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21 お家を借りよう

「ではこちらの袋が小金貨五十枚となります。あと小金貨十一枚と小銀貨六枚、ご確認下さい」


 シオンがこっちを見たのでオッケーってアイコンタクトしておいた。お金はお兄ちゃんに管理して貰ってて、わたしはお金持ってなさそうにしとく。お金を持っているとそれ目当ての人攫いとかもあるらしいし、なんたって誘拐は怖い。


 だって、小金貨六十一枚に小銀貨六枚だよっ!

 お家を借りるのにいくらかかるのか分からないけど、ウィルもシオンも——死にかけてたからよく分からないけど——レベル的には強そうだし、なんとかなりそうな気がした。しばらく身を隠すって言っていたから、その間にこっちでの生活の仕方をバッチリ教えてもらおう。


「次にスライムですが、ご兄妹でのご使用でよろしかったですか?」


「はいっ!」


 ん?勢い良く元気に返事をしてしまったけど、そもそも兄妹じゃないし、ゴミを食べてくれるならみんなで使うけど、勝手に返事しちゃって良かったのかな。シオンが小金貨五枚を支払ってくれる。


「ではこちらに髪の毛1本づつと、ご兄妹どなたか一人の血を一滴お願いします」


 この場合、最終的にわたしのスライムだからわたしの血か……魔法陣の上に置かれた水晶みたいなものと横に用意された小瓶、アイラさんが怪しげな魔女みたいだ。

 ウィルもシオンも髪の毛一本づつ置く。わたしも髪の毛と泣く泣く針を刺して血を一滴たらした。そこに小瓶の中身をかけると、魔法陣が光り出す。もちろん指はすぐにヒールした。


「うわ~、可愛い」


 紫色した小さめスライムが出来上がっていた。あの石と小瓶の中身っていったい何なんだろう……。


「……珍しいですね」


「?」


 アイラさんが言うには普通スライムは水色とか青で、稀に黄色とか赤が出来るらしい。紫色なんて初めて見たって言うし、もしかして紫色なんて変色したのはウィルとシオンに使った髪色戻しの所為とか?

 スライムの大きさは三十センチから五十センチくらいが多くてわたしが望むサイズに育つらしい。ちゃんと育つと大きくなったり小さくなったりある程度調整出来るみたいだけど。


「次にギルドでお貸し出来る家ですが、まずこちらの資料を見て何軒かに絞っていただけたらご案内します。条件があれば仰って下さい」


「最低、三部屋とポーションなどを作れる作業部屋で四部屋、あと生活するのに困らない設備があれば良い」


「お風呂欲しいけど……なければなんとかする」


「希望は特にねぇな」


「そうすると今紹介できる家はあまりありませんね……二、三軒ってところでしょうか」


 そんな注文で出てきた一軒目は貴族の別荘でお値段然り、貴族が住んでいるあたりの物件なので即却下。

 二軒目はご両親が亡くなって一人娘が嫁いでしまった為空いている一階がお店仕様の物件。ただ部屋は三部屋しかないけど一階で作業は出来る。もちろんお風呂は無い。

 三軒目は商人のお家で庭付き。一階はリビングダイニングキッチンがあり、なんとお風呂付き。ただお値段はこちらも高い。


「とりあえず二軒目と三軒目を見て決めたら良いんじゃねぇの?」


 ウィルの一声で二軒目と三軒目を見てみる事になった。



***



「ではギルドにて契約となりますがよろしかったですか?」


 結局一部屋の内装が微妙だったけど三軒目に決まった。

 あの奇抜な部屋の内装かえたら借り手がつきそうな気がするけど、お値段なんと一ヶ月小金貨五十枚。つまり五十万円、結構高い。

 シオンはしれっと金貨十枚で"とりあえず二ヶ月"とか言って契約したよ。サラサラっとサインをして……契約書にはやっぱり血を一滴たらすのも顔色一つ変えないけど、こっそりヒールしたら目を細めながら頭を撫でられた。兄妹のロールプレイがとっても自然だ。


 鍵を渡されお家に行って入るとまず窓を開ける。


「クリーン」


きれいになれー!(クリーン)


 ギルドが管理しているからそこそこ綺麗なんだけど、どうせ住むなら大掃除の開始だ。


「ベッドはあるけどシーツとかは買いに行かなきゃいけねぇな」


「この部屋と隣の部屋は繋がってる?」


 二階には広めの三部屋で一階に使用人さん用なのかベッドとクローゼットのみの部屋が二つ。

 今更気づいたけど、主寝室からその隣の部屋はうち扉で繋がっているみたいで何気に部屋割り難しい。もう一つの部屋はちょっと遠慮したい内装だったし。


「うーん」


「シオンはその主寝室で、レインは鏡台とかあるからその隣で、俺はこの自己主張の激しい部屋で」


「ウィル良いの?」


「結構こういう奇抜なの嫌いじゃないぜ、それより内扉で繋がってるからイヤだとかあれば先に言えよ。そん時はこっちの部屋内装かえたら良いし、まぁ鍵さえ閉めておけば良いけどな」


「なんとなくその心配は一番なさそうな気がする」


「……そ、そうか?(抱え込んで寝てる時点で心配なんですけど)」


 シオンといえばイケメン微笑み(スマイル)の威力ハンパないし、すごくモテそうだから選り取り見取りだろうし、わたしとは次元が違うと言うか。あれだ、芸能人みてる一般人みたいな。

 あと、紳士的だし、レディーファーストが染み付いているカンジで、寧ろ内扉全開でも問題なさそう。

 わたしが元彼氏いない歴二十九年の喪女じゃなくて肉食系だったら絶対シオンの方が危ないと思う。


「ほら、幼女趣味とか特殊せ痛っ!」


「ウィル、ちょっと外にでようか」


 ウィルの頭にぶつかったのは何故か氷の塊だった。そして黒い微笑みを湛えたシオンの周りの空気は冷たい。なんでか分かんないけど冷蔵庫開けた時みたいに涼しいからシオンがいればクーラーはいらないかも。

 確かにシオンは紳士だけど、違う方の紳士ではないと思う。それにもし万が一そうだとしても、わたしはこっちで十五歳で幼女じゃないから安心。


「冗談だろ~、ちょっとした冗談だって!」


「わたしお風呂の魔石に魔力充填してくるね」


「ちょっ、レイン助け」


 引きずられて行くウィルには申し訳ないけどわたしにはとても仲裁は出来なさそうだから大人しく怒られると良い。

 そうしてわたしは見なかった事にしてお風呂とキッチンに魔力を充填しに行くのだった。






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