第1話「殿下と起こし方が残念な護衛」
ーー夜明けとともに、そいつはやって来る。
紅を基調とした軍服を着、左の腰の辺りに剣を提げている青年は、規則正しい靴音を廊下中に響かせていた。しばらくすると靴音が止んだ。ここ虹砂国第二王子、色守詩音の寝室の前で、ノックを3回する。
「おはようございます、殿下」
殿下から返事はない。
「……失礼致します」
殿下の許可なく、寝室に入るこの青年、赤光龍太郎は殿下の護衛兼世話係。
龍太郎は、ズカズカと寝台まで行き、容赦なく毛布を剥ぎ取った。
「おはようございます、殿下」
殿下はまだ夢の中。当然、返事はない。毛布を取られて寒いのだろう、殿下が剥ぎ取られた毛布を引っ張り、すっぽりと頭までかぶる。
「おはようございます、殿下」
毛布にくるまれた安心感なんてつかの間、再び龍太郎に毛布を剥ぎ取られた。ようやく殿下が目を覚ます。
「おはようございます、殿下」
「……龍ちゃん。何度も言ってるけど、朝4時は早いよ」
「何度も言っていますが、早起きは何倍もの得です」
駄目だ、この世話係とは話が合わない。
「龍ちゃん……あと、5分だけ寝かせて」
「無理です」
即答。
どうしてこの世話係は、こうも頑固なのだろう。モテない要素は絶対これだ。気にかけている女性は大勢いるのにな。それに、顔はまあまあカッコいい……なんて本人には言えない。
「その性格、直してほしい」
詩音は、駄目元で言ってみた。
「無理です」
「……分かった。朝4時起きでいいよ」
「ご理解、ありがとうございます」
嫌これは、詩音が折れるしかあるまい。頑固な世話係を相手に他にどうしろと……。
「でも、1つだけ条件がある」
「なんでしょう?」
「毛布を剥がすのは止めてくれ」
これは、譲れないところだ。
「なぜです?」
「あんな起こされ方じゃ、よく寝たって気がしないだろ」
真面目な顔で、龍太郎に首をかしげられた。
「そうなのですか? おかしいですね……我が国のデータでは、起こす際、毛布剥がしが有効となっているのですが……取り敢えず、この方法でもう一週間やってみましょう」
龍太郎がニコニコと微笑んでいる。世の女性が見たら、即恋に落ちていただろう。しかし今、あれこれ考える余裕もないのだ。詩音は無性に、龍太郎に枕を思いっきり投げつけたい衝動にかられた。
第1話、終り