問答なき再会
王城へと侵入した佐久間一行は、真っ先に地下牢を目指した。
先に宰相グレゴリアスを救出するためだ。
道中には何度も騎士に襲撃されたが、大した損傷は受けない。
佐久間が突進して隊列を乱し、その隙に残るメンバーが遠距離攻撃で敵を撃破していく。
元より全員が優れた能力を持つ四人だ。
正規の騎士を相手取っても、一方的に蹂躙するばかりであった。
およそ十五分後、佐久間たちは地下へと続く階段を発見する。
螺旋状のそれは石造りで、薄暗い上に湿気を帯びていた。
なんとなく進むのを尻込みしそうな不気味さがある。
階段を下りていくと、地下牢へと辿り着いた。
そこには数名の騎士が待機していたが、彼らは俯いたまま動こうとしない。
侵入者の存在には気付いているはずなのに。
「あの騎士……ライドウから黙認するように言われているんだろう。まあ、賢明な判断だ。おかげで無駄な死者が減った」
佐久間はそれだけ言うと、さっさと鉄格子を引き千切って牢屋の中を覗く。
壁に背を預けて腰かけていたのは、宰相グレゴリアスであった。
しかし、その外見は以前とは大きく異なる。
身体は不健康に痩せ細り、顔や手足にはいくつもの生々しい傷跡が残っていた。
衣服もみすぼらしいものになっている。
ここへ収容されてからは劣悪な扱いを強いられたのだろう。
最初は呆然と虚空を見つめていたグレゴリアスだったが、鉄格子の異変に気付いてゆっくりと顔を上げた。
「ゆ、勇者殿……? なぜここに……」
佐久間は腰の刀をコツコツと叩きながら答える。
「処刑日に宣言しただろう。国王を殺しに来た」
「でしたら、なぜ私のところへ――」
「お前が気にすることじゃない。事が済むまで大人しくしていろ」
そう言って佐久間はグレゴリアスの腕を掴んで立たせると、彼をカシフに押し付ける。
「傷の治療と食事と風呂だ。あとは任せた」
「へいへい、了解」
佐久間はマリーシェとユアリアを見て言葉を続ける。
「お前らは二人のサポートを頼む」
「その間、あなたはどうするのかしら?」
ユアリアが意味深な視線で尋ねる。
返ってくる内容を予測できているのだろう。
「王を屍に変えてくるだけさ。大して時間はかからない」
「独りで向かうつもりなの?」
「あいつだけは、俺が殺さなくてはならない。それに、宰相を守ることも大切なことだろう……信用しているからこそ、任せられる」
言い終えた佐久間は、早足で階段を戻り始めた。
そんな彼の背中に声がかけられる。
「旦那様、どうかお気を付けて」
マリーシェだった。
彼女はいつもの鉄仮面のまま、ぺこりと礼をする。
佐久間は一瞬きょとんとした後、苦笑気味に頷いた。
「あぁ。俺がいない間はユアリアとカシフの命令を聞け。くれぐれも怠りのないようにな」
「承知しました」
何時も変わらない返事を最後にやり取りは途切れる。
佐久間は今度こそ仲間のもとからいなくなった。
目指すは王の居座る謁見の間。
二人の勇者が、異世界より召喚された場所だった。