13 雑草は食べ物ではない
「……良かった」
レインはそっと胸をなで下ろす。鑑定はしたものの増血剤のポーションが本当に効くのかも分からなかったし、何よりシオンと呼ばれる男の人が漸く目覚めたから。
「シオンっ!」
「あっ、点滴下にしちゃダメ、逆流しちゃう」
そればっかりはどこの世界も一緒らしい。急いでクレンメを閉じると抜針をして回復魔法をかける。すると針を刺していた場所が治るからやっぱりスゴイ。この世界のゴミの分別を知らないレインは、廃棄物をどうすれば良いのか分からないのでとりあえず収納に放り込む。
「これ、もう一本飲んでおいて」
まだ気怠そうなシオンに増血剤のポーションを手渡す。
「君は……」
「レインって言って助けてくれたんだ」
ウィルがシオンにメドウラノス山脈からエレノワールの森までシオンを担いで逃走した話、オークとゴブリンに囲まれた話、デタラメな魔法——なんかヒドイ——とポーションの話を冗談っぽく説明する。
「ありがとう」
「ど、どういたしまして」
ふわりと微笑まれお礼を言われると、なんだか居心地が悪い。そんなタイミングでレインのお腹が盛大に鳴った。
「…………」
『レイン~魔力使いすぎたの~腹ペコ~』
「そうだよな、オークとゴブリンに魔法ぶっ放して回復しまくったもんな。俺、携帯食料しかねぇけど」
慌ててアイテムボックスからなにやら取り出すウィル。
「さ、さっき作ったのがあるから」
ご飯は炊けて蒸らし終わった所だし、フライパンで炒めた生姜焼きっぽいもの、キャベツも千切りにして収納してある。真っ赤になったレインはいそいそとダイニングテーブルと椅子を取り出した。
「椅子は三つで良いか」
「……レインお前……家財道具全部収納してんのか?」
「ん、ベッドとか色々入ってる」
雨宮零の家電製品以外の荷物一式だからかなりある。本が書庫に入ってるからまだマシな量なのだが……
「それはあまり他の人に言わない方が良い」
どうやらシオンの微笑みは通常仕様らしい。イケメンの慣れないスマイル攻撃にレインはあたふたする。同じイケメンにしても砕けたウィルが救いだ。
「う、うん。とりあえずご飯普通に食べられそうなら二人にも出すけど……」
「俺は普通に食えそうだけど、シオンは」
確かにウィルはなんでも食べそう……その辺の薬草とかもポーションがなければ量を食べたら回復するとか言ってそのまま食べちゃいそうな雰囲気だけど、一応大怪我後の病み上がりだし食べられるのか聞いてみる。
「……ウィル、あれからどの位経った?」
「二日ってところだな」
「ふ、二日絶食で普通にご飯食べられるわけないでしょ!ウィルってバカなの?」
流石に二日何も食べて無い人に生姜焼きを出すのは気がひける。本当なら卵の入っていないお粥、しかも全粥じゃない方が良いけど、既にお粥は出汁と卵を入れてしまっているから仕方なしにそれを出す。
「とりあえずお昼はこれ食べて、」
「オートミール?これっぽっちじゃ足んねぇって」
「それは俺が頂くので差し支えなければウィルには普通に出してくれると有り難い……多分その辺の雑草を食べてもお腹は壊さないから」
「まぁ十八年生きてきて腹を壊した事は一度もねぇな」
微笑みながら何気にディスってるけど、自慢気なウィルはまったく気にしてない。それ褒めてないから、絶対。それに流石に雑草は食べないで欲しい。
「じゃあ、シオンさんは卵粥で、「シオン」」
「へ?」
「シオンで良い、俺もレインと呼ぶ」
「それは……」
なんとなくこの世界では一応年上だろうし、呼び捨てにするのは気がひける。ウィルはウィルってカンジだから違和感がまったく無いけど、やっぱりシオンさんかな。
とりあえずこの話題は無視しておこう。
「ウィルはお米食べられる?パンが良いならパン出すけど」
生姜焼きとキャベツを盛り付け、レインはウィルに訪ねた。
「両方」
「…………」
個別にして冷凍しようと思っていたから食パンもあるし、おやつ用の菓子パンもある。とりあえず食パン二枚を皿にのせ、茶碗にご飯をよそった。使ってなかった食器だけどクリーンをかけたから大丈夫なはず。
「美味い!」
わたしはお箸で食べているけど、目の前でフォークとスプーンで食べているのを見ると違和感がハンパない。
横ではレンゲで少しづつすくって上品に食べている。ウィルは少しシオンを見習った方が良いと思うレインであった。




