19 金貨の価値
「もう腹いっぱいだ」
「あれだけ買い食いしたらお腹もいっぱいになる」
お腹をさするウィルに呆れ顔のシオン。だけどあんな風に屋台を回って買い食いしたりした事なかったからすごく新鮮だった。
「でもいろんな屋台があって楽しかったよ」
「そうか、なら良い」
「それ態度違いすぎだからっ!」
呆れ顔のシオンに楽しかったと伝えると目を細めて微笑む。ウィルは多分普段の行いが悪いんだとわたしは思う。
そんな話をしながらギルドのアイラお姉さんオススメの宿クレストに到着した。
「三人なんだが、一人部屋を三つ頼む」
「生憎本日は一人部屋が空いておりません。二人部屋を二つ、または三人部屋ならございますが如何しますか?」
シオンが一人部屋を三つお願いすると、どうやら空いてないらしい。
「兄妹なんだから三人部屋でも良いよ」
「レインも成人しているから、一応」
それ、野営の時に言ってくれたらあれ断る理由にできたのに……トホホ。
でも——最初に転がって頭を打ったのを除いて——三日間、寝るのに苦労は無かったから本当は感謝しないといけないのかもしれない。恥ずかしさを我慢すればシオンの懐は安心出来るというかとても快適でした。
コバルトの街にくるまでの間、冒険者のパーティーでもないレイン達が一緒にいるのはおかしいと思われるらしく——村から出てきた幼なじみでも良いと思ったんだけどウィルなら兎も角シオンは村出身とか絶対違う——兄妹という設定、ロールプレイをする事になっていた。
創造製の髪色戻し黒で、シオンの黄色味が強い金髪は黒に染まったけど、ウィルは燃えるような赤から茶色というか赤銅色になった。元の色がすごいのか黒にはならなかった。
「レインが良いなら良いんじゃねぇのか?」
二人部屋の料金は小金貨二枚。それが二部屋だと小金貨四枚になる。三人部屋なら小金貨三枚だからちょうど割り切れる。この三日間シオンに抱っこされて寝たのを思えば、三人部屋だってなんのその。ちなみ石ころで出来たこぶはヒールで治りました。
「なら三人部屋を頼む」
一人っ子だったのもあって憧れていた川の字で寝たら楽しそうとかレインは思う。それにまとめて払って貰った入場証とかこの宿のお金も払いたいし、何より何が何枚でどの硬化になるのかとかお金の価値を知りたい。ウィルが買ってくれた串焼きとか飲み物が小銀貨一枚だったのを考えると小銀貨は百円くらいと予想する。
ビジネスホテルだと安くて五千円くらい、少し高いホテルは一泊五万とかだったけど、宿もそんなに高いと泊まれないから小金貨は多分一万円くらい?
***
「そうだ、エルからレインにお金の使い方教えてくれって頼まれてたんだ」
『そうなの~(忘れているのかと思ったし)』
部屋にはいるとウィルがそんな事を言いだした。流石エル、すごく頼りになる。
「ということで、シオンよろしく」
教えてくれるのかと思ったらウィルはすべてシオンに投げた。ああ、ダメな次男に出来る長男ってロールプレイかもしれない。
「わたしここに来る前に一枚づつお金を貰ったんだけど、どれがいくらなのか分からないの」
アイテムボックスの中のコインを八枚だすと、ベッドにゴロゴロしていたウィルがこちらを覗き込んでちょっと驚いていた。
「レイン、実は金持ちだったんだな」
「そうなの?」
「……ああ、特にこれとこれは絶対に人に見せない方が良い」
シオンが言うにはそれは古代金貨と白金貨と言って、国家予算や大金持ちなどが使う金貨らしい。
(エレオノーラ様、いったい何を持たせてるんですかっ!!!)
「十枚で次の硬貨と同じ価値になる、両替はギルドで出来るが……この街で悪目立ちしたくないなら大金貨までだな」
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古代金貨 = 白金貨 十枚 = 1億円
白金貨 = 大金貨 十枚 = 1000万円
大金貨 = 金貨 十枚 = 100万円
金貨 = 小金貨 十枚 = 10万円
小金貨 = 銀貨 十枚 = 1万円
銀貨 = 小銀貨 十枚 = 1000円
小銀貨 = 銅貨 十枚 = 100円
銅貨 = 10円
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知っているお金で比較すると多分こんなカンジになる。
ついでに、下級ポーションは性能によって小銀貨五枚から銀貨一枚くらいで、珍しい赤色のポーションはウィルもシオンも見たことが無いらしく高く買い取って貰えそうじゃないかって。どうやら森で拾った材料でお金が稼げそう。
「そう言えば、森で倒したオークとゴブリンもギルドで引き取ってもらえるって知ってたか?まぁ、ゴブリンは討伐証明部位だけで良いんだけどスライム買ったら餌にしても良いしな」
「スライム、買う?」
「なんだレイン知らねぇの?」
「スライムはゴミを食べてくれる錬金生物だ。ギルドで小金貨五枚で作れるし、育て方によってはその辺の魔物より強くなる」
「作ったヤツが死んじまうと、溶けちまうから不思議なんだよな」
それって使い魔とか従魔とかって言うんじゃ……でもスライムはアイテムボックスのゴミを食べてくれるなら是非ともギルドで買いたい。
「あっ、入場証代とか宿代を払いたいんだけど」
「構わない」
「レイン、俺とシオンに回復魔法四回、オークとゴブリン十匹も倒してるし、あとポーションだろ。それに染め粉分だからまだ足りないんじゃねぇかな」
「でも……」
納得出来ないレインにシオンは小さくため息をついてアイテムボックスから巾着くらいの袋を三つ取り出した。
「遊学費用だ」
ずっしりとした巾着はいったいどれだけ入っているんだろう?正妻と側室がいて跡目争いがある家って事は大貴族なんだろうな、といくらわたしでも察する。
「でも、やっぱりちゃんとしたい」
お金の切れ目は縁の切れ目って言う。それは金銭によって成り立っていた関係はお金が無くなると消滅してしまうというなんとも怖い話。もちろんウィルとシオンがお金を持っていてもいなくてもこの世界で初めて出来た友達だから、そんなの関係ないけど。
「じゃ、借りる家の払いは三人で均等に割れば良いんじゃねーの?レインはポーションとか作って売ったりすれば良いし、俺とシオンは冒険者でもするか」
「それ、わたしも行きたいっ!」
この世界に来てぽつりと取り残されたというか置き去りにされた様な気分だったから、友達が出来て一人っきりじゃ無いんだって思うとなんか嬉しい。明日はお家を探すみたいだしお風呂に入って早く寝なくちゃ。




