第2話「殿下と約束」
ーー夜明けとともに、詩音の地獄は始まる。
護衛兼世話係の龍太郎に例の方法で起こされ、詩音は不機嫌だった。朝食を取る気分ではない。龍太郎は、今日も定刻通り詩音の寝室に来た。
「龍ちゃん、やっぱり4時は早い!」
「またその話ですか」
龍太郎がため息を吐く。
「殿下。4時でいいと、おっしゃってくれたではありませんか」
寝室の窓際にある丸テーブルに、龍太郎が持ってきた朝食が置かれる。今日のメニューは米粉パンとパンプキンスープ、サラダ、ハムエッグだ。龍太郎は、まだ寝台で寝転がっている詩音に、早く着替えるよう急かす。
「殿下。お着替えが済みましたら、朝食のほうをどうぞ」
黒と銀を基調とした軍服に着替えた詩音は、席につく。詩音は不機嫌のままだ。それに気づいた龍太郎が、詩音のお気に入り漫画、名探偵ドーナノを見せつけてくる。
「これ、今月の新刊です」
一気に詩音の顔が明るくなった。
「もう買って来てくれたの? ありがとう!」
漫画に触れようとした瞬間、サッと龍太郎が手を引いた。
「何?」
「今日から、お客様が来られるのです」
「分かった。愛想よく、常に笑顔でいればいいんだな」
そんなの楽勝だ。要は1日中ヘラヘラしているだけで、漫画を手に入れられるのだから。
「ご理解、ありがとうございます。殿下」
「よし! 食事が済んだら、客が来るまで笑顔の練習だ。付き合ってよ、龍ちゃん」
「はい。最高の笑顔でお客様を迎えられるよう、お手伝い致します」
この後、あんなことになるなんて、詩音は思いもしなかった。知っていたら、約束なんてしなかったのに……。
第2話、終り