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王の威厳

 たぶん、きっかけはルナに助けられたからだと思う。だから、旅に出ようと思った。

 ただ、彼女にお礼を言うためだけに。

 そう思ったんだけど、予定は未定だった。

 すぐに彼女に出会ってしまい、なぜか王宮へと侵入して、旅立ちすらできていない。

 そろそろ親が迎えの来るのではないのかしら?

 まあ、そんなことは一切なく、全く俺とは関係ないはずの親の元へと来ていた。

 さすがに娘の呼び出しには応えるらしい。親の鑑だね。

 そして、来たはいいが……。


「デカい……」


 第一印象はそれだった。

 体もさることながら、なんかオーラがデカイ。圧倒される。

 もうあなたが戦いに出向くだけで制圧できるんじゃないですかレベル。

 いや、最終防衛線というわけか。上が弱くちゃ下が言うこと聞かんだろうし。

 脳筋だったから指差して笑っていいかな。

 とりあえず、俺たちは一歩後ろに下がって、ルナとリミュエールを見守っている。


「ええ…………」


 そしてルナとリミュエールと話を聞いた王様の第一声は驚きと落胆が入り混じったような声で、別にそれを咎めるようでも怒るようでもないようだ。


「考え直す気はないか?」


「別に捨てるわけじゃないですし、少しだけ時間が欲しいんです」


「……自分の体のこと、分かった上で言ってるんだな?」


「……大丈夫です。私とリミュは一心同体ですから。リミュがいれば私は大丈夫ですから。それに……私ひとりで勝手に出て行くわけじゃないですから。ほら、二人も」


 ルナに腕を取られて俺とアリーも前に出された。


「ひとりでどうしようかウロついてた私を見つけてくれたんです。背中を押してくれたんです。だから……この二人も一緒に」


「……素性が知れんのだが」


「そこの隣の村の出身でフレアっす」


「アリーです」


「……すぐ調べもつくか。どうやって入って来たとかは今更聞かん。聞いたところでだしな。うちの娘たちをよろしくな」


「正直よろしくされる側だと思いますが……」


 ただの放浪の旅だし。自分探しとかですらないし。

 ただ、ちょっといつもと違う体験がしたいって、それだけの旅なんですけどね。


「しかし、そんな用意で大丈夫か?」


「まあ……なんとかなるでしょう」


「そういう心構えが1番の命取りだ。旅がしやすいように少しばかりあつらえてやろう。しかし、すぐは用意できんから、1日ほどここで泊まっていくといい」


「なんか、すんません」


 不法侵入の上、何から何までやってもらうとは。

 しかし、俺の泊まる場所ってどこ?一人だけ外に放り出すとかやめてくださいよ?


「……女の子に無理をさせすぎたな。……まあ、ルナが他より強すぎたのもあったが……。ああ、すまない。戻っていいぞ。だが、フレア君と言ったか。……ちょっと君は残ってくれ。さすがにリミュエールの部屋に居座るわけにもいかないだろう」


「……ですよね」


 女の子三人は玉座の間から退場した。

 代わりといってはなんだが、俺は取り残されている。

 戻っていいと言われた後、俺はどうすればいいのだろうか。

 ひとまず監獄に入れられそう。旅に出るだけの予定だったのに悲しいなあ。多分犯罪は犯してないけど、囚われの身になりそう。


「……君は何悲嘆に暮れた顔をしてるんだ。別に取って食おうという話をしようというわけじゃないんだ」


「あ、そっすか」


「まあ、あの子達に何かしでかそうならうちの兵を使うことも厭わないのかもしれんが」


「……どうこうする気なんて、一般庶民の俺にそんな大それた気構えなんてないっすよ。ちょっと、後押ししただけだし、決めたのはあの二人です」


「……一週間だ」


「は?」


「今日で一週間、ルナは誰にも見つかることはなかった。昔から、隠れんぼが得意なやつだったな。戦いの時も敵に見つかったこともない。でも、君はルナを見つけて来た」


「懸賞金はいらないっすよ」


「誰もその話はしてないが。どうやって見つけたんだ?それだけは聞きたいな」


「……いや、彼女が近づきすぎただけっすよ。俺たちと違う匂いがしたし、アリーに一度触ってたんで分かったんです」


「……不用意にあいつが近づくとも考えにくいけどな……なんかあったのか?まあ、いい。答えはルナ自身が見つけるだろう。……リミュエールがいたらそれも難しいかもしれんが。時に君は好きな子はいるのか?一緒に来たあの子とか」


「いや、あれはただの幼馴染です。脈があるかないかで言えばどちらもあると思いますが、なんと言いますか家族のような安定感が……」


「どうした?」


「これ以上は闇夜で暗殺されかねないので自粛します」


「庶民も大変だな……」


「王族ほどでは」


「じゃあ、なんだルナか」


「……は、確かめたいってところですかね。ホントにただお礼を言いたかったんですよ。俺、川に落ちてルナに助けてもらって。……ひとめぼれ、したのかもしれませんね」


「うちの娘は脈ないか……」


 あの子色々と危うい気がする。それに関連してルナに好意を抱いてもなんか問題があるような気がする。

 誘ったのは間違いなんだろうか。


「……まあ、あいつらも同年代の子が近くにいなかったのは事実だ。女の子で兵隊たちは自分たちの娘ぐらいに年が離れてるからそれはもう甘やかしまくってな」


 もしかしたら見つからなかった理由ってそれだったりしないですか?

 一週間見つからなかったのではなく、誰かしら見つけてはいたけど、見過ごしていたとかない?


「まあ……二人とも可愛いと思いますよ……」


 なんか言葉を選ばないとこの人に殺されそう。実際可愛いと思うのは本心であるけど。

 会って間もないのもあるし、まだ完全にどのような人物像なのか把握したわけでもない。

 幼馴染でさえ、まだ掴めてないぐらいだし。あいつの場合はなんかコロコロ変えるから読めないというか、本当の自分を見せる気はないようにも感じられる。

 人間隠してることなんていくらでもあるだろう。それは人生を重ねることで積み重なっていく。

 全てを知ることなんて不可能に近い。

 でも、知りたいと思ってしまう。


「……ひとつ聞きたいことがあります」


「なんだ?」


「リミュエールはあなたの娘であってますね?」


「ああ、そうだが」


「じゃあ、ルナは。一体どこから……」


「……彼女は拾い子というか、養子だ。まだ、私が戦線に出てた頃、ある出向いた町の教会で里親を探していた。今こそリミュエールがいるが、その時はまだ子供がいなくてな。それだけの理由だ」


「……彼女の親は?」


「わからん。……だからこそ、ルナはここでしか生きていけない、そう私は思ってた」


「……でも、ルナはあなたが親代わりでよかったんじゃないですかね?」


「そうだと……嬉しいな。私を見限って出ていくのかと最初はそう思った」


「すべて話してるんですか?」


「聡明な子だったからな。10の時には話したよ」


「そっすか……」


 10歳で自分の本当の親じゃないって言われるってどんな心境なんだろうか。

 でも、支えてくれる存在がいたから今までここで生きてきたのだろう。

 本当の親を探したいとか思わなかったんだろうか。

 ……あまり人のデリケートな話にそこまで踏み込むこともないか。


「もし、君がルナを選んでくれて、ルナが君を選んだとしたなら、私は喜んで送り出そう」


「いやいや、俺にはもったいないですって。こんな一村民に」


「身分なんて気にしてるようじゃ器が小さいぞ」


「普通娘を嫁に出すなら、相手の将来性とか見るでしょう」


「なら、うちで雇うか」


 親が聞いたら腰抜かしそう。いや、逆に泣いて喜ぶか?色々と薄情な気もしてくるな、こう適当だと。

 ただ、村で学生やってた奴が、ひょんなことで王宮勤めの女の子に助けてもらって、王宮で働くことになりましたって、どんなシンデレラボーイストーリーやねん。ここで完結してしまう。


「ここで働くかどうかは旅が終わり次第……はい、お願いします……」


 喜ばしいことなんだろうが、仮に王宮で働くことになったらどうなることやら。

 想像ができない。したくもない。

 しかし、戻ったら戻ったらで居場所あるんですか?なかったら、ありがたくここでの働きに従事することにしよう。


「まあ幸い部屋はいくらでもある。どこでも使え……とは言えないが。しかしながら、その部屋は私でもある一つのルート以外は行き方を知らない。王宮の中からだと、リミュエール以外はたどり着けないだろうな」


「……ルナの部屋は?」


「……あてがってはいるが、リミュエールがルナに入れ込んでるから、ルナはだいたいリミュエールのところにいるらしいから、あまり意味はなしてないが。……望みとあらばルナの部屋を案内させるぞ」


「……ぜひに、と言いたいですけど、ルナがそれを許可しますかね」


「いないんだから別に構わないだろう」


「いや……」


 血は繋がらないとはいえ、親代わりをしてきたのだ。親ってこんなもんなの?

 一応人のプライベートの空間なのだから、遠慮してやれよ。


「……普通に客間に案内してください」


「分かった。ソルダー、この子を客間に案内してやってくれ」


「はっ」


 30行くか行かないかぐらいだろうか。兵士にしてはまだ若手ぐらいな気がする。そもそも兵士って何歳ぐらいからなるものなんだろう。徴兵されたりするんだろうか。それとも志願?

 しかし、王様の近くで護衛をしているのだから、かなり有望株なんだろう。


「どうぞ。こちらへ」


「……あの、俺がなんなのか、聞いたりしないんですか」


 玉座の間を離れて、俺は一人の兵士につられ、回廊を歩いていた。

 特に何を話されるわけでもなく、ただ淡々と進んで行くのでこっちがなんとなく重苦しくなって話しかけていた。


「大半は聞いていた。……王はもっと人を疑うべきだ」


「……まあ、普通はそうですよね。俺が隣の村のやつかどうかすらも怪しむべきだ」


「が、まあ、隊長が一緒にいたというのが、1番の信用たる要因だろう」


「……ルナは本当に隊長になれるほど強いんですか?」


「……実際を見ないと分からないだろうな、俺は五年ほど前に新米兵士としてここに来た。すでに彼女は作戦指揮官を務めていた。当時はもっと幼かったからな、そんな少女に戦場の指揮を取らせるのかって疑心暗鬼だったよ。……幾度となく戦いを繰り返した。……彼女が就いてからは……敗戦は一度だけだ」


「一度?何かミスが?」


「……負ければ賊軍、勝てば官軍。当初は叩かれてたよ。実戦経験もない女にやらせるからこんなことになるって。その女にどれだけ勝たせてもらってきたんだって、話だけどな。……胸糞悪い話だけどな、隊長を作戦指揮官から降ろすために誰かが誤情報を流したって話だが、その方が信ぴょう性は高い」


「降ろされた……?一定の年齢になったから作戦指揮官から近衛兵隊に昇格したとかじゃ……」


「見方の悪いやつから言わせれば、王様のお気に入りだから直近に置かせてるだと。……まあ、俺もそんなもんかもしれないけどな。たまたま運が良かったから王様の直近にいる」


「……性格の悪いやつもいるもんですね。人を貶める前に自分の至らなさを鑑みるべきだ」


「世の中どうしようもないやつはいるもんだ。そういう奴をたくさん抱え込んでるところから崩れていく。逆にいえばどうしようもないやつをうまく飼い慣らすのが、勝っていく秘訣なのかもな」


「……それで、ルナを貶めようとしたやつって……」


「悪事はバレる。クビになって左遷されたよ。……旅に出るんなら、気をつけた方がいいかもな」


「そっすか……」


「ここが客間だ。内線があるから、用があるならそれを使ってくれ」


 旅館かよ。

 正直ここで身を休めるよりも、アリーでも見てた方が落ち着くんだが。

 ソルダーという兵士が立ち去るのを見て、俺は客間の扉を開いた。


「わっー!」


「うお!」


 入った瞬間に突撃があった。

 そのまま押し倒された。


「つつ……誰だ、ったく……」


「お疲れ様だねフレア君」


「アリー……お前、リミュエールとルナについてったんじゃなかったのか?」


「ルナちゃんが説教食らってたから逃げてきた。その辺歩いてる人に客間がどこか聞いて忍び込んでおいた」


 よくもまあ、よく分からんやつに適当に教えたもんだな。


「ここに来るのはいいが、帰れないだろ」


「別にここに泊まればいいじゃん。ベッド二つあるし」


「……なんのために俺一人だけ離されたんだ……」


「まあまあ、幼馴染をそう邪険にするもんじゃないよ」


「余計なことしない。いいな」


「はーい」


 俺はこいつの保護者か。旅行に来てワクワクが止めれないキッズを止めないといかんのか。


「あと、暑いからはよどきなさい」


「もーつれないなぁ」


 スキンシップが大好きなんだよなこいつ。俺に対しては過剰なぐらいだけど。


「……やっぱりルナちゃんがいいの?」


「分からねえよ。自分の気持ちがわからんまま、誰かに好きだとか言えんわ」


「まあ、私は選り取り見取りですから、フレアにフラれたところでだけど」


「お前のやってること言いふらしたらどうか分からんけど」


「意地が悪いなあこの幼馴染」


「お前ほどじゃない」


「まあ、仲良しなのがいいことなのだよ」


「そーさな。……アリー、お前、俺にイタズラしかけるためだけに来たのか?」


「うーん。慰めに?」


「なんの」


「まあまあ、誰かといた方が一人でいるよりも孤独に感じることはないでしょ。知らないところで一人でいるのは悲しいことだよ」


「そりゃ、まあ……慣れないところだし」


「ま、日が昇ったらルナちゃんが迎えに来てくれるらしいから。今日は疲れたでしょ?早く寝たら?」


「……そうさせてもらう」


 川に溺れて、ルナに助けられて、ルナが行方不明になってて、それを見つけて、王宮に入り込んで、姫様に会って、王様に話つけて……。

 1日に色々やりすぎだ。正確には2日だが。

 ただ旅に出るだけの予定だったのが、とんだ寄り道だ。

 アリーが何を期待してたのか分からんが、しっかりとした寝床で寝るのはなんだかとても久しぶりな気分だ。

 ゆっくりと休ませてもらうことにしよう。





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