はなんとかなりそうだし。
「ローブとブーツ下さい」
「はい、小金貨十二枚と銀貨八枚になります」
結構高い……まぁ防具ってそんなものなのかも。初心者っぽい冒険者の人は革の胸当てみたいなのに剣って人も多い。高いものは一旦シオンに払って貰って清算はお家に帰ってから、商人のランクも上げたいし一応ギルドカードを預けておく。
アイラさんの方を見たら手を振ってくれたので、支払いをして貰ってる間に挨拶に行こうとカウンターから離れた。わたしがアイラさんの方へ向かうと店員さんと何か話していたシオンが何か買ったようだ。
……でも買うものなんてなさそうなのに。ウィルとシオンの剣ってすごく高そうなんだよね。今はつけてないけど革鎧だって立派。でも革鎧よりピカピカの騎士がつけている鎧とか似合いそう。
「次、行こうか」
シオンから手渡されたギルドカードを見ると商人のランクが上がっていた。
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レイン 15歳
Lv:1
冒険者:E
職 人:E
商 人:E
攻撃魔法(火・風) 回復魔法ヒール
アルケミニア王国:コバルト
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「レインちゃんまたね」
「アイラさんさようなら~」
支払いが終わったのかやってきたシオンにギルドカードを渡されてそれをしまうと、自然に手を引かれてギルドを後にする。兄妹のロールプレイにしては過保護じゃないかなと思いつつ、振り返りながらアイラさんにお別れの挨拶をした。
「ね、シオン。あの……手」
「ああ、迷子にならないように」
三日前に道を分かっている風に進んで迷ったからって、正確にはシオンが帰り道を分かっていて帰りついたんだから迷子ではないと思う。これじゃデートみたいで落ち着かないけど、兄妹だから大丈夫。きっと過保護なお兄ちゃんなんだ、それかイケメンの通常仕様。
これ、わたしじゃなきゃ勘違いすると思うんだけど……
「レインの服も買おうか」
「今持ってるので十分間に合うよ」
クローゼットに入っていたこっちでも着られそうなワンピースが何着かある。
「今あるのは仕立てが良いからエレノワールの森に採取に行くのは不向きだと思う」
手を引かれたままのわたしはそのまま仕立て屋さんと併設したような洋服屋さんに。
シオンが選んだのは紺色に白いワンポイント、白地に青いラインのシンプルなワンピース、少しお直ししてもらって店員さんおまかせで一緒にドロワーズ二枚も包んでもらう。この世界に地球のような下着は無いみたい。ほぼペタンコに見えたって今もBくらいはあるからブラジャーが欲しい。でもそこそこ大きいのが唯一の取り柄だったというか、もう少しすればきっと雨宮零くらいの大きさに育つはず。
「レイン行こうか」
お会計を終えたシオンが自然に手を差し出すからつい繋いでしまった。意識しないようにすると、手が大きいなとか、剣を持つからなのか少し固い手だなとか、この辺は剣を握るからもっと固いなとか、なんかひんやりしてるなとか、逆に繋いでいる手をもぞもぞさせて意識してしまう。
「レイン、その、」
「どうしたの?」
「何でもない……」
何か言おうとしたのにわたしの顔見てやめちゃった。変なシオン。なんでかひんやりした手が心地良くて、わたしまだ子供体温なのかも。
「あっ、パン買わなきゃ」
「後はモウモウのバターと小麦粉を買うと言っていた」
「そう、お菓子焼きたくて」
少し高いけどモウモウのバターは絶対欲しい。
お店に入ると繋いだ手は離すけど、なんかこの繋いだ手を離したくなくなっちゃうなんて変だなわたし。
焼きたてパンを持ってきた六つの籠に分けて入れて貰って、アイテムボックスにしまう。これで三日分くらい、お会計はシオン。パン屋のお姉さんがシオンに見とれている。でも黒い髪のシオンよりキラキラの金髪のシオンの方がカッコイイと思うんだよね。
お店を回って、オークのベーコンとハム、見たことないけどレッドバードのモモ肉とムネ肉、海老っぽいのとイカっぽいの、小麦粉、バター、モウモウのミルク、コケコの卵、トマトっぽいのとナスっぽいの、かぼちゃっぽいのと玉葱っぽいの、人参っぽいのとジャガイモっぽいのと買い物を続ける。……この世界での食品の正式名称がわからない。だってモウモウのミルクとかコケコの卵とか微妙に違うから。
でも砂糖は砂糖だし、小麦粉は小麦粉だ。卵もミルクも変わらないから、今度から"っぽいの"はいらない事にしよう。
「サラダ用の野菜はまだある?」
「うん、クリーンかけて千切って皿に盛ってある」
多分、シオンはサラダというかドレッシングが好き。今あるのはうちの冷蔵庫にあったクリーミーな胡麻のドレッシングと醤油系の香味野菜が入ったドレッシング。違うドレッシング用意してあげようかな。クルトンとシーザーサラダ用のドレッシングあたりとか、中華ドレッシングとか色々。
「今日はお昼うどん食べるけど、ウィルとシオンも食べるかな?夜は唐揚げにするか、パスタにするか、ピザも捨てがたいから何を作るか迷い中」
お昼は各自で自由って事になってるけど、わたしの作る二人にとっては珍しいご飯に興味深々。毎日一緒にご飯を食べているとなんか家族みたいだよね、うん。
「食べる。ウィルは二人分食べると思う」
「うん、分かった」
「レインの作るご飯はどれも美味しいから好き」
ちょっ、好きとかイケメン微笑みでNGワードですからっ!シオンはわたしが作るご飯が好きなの、うん。しかし理解していても破壊力ハンパないわ。
こうして約二時間の買い物デート……違うって。買い出しは終わり。
それからウィルとシオンが頑張って捏ねたうどんを寝かせてから切って茹でると、さくさくの天ぷらがのったうどんを三人で食べる。天ぷらは二人が白い物体と闘っている間に揚げた。文化なのか麺をすするってしないというかやっぱり出来ないのかな?
もちろんわたしは箸だけど、二人はフォークでうどん、なんか平和だ。




