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01 ハッピーバースデー?

「「「雨宮(先生)、おめでとう(ございます!!!)」」」


「へ?」


 帰り際、突然の花束贈呈に一瞬何のことか分からず間の抜けた声が漏れた。

 看護師さん達に看護師長、同僚が勢揃い…………あたし、なんかしたっけ?

 そもそもこの二年の大半は研究機関へ出向しているのだから、思い巡らしても何の心当たりも無いから首を傾げるしかない。

 そんな中、腐れ縁かつ同期の佐藤君(自他共に認めるイケメン)がさも残念な生き物を見るようなしょっぱい目であたしを見た。

 ……その顔でそんな風にこっちを見るのはやめて欲しい。

 その視線は正直厳しい。


「……あ、論文が学会誌にのる、から?」


 海馬に蓄積されているであろう情報——頭の中の引き出しを大急ぎであけて——唯一思い当たった快挙(それ)を探り当てた。


「…………」

「……先生らしすぎ」


 しかもせっかく掘り当てた情報はどうやら明後日の方向だったみたい。


「……明日誕生日ですよね?」


「そうだったっけ?」


 質問に質問で返すなんて——馬鹿なのか?——と問われれば否定のしようも無いけど、忘れていたのは寧ろ積極的に記憶の彼方に押し込めて忘却していたからなのだから仕方無い。


 雨宮零(あまみやれい)、二十九歳。

 ……そう、明日で三十路の大台に乗るのだから祝う所ではない。


「雨宮先生こっちは暫くお休みじゃないですか~、せっかくだから今日みんなでお祝いして佐藤先生がキッカケにし……もごっ」


 何故か師長に口を塞がれる浜野さんは勤続五年目のそこそこベテランナースで(ちょっと空気が読めないけど)患者さんに人気でとっても可愛らしい。

 ちなみに既に祝うような歳でもない気がするから余計なお世話だ佐藤めっ!

 年齢=彼氏いない歴のあたしの傷に塩を擦り込まないで欲しい。

 余計なお世話だとは思うものの妙に関心する。イケメンは気配り完璧で行動もイケメンらしい。


「そっか、花束ありがとう……じゃ帰るね」


「雨宮っ!」


「?」


「あ、明日飯でも」


「……予定あるし」


 武士の情け的な何かなのか昔から誘ってくれるけど、あたしだって社交辞令を真に受ける程夢見る乙女でも頭が悪いわけでも無い。

 明日は久し振りの休みだから一日中ゴロゴロしたいし、ありもしない予定を口実に今度こそ帰路につく。



 (あ、帰りにスーパーでお米買って帰らなきゃな~今日確かポイント十倍だったのよね)


 駐車場に歩き始めれば既に頭の中は誕生日?何それ美味しいの?あっ、ケーキ食べる日だよね!からスーパーで買うものにシフトする。



***



「だからストレートに言わなきゃ分からないってあれほど……せっかく協力したのに」

他人(ほか)を牽制する暇があるなら通じる建設的なアプローチして下さい」

「雨宮先生、仕事以外には鈍いから」

「ヘタレ」



 誰しも時間(とき)は有限で、後悔なんてものは先に立たなかったり、一寸先の未来なんて人間(ひと)に予測なんてつくわけ無いけど。

 雨宮零にとって、年齢=彼氏いない歴の原因が腐れ縁かつ同期の佐藤だと知らずに済んだのは、これ幸いだったのかもしれない……






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