17 はじめての街
「うわ~、すごい高い壁」
「コバルトは各国と国境が近い街なのもあるけど、メドウラノス山脈とエレノワールの森なんかが近いから魔物とかも多いしな」
「へぇ~」
ようやく見えたコバルトの街は高い壁に囲まれていた。
この世界の街はいわゆる城郭都市と言われる、街の周りを高い壁が取り囲んだものらしい。壁は魔物や外敵の侵入を防ぐ役割を持つ。もちろんそれは大きな街だけで、村とかだともっと簡易な柵とかレンガを積み上げたもの——イメージはブロック塀——になるらしい。
暫く進むと門に並ぶ人や馬車も見えた。
「入場証はあるかい?」
列に並んで順番になると門番のおじさんにそう聞かれた。
「三人とも入場証を作りたいんだが」
「ギルドカードがあればそれに入場証をつけられるが」
「ギルドカードは中で作る予定だ」
「馬車とか荷物がなければ一人銀貨三枚と小銀貨二枚だ、水晶に手をかざして」
とりあえずまとめてシオンが払ってくれたので、順に手をかざすと青く光る。
どうやら悪いことをして捕まった事がある人や入場証を無くした人は要注意って事で黄色く光るし、指名手配をされていると赤く光るらしい。
もちろん悪い人が入場証を無くしたとか言って入ろうとして触れたり、他人の入場証を使おうとしても誤魔化しはきかないんだとか。
一体どんなシステムなんだろう?
「お嬢ちゃん、無くすと再発行に銀貨六枚かかるし水晶が黄色く光るようになるから気をつけろよ。入場証があれば入る時にかかるのは小銀貨二枚だ、ギルドカードがあれば半額になる。どこか余所の街に引っ越す時は入場証を返せば銀貨一枚は返却されるからな、なんならギルドでまとめてもらいな」
「はい」
ギルドカードに入場証をつければ返却の必要が無く銀貨二枚でずっと使えるし割引があってお得らしい。
入場証を無くして届け出なかったりそれが悪質だと街に入れなくなると門番のおじさんが丁寧に教えてくれる。
馬車や荷馬車があると金額がまた違うみたいだけど、レインは高いのか安いのかいまいち分からない。
渡された手のひらサイズの小さな水晶にはこの街の名前が入っていた。
「レイン、それアイテムボックスにしまっとけよ」
「うん」
全ての人が大なり小なりのアイテムボックスという収納を持つから、入場証を無くす事や紛失して報告しないという事が悪質だととられる。街の治安とかにも関わるから当たり前なんだろうけどね。
あと、女子供を攫って変態や娼館に売る人攫いなんかもいるからくれぐれも気をつけるようにと門番のおじさんが一応女の子のわたしに念を押す。わたしは売れそうに無いから攫われなさそうだけど、まぁ気をつけよう。
「……確かにレインは可愛いし幼く見える。危ないから一人で出歩かない方が良い」
コバルトの街に入って少し歩くと神妙そうにシオンが言う。
「そういや成人してるのに幼女に見えるとか俺が知ってるのは絵姿のアレクシア様以来だな」
「……今も見た目はさほど変わらない」
「やっぱり気をつけた方が良いな、世の中変態多いし……」
いやいやいやいや、途中なんの話か分からないけど人生で一度もモテた事がないわたしが可愛いとか、シオンの視力は大丈夫か心配になってきた。あ、綺麗すぎる自分の顔に慣れてるから珍味的な?しかも変態が多い世界って、どうなんだろう。そんな事言ったらそのままでも綺麗だけど、どっちかって言うと女装したら絶世の美女というか美少女になりそうなシオンの方が危ないと思う。
「さて、まずギルドへ行くか。ギルドはここを真っ直ぐ行って噴水の左手前だ」
世の中変態が多いという爆弾発言を残して、ウィルが会話を切り上げた。
コバルトの街に入って暫く歩くと噴水が見えてくる。その左手前の大きな建物、あれがギルドらしい。
「ウィルは詳しいの?」
「俺は何度か来てるしな。中央の大きな噴水が待ち合わせによく使われてるぞ」
コバルトの街は円形で周りが堀というか湖の中の街みたくなっている。入場できるのはさっきの門だけで、夜は跳ね橋が上がって閉まるから門限までに入らないと野宿するハメになるらしい。あと二カ所に跳ね橋があり、そこは緊急の時と祭りの時しか開かない……祭りの時はどうやら跳ね橋が作動するかを兼ねてるんだって。
噴水を中心に丁字の大通りがありそこがメインストリートらしくお店が多いし人も多い。
「ギルドの周りには飯屋とか酒場、宿屋なんかが多いな。道を挟んで反対側は商店が並んでて、一本裏道に入ると職人の工房なんかがある。噴水の奥は民家が多くて、そのもっと奥には貴族なんかの屋敷があるが、まぁ関係ねぇか」
「お、覚えられない」
『レインは地図が苦手なの~』
エルといえばコバルトの街の手前からレインの外套の中に隠れている。
「二人はギルドカード持ってないの?」
「身を隠すのに手持ちのやつだと居場所がバレる危険があって使えねぇからな」
「そっか」
なんとなく一人気まずくなるレイン。二人は暗殺未遂事件の被害者だったりする。
「その串焼き五本くれ」
「小銀貨五枚だよ、毎度っ!」
「ほれレインとシオンの分な」
そんなしんみりしたレインの空気を吹き飛ばすかのように、途中の屋台でウィルが串焼きを買ってくれた。三人なのに何故五本なのかと思ったら三本がウィルの分で、食べ始めたのは一緒だったのに食べ終わるのは一番早いから不思議だ。
それにしてもウィルって買い食いとか似合いすぎ。
串はとりあえず収納に入れたけど、そろそろゴミをどこに捨てるのか知りたい。




