非日常を望んだ少年と日常を望んだ少女
男の子はいつだって力に憧れてきた。
ただ破壊するだけでなく、誰かを守れる力。
でも、そんなものは必要なかった。それを行使する機会がなかったのだから。
でも、だからこそ、そんなものを手にしたらきっと何かが変わると信じた。
手に入れる手段がなかったから。
だから、少年は普通の日常を当たり前のように過ごした。
それが自分にとっての当たり前だと信じて。
朝起きて、朝食を食べ、学校へ行き、使うわからない知識を蓄え、友人と適当に外で遊んだり、中で駄弁ったり、そんな日常を過ごした。
誰でもが自分たちの年代ならば、自分とあまり変わらないような生活をしているのだろう。そう信じてやまなかった。
都市部から離れた村にいたせいもあるかもしれない。
そこへは他のところへ行くかよりは近いかもしれないが、検問も厳しく、身分違いの自分たちが行くようなところでもないから寄り付くこともない。
だけど、そこへ行くことは若い時分としては憧れはあった。
そこには自分たちの知らない世界があると思っていたから。
「暑い……川辺にも行こうか」
ある日の昼になるかどうかの境目、暇つぶしに近所の散歩をしていたが、日が照って暑くなりどうしようもなくなったために、日陰の多い川辺へと進路を変えることにした。あまり整備されてないこともあり、近づくなとは言われてるけど、家にいても灼熱地獄、外で陽炎が見えるほどなんだから多少涼しいところに行こうというこの考えが誰に責められようか。
誰も責める人いないんですけどね。一人で歩いてるし。彼女の一人でもいたら清涼剤となって良かったのかもしれない。
「川辺に行ったら妖精の女の子でもいないかな……」
可愛くて優しいとなおさらいいですね。
そんな期待を持ってしまうのは太陽に頭をやられてる可能性しか考えられないんだけど、そんな太陽しかないこの地球にも問題があると思う。体感的にあと10度ぐらい下げていただいても何ら問題ない。そもそもそんな幻想的な生き物いません。
川辺へとたどり着くと、木々が生い茂り、緑も青々と生えてることもあって、村といえど近代化の進んだアスファルトの上なんかよりだいぶ涼しく感じられた。
「まあ、さすがにそんな都合のいい展開はないか」
そもそもそんなことがすぐに起きるのであれば、世界中出会いに満ち溢れてることであろう。俺に彼女がいないのがいい証拠である。何の証明にもならないか。
「……川下にでもいけば水遊びでもできるとこあるだろ」
あんまり近づかないこともあり、あまり地理的な把握ができない。川下って辿って行くとどこにたどり着くんだろう。
まあ、気にするほどのことじゃないな。
しかし、何事も誤算というのがあった。
整備されてないということは、誰も手入れをしてないということだ。
川辺の土手は地盤が柔らかくなっていた。
そこに足を踏み込んでしまい、そのまま川へと落下。
俺の意識はそこで途切れてる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ、生きてる」
急に目が覚めて体を起こした。
しかし、どう打ち付けたのかよくわからないが、あちらこちらとズキズキとした痛みがある。
「あ、起きた。よかった」
「うん?」
どうやら勝手にここに流れ着いたわけじゃなかったらしい。
誰かに助けられて介抱されていたようだ。
「ッツ……」
しかし、まだ痛みがあるせいで再び地面に倒れ込んでしまった。
「あ……まだどこか痛む?」
「どこかどころか全身痛い……」
「もう、私がいたからよかったものの、下手したら水死体だったよ、君」
声の聞こえる方へなんとか顔を上げてみた。
「可愛い……」
「へ?」
「ああ……いや、えっと……とりあえずありがとう」
「どういたしまして。動けそう?」
「まだ辛い」
「家はどこ?」
「もう少し川上の方のセント村ってとこだけど……」
「……あそこの村の人ここの川にはあまり来ないって聞いてたんだけどなあ」
「いやあ、家も蒸されてて灼熱地獄、近くの道も照り返しが酷くて涼みに来たんだけど、地面が緩くて、足踏み外して真っ逆さまで流されて来た」
「不幸中の幸いというか悪運が強いというか……」
「俺にとっては幸いだったよ」
「そう?」
「ああ、そうだ。お礼したいからさ、名前教えてくれよ」
「……ルナよ。あなたは?」
「俺はフレアって言うんだ。しかし、お礼と言ったが、何をしたもんか……」
「……出来ることなら、私を忘れてるくれることが一番のお礼かな」
「え、なんで。せっかく知り合ったのに」
「今日はきまぐれでここにいたけど、私はここにいる人間じゃないから。今までも……これからも。それだけ喋れるなら大丈夫そうだね。じゃあ、気をつけて。2回目はないから」
「あ……」
ルナと名乗った、彼女は瞬時にいなくなってしまった。
マボロシでも見てたのかと思いほおをつねってみたが、痛かったのでここであったことは現実なのだろう。
ここにいる人間じゃない?
なら、考えられることは……。
少し首を上げてみると、都市の王宮が見えるほど近くに来ていたことがわかった。
あまり長居してると、変に詰問されそうだ。言う通り早く帰るか。
「忘れてほしい……ね」
あれだけ、金髪の綺麗な髪をした可愛い子をなかなか忘れることはできないだろう。インパクトは十分だ。
「それにしても可愛かったなあ」
少し知り合いに彼女のことを聞いて回ることにしよう。
あそこにいると仮定するならば、かなりいいとこのお嬢様のはずだ。
もう一度会いたい。
その想いだけが、俺の心を躍らせていた。