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戦闘試験

「時間だ。武器は決まったのか?」


 制限時間が終わり、問いかけてきた男に、僕は手にした小夜を見せた。


「これはまた随分と古い骨董品を持ち出したものだ。使い方はわかるのか?」


『骨董品ではありません』


 憤慨した小夜の声が頭の中に響く。


『マスター、骨董品ではないと主張してください』

『う、うん』


「骨董品じゃないよ。頼りになる武器だ」

「ほう、剣を手にし、覇気を得たか」


 僕の答えが意外だったのか、無表情だった男は少し眉を上げた。

 それにしても、小夜って一見クールな性格にみえて、案外そうでもないのかな……。


「よかろう、これより貴様を試験用フィールドに転送する。あの部屋に入れ」


 男がアゴで示す先にはエレベータのような小部屋があった。

 狭い部屋といえば最初の独房での出来事が思い浮かぶ。

 まさか、ここでグシャっと殺されることはないだろうけど、どうしても入るのを躊躇ってしまう。


『小夜、あの部屋は?』


 心の中で尋ねる。


『移転用の発着室です。ここから試験用フィールドまで瞬時に移動が可能です。特に危険はありません』


 僕の不安を取り除くように小夜が説明してくれた。本当にありがたい。


 部屋へ入ると、ドアがスライドして閉じる。

 部屋の中には僕一人だ。


 すぐに、ヴンッという音がし、体の浮くような感覚。

 思わず目を閉じ、もう一度開くと、移転は終わっていた。


 周囲を見渡すと学校の体育館くらいの、だだっ広い空間。

 明るさは充分で部屋の隅まで確認できる。

 コンクリートのような無骨な石材で壁、床、天井を囲まれ、他には何もない。


 足の裏がひんやりと冷たい。

 そういえば、靴どころか靴下も履いてなかったな、と改めて自分の格好を見おろす。

 裸足にジャージ。

 こんな状態で戦えるのだろうか。


 そこはかとない不安を感じている最中、天井の方から声が届いた。


「これより戦闘員・能力試験を始める。試験時間は15分。規定時間を待たずターゲットが破壊された場合はその時点で終了とする」


 始め、という合図と同時に、僕の前方10メートル先に巨大な機械が出現した。


 歪な戦車というのが、それに対する第一印象。

 中央の四角い本体から無数の砲台らしきものが飛び出している。


 唖然としながらその禍々しい姿を見上げていると、それらの砲台が一斉にこちらを向き、その時になってようやく僕は、巨大な兵器と生身で相対している現実を認識した。

 強い恐怖が背中を駆け上がってくる。


『さ、小夜!』

『ライトシールドを展開。出力レベル1』


 小夜の言葉と、辺りが轟音に包まれるのはほぼ同時だった。

 僕は身をすくませ、目をつぶる。

 しかし、予想した衝撃や痛みはいつまでたっても襲ってこない。

 恐る恐る顔を上げると、激しいマルズフラッシュを炊きながらこちらに銃撃を続ける戦車の姿が目に映った。

 驚いたことに、その銃弾は僕の数歩先で見えない壁に阻まれ、弾き返されている。


『こ、これは』

『簡易的な対物理シールドです。物理現象に起因した攻撃は全て無効化します』

『す、凄い……』

『それほどでもありません。一般的なソードジェネレーターであれば標準で備える機能です』


 そう言った小夜の声音にはどこか嬉しそうな響きが含まれていた。


『そ、そうなんだ。ソードジェネレーターって凄い武器なんだね』

『現在、軍事目的で使用されている兵器の中では最上位に属すると認識しています』


 えっへん、という言葉が聞こえてきそうな調子で小夜が答えた。

 僕は、心の中で『わ〜、パチパチ』と、惜しみない賞賛を送る。


『ようし、このままあと15分耐えられるかな?』

『問題ありません。ですが、試験官の目をごまかすために、こちらからも攻撃を行いましょう』

『こ、攻撃するの?』


 僕は、前方で狂ったように火を吹く巨大な鋼鉄の塊を見つめた。


『あれを?』

『はい。ターゲットの正式名称はリドル製・無人戦闘機36型。壁役にもならない使い捨ての兵器です。ソードジェネレーターの遣い手であれば一太刀で破壊できます』

『一太刀で……』

『さらに、マスター程の剣力を持ってすれば、念じるだけで切断可能です』

『……それって無茶苦茶強くない?』

『はい、ご自覚がないようですが、マスターの戦力レベルは帝国規定でS、最高ランクに該当します』

『最高ランク……』

『ちなみに、Sランクの下にはA〜Fランクまで存在し、試験用の無人戦闘機はFランクに分類されます』


 まるで実感が湧かないけど、小夜を装備した僕は、目の前の戦車より遥かに強いらしい。


『では、マスター、判定用のデータを偽装しますので、適当に一振りしてください』

『う、うん』


 僕は小夜を両手で構え、ゆっくりと腕を上げた。

 上段に達したところで動きを止め、静かに前をみつめる。

 VRMMOゲームの中で何度も何度も繰り返した動作だ。

 手の中の小夜がまるで自分の一部であるかのように馴染む。

 前方で壁のように立ち塞がる戦車を見ても、もう恐怖は感じなかった。


 あれを斬る。


 何の気負いもなく、その思いを剣にのせて振り降ろそうとしたときーー


『だ、ダメです!』


 慌てたような声がかかり、僕は腕を止めた。


『どうしたの?』

『そ、そのように本気を出されては実力を隠蔽できません』

『あ、ごめんね……どんなふうに振ればいいのかな?』

『えーと……かまぼこを』

『か、かまぼこ……?』

『はい、かまぼこで作られた壁を斬るイメージでお願いします!』


 い、いまいち想像しづらい……のだけど、会心の説明ができたという自信に溢れた小夜の声を聞くと、もう一度尋ねるのは躊躇われた。


『う、うん、できるだけ、ゆっくり振ってみるね』

『はい』


 僕はいつもの素振りをスロー再生するように振ってみる。


『さすがです、マスター』


 賞賛する小夜の声。

 それとほぼ同時に、鋼鉄の巨体が縦にずれた。


「え?」


 見間違えかと思った瞬間、威容を誇った戦車が轟音と共に爆発した。

 高速で飛来する金属片が周りの床や壁を傷つける中、僕は小夜が作ったシールドの中でブルリと体を震わせた。

 なんという威力なのだろう……軽く振っただけなのに。


「ターゲットの破壊を確認。これにて戦闘員・能力試験を終了する」


 どこか遠くのほうで、試験官の起伏のない声が聞こえた気がした。


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