24 休息
一週間もすると、この生活にも慣れてきた。
ウィルとシオンの安静期間はあと三日。七日熱対策に十日間はゆっくり過ごす約束だ。……ウィルはじっとしていられなくて素振りみたいなのを朝起きて朝食までの約束でしている。
"ちょっと出掛けてくるの~"と言ったエルはこの一週間帰って来ていない。
家を借りて大掃除をしてウィルがお外に引きずられていった後、ギルドで換金した魔物を討伐したお金は話し合った結果パーティー費とする事になった。
ポーション代の小金貨十一枚と銀貨五枚、小銀貨六枚はパーティー費とは別だとシオンから渡された。なので約十一万円の収入があるけど、一人暮らしするのはどのくらいお金がかかるのか分からないから、二人が一緒にいてくれている間にお金を貯めたり生活の基盤を整えなくちゃいけない。
お家の代金はパーティー費から出す話になったので、近々エレノワールの森に採取と魔物の討伐をしに行く。今シオンが立て替えてる状態だもんね。
ちなみにご飯はわたしが作る事になった。何故かって二人とも料理は出来なかったから。
最初一応当番制にする話も出たけど二人とも料理が出来ないから屋台とかお店で買ってくる、なんて事になりそうだし、食費もパーティー費からだすなら作った方が安くて断然美味しい。
スライムの名前は紫でゆーちゃん。名前はわたしが決めて良いって言われたので、綺麗な紫だったから紫と書いてゆかりだ。
***
「パンだから、卵はチーズ入れたオムレツにして、ハム焼いてサラダにスープ、食後は紅茶で決まりかな」
パンはパン屋さんで焼きたてを買ってわたしのアイテムボックスに入れてあるから焼きたて。正確には三日前の焼きたてだけど、時間が進まないから今も焼きたて。
「手伝う」
「じゃ、サラダとスープ並べてフォークとか用意して」
アイテムボックスから三つ取り出すとシオンにサラダとスープを渡す。手抜きじゃなくてまとめて作って入れておいたの。
コケコの卵を割ると殻をゆーちゃんにあげる。現在ゆーちゃんはわたしの近くで待機中だ。モウモウのミルクを少し卵に入れて塩胡椒をほんの少し。生クリームはあるのかまだ分からない。白身をメレンゲにしても良いけど今日はこっちで。
「他には?」
「じゃ、ハム焼けたらひっくり返して」
もう片方の魔導コンロでハムを焼いているからそっちを任せた。シオンは自分でも出来るようになりたいとお手伝いをしてくれるようになった。
ウィルは庭で素振りみたいなのをしている。
バターを回したフライパンに溶き卵を入れ空気を入れるように菜箸で少しかき混ぜる。真ん中になるようにチーズを入れてくるりと、一つ、二つ、三つ、おまけに全部で四つのオムレツを焼いて皿に盛り付ける。二個のっている皿はウィルの分。
ちょうどお湯も沸いているから紅茶を入れて、アイテムボックスに入れておく。
「ウィル~、ご飯だよ!」
クリーンをかけたウィルが入ってきたらわたしはパンをアイテムボックスから出す。
「「「いただきます」」」
二人までわたしが言うのを真似するようになった。
「なぁあれ出してくれよ」
「もう、仕方ないな」
アイテムボックスからだしたのはトマトケチャップ、それにドレッシングとマヨネーズ。うちの冷蔵庫に入ってた食品までエレオノーラ様によってアイテムボックスに収納されていた……ちなみに冷蔵庫は無い。多分、電化製品だから。
ウィルのお気に入りはオムレツにトマトケチャップ、サラダにマヨネーズ。シオンはオムレツを半分食べたあと残り半分にだけトマトケチャップを付けて、サラダにはドレッシングだ。この世界、サラダには塩らしい。……塩だけって味気なくないのかな?
確かドレッシングは手作り出来るから今度作ってみよう。調味料の本衝動買いしたのがあったはずだもんね、確か。
この一週間、毎日一個づつ地球のものを創造している。レベル1だと一日一個だから今日は何を創造しておこう。
「レイン、ケチャップなくなりそうだ」
「うん、分かった」
ウィルが使いすぎるからだと思うんだけど、今日はケチャップにしておこう。地球と変わらない食生活をおくれるのもエレオノーラ様のお陰なので本当に感謝しなくてはいけない。
「紅茶飲む?」
アイテムボックスから紅茶とカップを出しながら、ウィルとシオンに聞く。二人とも飲むって言うから注いでカップを渡した。
「レインって便利だよな~、俺んち妹二人いるし一人増えても……あ、なんなら嫁にくるか?」
その瞬間ウィルのカップの中身が傾いたまま凍った。こういう系の冗談が通じない人が隣にいるのに、親友の癖に迂闊なウィル……ただ、ワザとやってる節があるのが謎。こればっかりは永遠の謎だと思う。
「な、なんか苦労しそうだからやめとく」
「って、冗談だろ、冗談っ!」
ウィルの紅茶を凍らせたシオンは我関せずでお茶を優雅に飲んでいる。
「あっ、でも五年後くらいに相手がいなかったら流石に行き遅れになるみたいだし、ウィルってなんか結婚出来ていなさそうだからお願いしとこうかな」
ウィルだって黙っていたらイケメンなんだから、もしかするともしかするけど。なんとなく五年後もバカやってそうだもん。ちょっと脳筋なりかけだよね、絶対。
……あれ?この部屋って冷房かけてたっけ?
「レイン、買い物は行かなくて良いのか?」
「そうだ、装備品を買いに行きたいし、食材も欲しいんだよね~。特にモウモウのバター」
久し振りにお菓子も焼きたい。モウモウのバターは無塩バターだからお菓子にピッタリ。どうやらこの世界は砂糖が高いみたいで甘いものがあんまり無い。砂糖は上白糖と三温糖がアイテムボックスに入っていた分で足りるから、足りなきゃ創造すれば一キロの平たい板状にされた砂糖が手に入る。小麦粉とか買い足して……わたしの頭はすぐ買いたい物でいっぱいになる。
「ちょっ、俺も行くって!つーか、紅茶溶かさないと解けねぇし!」
火魔法だけは得意なウィルがお水を張ったたらいに小さなファイヤーボールを沈めて熱湯を作り、カップをつけて紅茶を溶かそうとしている。あれは、自然に解けるの待つしかないと思うよ。
こんな毎日を楽しく元気に過ごしている。
休息はあと三日……




