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ソードジェネレーター

「ついて来い」


 牢獄から出た僕に、男はそう一声かけて歩き出した。

 正直、逃げ出したい気分なのだけど、男の腰のベルトに拳銃のようなものが差さっているのを見てためらう。逃げたら撃たれるかもしれない。


 迷いながら、ふと右を見ると、冷蔵庫に似た機械が牢屋の前を掃除していた。


「あの……隣にいた人は?」

「あの男は不適合者だった」


 振り返った男が、まるで実験動物を観察するような視線をこちらに向ける。

 そのガラスのように温度を感じさせない無機質な瞳を見て、僕はそれ以上口を開けなくなった。


「行くぞ」


 再び歩き出した男の後を仕方なく追う。


 しかし、ここはどこなのだろう?

 周りを見ると、何やら未来的な雰囲気。

 まるでSF映画にでてくる軍事基地の内部のようだ。

 メタリックな素材の壁に、一定間隔で照明パネルが埋められている。


「お前にはこれから試験を受けてもらう」

「試験?」

「簡単な戦闘試験だ。その結果次第で配属先と階級が決まる」


 今、不穏な単語が聞こえた気がする……。


「できれば、試験は……キャンセルしたいのだけど」

「キャンセルだと? 貴様にそんな権限はない」


 男に睨まれ、僕は言葉を失った。

 彼を怒らせたら、虫けらか何かのように簡単に殺されるーーそう確信できるくらいに冷たい視線だった。


「さて、試験を受ける前に武器を選ぶといい。所持できる武器は一つだけだ」


 通路をしばらく歩いた後、武器庫のような部屋に案内された。

 部屋には見たこともないガジェットが所狭しと並んでいる。


「ソード系統の武器は右奥にある。15分以内に選べ」


 ソード系統の武器か。

 その言葉を聞いて連想するのは某有名映画に出てくるライトセーバーだ。

 フォースのない僕が装備したら、敵の銃弾を跳ね返せず簡単に殺される未来しか見えないのだけど……。

 ああ、こんなことなら銃を使えると言っておけば良かった。


 そんな後悔を胸に抱きつつ、最初に目についた警棒のようなアイテムを手に取ってみる。

 黒塗りの強化金属みたいな素材で作られているようだ。

 使い方はよくわからない。


 そっと元の場所に戻し、他の武器を探すことにする。


 なるべく高価そうな物を選ぼう。

 そんな装備で大丈夫かと問われる場面では、一番いいのを頼むのが生き残るための鉄則だ。


『ーーそこの人』

「へ?」

『声を出してはダメです。あの男に気付かれる』


 直接、頭の中に語りかけられるような感じがした。

 戸惑いながら辺りを見回す。


『私の声が聞こえたら、静かに頷いてください』


 僕は黙って頷く。

 これっていわゆるテレパシーというやつかな。SFだなぁ。


『よかった。では右方向の棚に注目してください』


 右を見ると、天井まで届く棚にたくさんの武器が詰め込まれている。


『下から二段目、右端にあるソードジェネレーターを確認できますか?』


 言われた場所には、古びた日本刀の柄のようなものが置かれていた。

 刃もツバも付いていない。柄だけだ。

 ソードジェネレーターというのはこれだろうか?

 手を伸ばし、それに触れる。

 その瞬間、頭の中でキンっと音が鳴った。


『双方向の意思疎通が可能になりました』


 そう告げる女の子の声。

 僕は多少緊張しながら、頭の中でつぶやいてみる。


『あの……僕の声、聞こえますか?』

『はい、聞こえます、マスター』

『……マ、マスター?』


 どういう意味だろう?


『僕、ちょっと今、混乱していて……質問したいことが山ほどあるのだけど』

『はい、私にわかる範囲でしたらお答えします。ただし、声には出さず思念通信でお願いします』

『うん……あっちの軍人みたいな人にバレると問題があるの?』

『私のような自律型・電子生命体は危険存在として排除されます』

『電子……生命体なんだ』

『はい。ですが、マスターに危害を加えることはありません』

『その、マスターって僕のこと?』

『イエス、マスター』


 なんだかよくわからないけど、銃を持った男よりは安全そうな気がした。

 手に取った剣の柄をしげしげと眺める。

 電子生命体というのはAIみたいなものかな?

 しゃべる武器ってロマンあるよね。テンション上がる!


『この中に君がいるの?』

『その通りです、マスター』

『君のことは何と呼べば?』

『以前は小夜と呼ばれていました』


 僕はまごうことなきコミュ障だけど、電子生命体相手だとそうでもないらしい。

 普通に会話できてる気がする。


『よろしくね、小夜。僕は柊翔太。翔太って呼んでね』

『いえ、マスターと呼ばせていただきます』


 あ、あれ?


『う、うん、好きな呼び方で構わないよ。じゃあ、時間もないから、さっそく質問するけど、ここは一体どこなんだい?』

『ロフ帝国に所属する軍事要塞セパン内の武器保管庫です。現在の星間座標は 278 - 054 - 399 - 623。惑星名はキャリバーIIIです』


 星間座標……?

 僕は地球へ帰れるのだろうか。


『えーと、地球という惑星の場所はわかるかな? 太陽系第3惑星で……あ、心が読めるなら、説明不要?』

『いえ、マスターの記憶を全て読めるわけではありません。指向性をもって発せられた念波のみ確認できます』

『指向性……念波?』

『マスターが心の中で私に語りかける時、生体念波が発生します。私はそれを観測しています』

『過去の記憶を送るにはどうすればいいのかな?』

『通常の会話と同じく言葉を組立てる必要があります。将来的にシンクロ率が上がればイメージ転送も可能ですが、現在のところ実行できません』

『なるほど、じゃあ、地球については一旦置いとこう。今知りたいのは、僕の置かれた状況、これからどうなるのかってことなんだけど』

『マスターがこの要塞にきた経緯を教えていただけますか?』

『うん、それがね、僕にもさっぱりわからないんだ。家でゲームをしようとしたら、次の瞬間、牢獄に入ってた』

『可能性として最も高いのは、因果律干渉による平行世界からの召還処置ですね。帝国では兵士を補充する際によく行われる手段です』

『うーん、もしかすると、パラレルワールド的な別世界に呼ばれたってこと?』

『はい、その認識で正しいです』

『どうしたら元の世界に戻れるかな?』

『戻ることはできません。召還は不可逆的です』


 よろけそうになるのを、なんとか踏みとどまった。

 父さん、母さん、妹の顔が目に浮かぶ。もう会えないのだろうか。


『む、向こうの世界で、僕はどうなってるの?』

『論理的には原子構成物、すなわち身体が消失しています。観測はできませんが』


 こんな僕でも、突然いなくなったら家族は心配するはず……本当に最後まで迷惑ばかりかけてるな……。


『……マスター、大丈夫ですか?』

『う、うん。ごめん、ちょっとショックが大きくて』

『武器の選択時間が、残り10分を切りました。早急に今後の方針を決めるべきです』

『そ、そうだね。どうしよう。ここから逃げられるかな?』

『扉の前にいる男を排除することは可能です』

『ほんと? むこうは銃を持ってるし、すごく強そうだけど』

『戦力的にはマスターのほうが上です。加えて、あの男はこちらが武器を使用できないと考えています。実際にはセーフティ機構を私が無効化できるため、奇襲的な攻撃が可能です。よって、マスターの勝利はほぼ確定です』


 僕はゴクリと唾を飲みこんだ。


『ただし、最終的な安全確保を目的とするなら、ここでの戦闘は避け、一旦、帝国の兵士として編入されることを推奨します。軍に所属後、隙を見て離脱するほうが、単独でセパン要塞から脱出するよりもはるかに安全です』

『戦闘試験というのがあるらしいけど、大丈夫かな?』

『一般的な戦闘試験の危険度は、あの男と戦う場合に比べ、千分の一以下です』

『試験が終った後、小夜を取り上げられたらどうしよう?』

『通例であれば、使用した武器はそのまま兵士へ配付されます。仮にわたしを取り上げられる事態となった場合は徹底抗戦が必要です』

『な、なるほど』


 そうして僕たちは、これからの方針を話し合った。

 逃亡するには、できるだけ目立ってはいけない。

 注目を浴びれば離脱のチャンスが減るという小夜の言に従い、試験では実力を隠すことに決めた。もちろん僕の実力ではなく小夜の実力をだ。僕には隠す程の力なんてない。

 一応、小夜は僕の能力について申し分ないと言ってくれたけど、まあお世辞の類いだと思う。


『ありがとう、小夜。君がいてくれて頼もしいよ』

『マスターに尽くせることに喜びを感じます』

『これからよろしくね』

『イエス、マイマスター』


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