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非日常を望んだ少年と日常を望んだ少女(3)

「クレト〜暇だろ〜俺たちに恵みをください!」


「乞食にやるもんは一切ない。帰れ」


 訪ねたものの冷たくあしらわれてしまった。暑いことには変わりないのだけど。


「あんた人望ないの?」


「友人だとは思うんだけどな?」


 疑問形になってしまう時点でかなり怪しいものはあるが、人口の少ないこの村でなかなか一芸に特化したやつを探し出すのは骨が折れることなのだ。俺みたいになんの取り柄がある?みたいなやつもいることだし。いや、大多数の人間がそうだと俺は信じてやまないけど。


「仕方ないわね。私が頼んであげるわ。クレト〜ここにいたら干からびるからせめて水分だけでも分け与えてください」


「さっきからお前らはなんなんだ⁉︎このクソ暑い日に外で歩いてなんの話もなしに勝手に来て!」


「まあまあ、怒ると体に良くないわよ。あんたの腕を見込んで来たわけだし」


「はあ……ここに居座られてもこっちが迷惑だ。上がれよ。水ぐらいは入れてやる」


 というより、揃いも揃ってここの村の親は何をしてるんでしょうか?全員が全員1人暮らしなわけないんですけども。


「確か雨乞いに出かけた。お前らも雨が降るように祈ってくれ」


「こんな空調をガンガンに効かせた部屋にいるやつに言われたところでなんの説得力もないからやらない」


「なんでこんな暑いんだよ。太陽神がブチ切れたのか?おこなのか?」


「その辺りも解明してくれよ」


「俺ができるのはある情報を集めることだ。推論を確立させることじゃない」


「そうそう、その情報だよ。知りたいことがあるんだ」


「あんまりロクなことじゃない気もするが……なんだフレア」


「あそこ、王宮あるじゃん?」


「なんだ、あそこで働きたいのか?コネがあるか、その血筋じゃないと無理だぞ」


「誰も働きたくねえけど」


「じゃあなんだ」


「人探ししてんだ。あそこにルナっていう金髪の俺たちぐらいの女の子いないか?」


 クレトはその名前に反応したのか眉をピクリとだけ動かした。


「……お前、本気で知らないのか?」


「え?」


「フレア、その子すごく有名な子だよ。10歳にして王宮作戦指揮官。今は王宮近衛兵隊隊長よ?」


「へぇ〜」


「いや『へぇ〜』って、すごくおざなりな感想だな。もっと驚くところだろ。普通、どちらももっと熟練した男が就くような役職だ。んな若い年齢かつ女でそこにいるんだぞ」


 とても、そんな風には見えなかったけどな。ただの優しく可愛い女の子だったような気がするけど。


「さっき川に落ちたって言ってたけど、その人に助けてもらったの?」


「まあ、そう名乗ってたけど」


「どこまで流されてるのよ」


「……フレアはフレアで何してるんだ?笑えばいいのか?」


「あのさあ、お前らも人が川に落ちたってんだから普通心配するところだろ。なんで揃いも揃って笑いの種にしようとしてんだよ」


「正直お前って八つ裂きにしても死ななさそうな運をしてそうだし」


 いくらなんでもそんなことされたら僕でも死にます。こいつら人をなんだと思ってるの?その辺の一般人と俺はなんら変わりないんですけど。


「ふーむ。助けられたからさ、お礼したいと思ってさ。なんとか会えねえかなって」


「アポ取って許可が降りればワンチャンあるが、お前のどこにそんな接点があるんだって話になるしな」


「あと、できれば自分のことは忘れてくれると嬉しいってことも言われた」


「お前、どこに住んでるかとか言ったのか?」


「まあ、最初は送り届けようとしてくれてたぐらいだし」


「身分も違うやつにつきまとわれてもそりゃ迷惑だろ。もしくは、本当は外にいちゃ行けなかったところを見つかったってところかな」


「……逃げてきたのかな?」


「人の事情なんてわからんさ。用件が済んだなら帰れ帰れ」


「友人を冷たくあしらうもんじゃないぞ」


「まあぶっちゃけ涼みに来たってのが正直……寒くない?効かせすぎでしょ」


「効かせないとこいつらが熱持ってオーバーヒートするからな」


「こういうやつらが今の外の現状を作ってるんだと思うんだ」


「全く同意見ね」


「帰れ!」


「横暴だ横暴だ」


「そうだそうだー」


「なんだ?この民主政権」


「国は党首の一存で方針が決まってるから俺たちにそんな権利はないぞ」


「……お前、いつか謀反起こしそうだな」


「別に不自由してないからそんなことはしないけど」


「で、フレアの家は灼熱地獄だったか?」


「今朝方全部ぶっ壊れてよ〜明日からどうしよ」


「泊めんぞ」


「ケチ」


「私の家いいわよ」


「さすがに女子の家にお前の一存だけで行くのはな……倫理的にマズイだろ」


「惚れることはないって言ったのに」


「それとこれとは話が別だ。……そうだ」


「何か思いついたの?」


「旅に出よう」


「「はあ?」」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 思いつきで行動するのはどうかという意見いくらでもあると思うが、新しいものを求めるのであれば自分から行動しなければ始まらない。それはどんなことだって一緒だ。

 早速、家に帰って支度をしようと思ったが、外よりも密閉された空間であるので外より体感的にはひどかった。


「あー一応書き置きしておくか」


 旅に出ます。いつかは帰ってくると思うので心配しないでください。 フレア


「これでよし。しかし、旅に行くにも何を持ってけばいいんだ?着替えと寝具と適当に狩れる道具と調理器具ってとこか。しかし、俺はほとんど料理したことないから旅に出たあと生きていけるのかしらん」


 よくよく考えたら金もあまりなかった。すごく行き当たりばったりになりそう。

 いざとなれば、ヒッチハイクなり、突撃訪問でどこかに泊めてもらったりするか。

 どっかにたどり着けば日銭を稼ぐ程度の仕事ぐらい転がってるだろ。


「いや〜酷いわね、あんたの家」


「なんでお前いるんだよ」


「学校どうするの?いつ帰ってこれるかわからないのに」


「机の上で勉強することに疑問を感じてたところだ。ちょうどいいぜ。俺は当たり前のような日常じゃなくて、刺激のある非日常に憧れてたんだ」


「ふーん。……ちょっと待ってなさいよ」


「あんまり家の中に居たくないんだが」


「じゃあ、私について来て」


「またこのパターンかよ」


 もう痛いことに慣れてしまったのか痛いことには変わりないが、そのまま引きづられるようにアリーに連れてかれてしまっていた。


「うーん、旅かー」


「お前ついて来る気か」


「お目付役は必要でしょ?」


「クレトも誘うか?」


「来ないでしょ。外に出ること自体が今のこの天気じゃありえないわよ」


「まあ、旅っても当面は王宮だぞ?」


「1日で終わりそうね」


「終わればいいけどなあ」


「何かお礼の品物でも持ってったら?」


「相手は王宮の人だぞ。俺たちみたいなやつがお礼品持ってったところでほんとにつまらない品物だわ」


「一理あるわね……でも、お礼を言うだけ?それじゃあ」


「それもそれでなあ」


「言って、王宮も大概ここのものを献上してるわけだし、ここのものが物珍しいなんてこともないでしょうしねぇ」


 八方塞がりになってしまった。


「そうだ。いっそ、あの子に何をして欲しいのか直接聞き出そう。その方が早い」


「忘れて欲しいのと、突っ返されるだけでしょうに」


「お前は正論ばかり言って虚しくならないか」


「無駄な努力をさせないために言ってるんだから逆に感謝して欲しいぐらいよ」


 …………!!!!


「なんか外聞こえねえか?」


「海開きでもしたのかしら」


「時期的に遅いぐらいだろうが……しかもそんなぐらいで騒ぎ立てるかいちいち」


「あんたこそ正論かましてつまらない男って言われない?」


「無駄なエネルギー消費を抑えたいがための発言だから、もう少し涼しくなればじゃれ合いにも付き合ってやるわ」


「まあ、とにかく行ってみましょ。見ないことには始まらないし」


「そーさな」


 旅に出ると行ったものの、身軽であるにいいに越したことはないので必要最小限の荷物を抱えて、俺とアリーは外へと出た。


「意外に肌を隠してた方が涼しいぐらいだな」


「汗かくと辛くなるけどね」


「号外!号外〜!」


「号外?」


 村の中央地、まあ、村長の家がある付近でビラ配りがされていた。まあ、村自体半径5キロ四方で事足りるような面積しかないのだけど。


「おい、この子……」


「ええ」


 王宮近衛兵隊隊長、ルナ・ナイトハルト行方不明!事実上、近衛兵隊脱退か?


「まあ、こんな憶測だらけの見出しねぇ」


「今日のお昼頃?見たの」


「それぐらいだ」


「そこまで遠くに行ってないんじゃないかしら。あと、これ見てみて」


 配られた新聞の見出しの横には大きく、『王宮に連れ戻した者には懸賞金を与える』とあった。また、一女の子に横暴な話だな。


「簡単に捕まえられると思うか?仮にも近衛兵隊隊長ってことは、王宮の兵隊連中より実力が上だってことだろ?」


「そこは話し合いよ」


「……無理だろうな。そもそもほとんど面識のない俺たちの話を聞くと思うか?」


「まあまあ、難しく考えなくていいのよ」


「と言うと?」


「まずは、友達になりにいきましょ」


 とても下心が見え見えの接触を図ろうとしていたが、他にロクな方法などないので、ひとまずはアリーの提案に乗ることにした。

 ざわついてる人の群れをかきわけて、俺とアリーはセント村を出て行くのだった。

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